●頑張る吸血鬼

リアから魔術や魔法の基礎の基礎を教えてもらい、今朝から、正確には声の主と初めて会偶してから使っている、魔力を広げての知覚範囲拡大の細かい原理については理解できた。

「じゃ、そろそろ練習しましょうか」

「何をするの?」

未だ基礎の基礎知識ぐらいしか学べていないのに、何をするのかとこてりと首を傾げる。

「さっき説明した魔力の性質変化よ。これはさっきも言ったけど、魔法や魔術を使いたきゃこれが出来ないと殆どの技が使えない基本中の基本の技術。だけど、この変化が最初の難関でもあるのよ」

「なんかんって?」

「難しい問題のことよ」

質問されるのにもだいぶ慣れたのかすらすらと答えてくれるようになった。

「それじゃあ、やるわよ。まずは頭くらいの大きさの魔力を出して」

「うん」

これは簡単に出来る。

「これを、そうね。土に変えてみて」

「土」

頭の中で何度も触った土を思い浮かべながら魔力をコネコネする。だが、形は変われどとても土とは呼べるような物にはならない。

「んー?」

「流石にこれは出来ないか。じゃあ、この砂を持ちながらやってみて」

「分かった」

リアから渡された袋に手を入れて、土を取り出そうとする。

「それは辞めて。外に出したら掃除するの面倒じゃない。だから袋に手を突っ込んだまま操作して」

「うん」

掴んだ土を元に戻して、袋に手を入れたまま魔力を変えようと一生懸命操作する。

「むう」

「変えるって操作がやっぱり難しいみたいね。まあ、初めてで出来るやつなんてよっぽどの変態でもなきゃ出来ないけど。じゃあ次は、そのままさっきやった探知をやって、それで感じた事を声に出してみて。やる時は範囲は広くなくて良いから、この土をより詳しく見ようとするイメージでね」

返事をする余裕がないほど集中する。

まずは自身の周りだけに探知を絞る。そして全体的に広げている魔力を袋全体を覆うようにする。

「うわ、不安定にならずに魔力集中と魔力塊の位置を変えることまで出来てる。想像力と操作力が豊かな子ね。もう、基礎で教えることは性質変化だけみたいね」

袋の中を集中して見ていると、土を一粒一粒認識できるようになり、さらにそれらが普段感知できないほどの微量の魔力を持っていることが分かった。

「魔力の粒が一杯ある…」

「よし、それを魔力で表して初めて性質変化が出来ているって言える状態よ。形だけを同じにするんじゃなくて、魔力濃度が限りなく高い状態で、それぞれ表したい魔力に似せることで全く同じものができるの。でも、土みたいに小さい粒を一つ一つ魔力で作ってたら、流石に魔力やら血管やらが切れるわ」

リアは少しだけ笑いながら頭をコツコツと叩くと、笑顔をより深めて“それに”と続ける。

「魔法や魔術みたいに、魔力で現象を作ったりするのにそんな非効率的なことを一々したくないのよ。戦ってる時にそんなのを一々考えてたら大変じゃない。だからこういう時は発想を変えるのよ。その袋頂戴」

「はい」

「ありがとう。例えば土なら、このどこにでもある普通の土が纏ってる魔力に自分の魔力を流す」

リアが袋から手掴みで出した土にリアが魔力を込めると、土の魔力が段々と薄い色になっていった。

「私の手のひらにある土をそのサーチ擬きで見てみたらわかるだろうけど、自然の魔力に生き物の魔力を込めると、自然の魔力が同じ性質のまま込めた魔力に応じて変化するわ。私の魔力が橙色だから、土の色と似てる分変化が薄いけどね」

自分の魔力、と言ったところでふと、自分の魔力は何色なのだろうかと思った。

「俺の魔力は何色なの?」

「あんたの魔力は青色よ。しかも濃色ね。まあ、この濃さは魔力濃度が関係するんだけど、色自体には大した意味がない、って言われてるから気にしなくて良いわよ」

「そうなんだ」

「ええ、今は魔力の性質変化について考えなさい」

「分かった」

朗らかな表情で持っていた土を袋に入れ直してから渡して来た。

「あ、あんたの手ってあんまり大きくないわね。まあ、流石に私以下とは言わないけれど、あんまり大きくないんだから、溢したら面倒だし袋に入れたまま魔力を込めなさい」

「うん」

受け取った袋に再び手を突っ込み、土を握り締めながら魔力を込める。初めての事なので慎重に魔力を込めたら気のせいか、と本当に微妙な反応だが少しだけ土の魔力に反発感を感じたが、より魔力の性質を近づければ全く反発感など感じず、むしろ初めからこうあったかの様にも思えて来た。

「あら、想像以上にあっさりいったわね。ちょっとは土の魔力と反発しなかったの?」

「んーん。土と同じ魔力にしてたら簡単になったよ」

「へえええっ」

なにやらリアの目が怪しく輝いて見えた。

そしてすぐに目を閉じるとぶつぶつ呟き始めたので、何となく話しかけても無駄な気がして性質変化の練習を再開した。

(土の魔力と合わせることは出来たけど、この魔力って動かせるのかな?………んー、動かせることは動かせるけど、大きさが変わらないからあんまし意味がないかなー)

と、考えた所で今動かしているのがさっきリアが言っていた一粒の土の魔力であることに気がついた。

(リアが具体的に何を言っていたのかは分からなかったけど、大変そうだなっていうのは分かった。だけど、俺は今やってみてもあんまり大変だとは思わないな。一粒だから大変なんだと思ったけど、ふくろの半分をコネコネ動かしても一粒と変わらないね。もしかしたら粒を作るんじゃなくて使っているからかな)

まだリアが帰ってこないので、暇つぶしに土を魔力で作ってみることにした。

(んぐ、土と同じ性質にしたのに、土よりも薄いな。あ、じゃあ濃くすれば良いのか)

妙案が浮かんだとつい口元が緩んだが、魔力濃度を上げる方法を知らないことに気がついて唖然とした。

「は…っ。…ふーっ、危なかった。記憶が跳ぶところだったよ」

硬直から抜け出したところでチラリと視線を向けてもまだ考え中だった。

一体、なにをそれほど考えているんだろうと気にはなるが、今は対して益にならなそうなことに気を割けるほど時間的余裕がない。

泣く泣くリアから注意を逸らすと、魔力濃度について考える。

(リアは俺の元々の魔力濃度が濃いから魔術より魔法の方が良いと言った。逆を言うと、濃くなくても使えるのが魔術と考えられる。なら魔術は土の魔力と合わせた物を操るのかと考えると、前に見た水を出す魔術を思い出すと違うと思う。多分、出すのと操るの、どっちもだと思える。どっちもだと考えると、今俺が出来ない魔力濃度の問題も、少なくとも魔術なら超えられるんだと考えると合っている気がする。だけど、その方法が分からないのが問題だ。一応、何回かリアが魔力で作った模様は見たけど、あんまり詳しく覚えてないんだよね)

チラリ、とリアを見てもまだ考え中だった。

それも少し笑っているので、楽しんでいるのだろう。それはあまり邪魔をしたくないので、今日の魔法の授業は辞めてアドルクに教えてもらおうと外に出る。








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