●修行する吸血鬼

リアとアドルクはずっと叫び続けるのも疲れたのかパタリと倒れると寝始めた。すると眠くもないので暇になり、知覚範囲を広げる例の方法を改良しようと四苦八苦したが、結果は著しくなかった。せいぜい球体だったのが形を変えられるようになったくらいだ。そうして暇を潰していると日が登り、暫くすると二人も起き始めてのろのろと袋から食べ物を出した。その出した食べ物を残さず食べた。食べている途中で二人は完全に目が覚めたのか引き立った顔をしていたが、そのまま食べ続けた。

「満足っ」

「お、おお、そりゃあ、良かったな」

「ええ、良かった、わね」

二人は引き立った笑顔で反応していたが目はこちらに向けず、お互い見つめ合って片方の瞼をパチパチさせていた。

その姿を不思議に思いつつ、意識を食事から強くなることに向ける。

(もしかしたら食べたことで知覚範囲が広がってるかもしれないしね)

体を構成している魔力を意識して、そこから余分に出ている魔力を大きく広げるイメージで動かす。すると、自身を魔力の球体で包んでいるような状態になった。

「変わってないかぁ。……ん?ちょっと広がっている?のかな」

(うーん、そう言えば目が覚めた直後はお腹が空いてて気にしてなかったけれど、多分あの頃から魔力が増えてるような気がするんだよね。ちょっとだけど。あの頃と比べると、2割くらい増えたのかな?じゃあ、満腹になったからか、魔力が増えたから広がったと考えて良いよね。満腹時はともかく、魔力が増えたことで広くなったなら今後も広がる可能性も広がるから良いんだけど。あまり期待し過ぎない方が良いね。たった1週間未満じゃそんなに変わらないと思うし)

もう考えてもあまりいい案が思い浮かびそうにないので一旦考えるのをやめ、目を二人の方へ向けると驚いたような顔で見つめていた。

「お前、さっきの何したの?めっちゃやばい量の魔力出してたけど」

「え?分かんないけど、魔力を広げたらいろんなことが見てきたみたいに分かるようになるんだよ」

説明すると、アドルクとリアはすごい量の汗を噴き出すように垂れ流し始めた。

「……いろんなことってどんなことだ?」

「この家の周りとか?」

「あああああああっ」

「非常識にも程があるでしょっ」

アドルクは頭を抱えて奇声を発し、リアは身を乗り出して叫んだ。

「何が?」

「さっきあなたがやったことよ!」

「魔力を周りに出しただけなのに?」

「あなたがいつも垂れ流してる魔力だけで怪物だと思ってたけど、あれ無意識の量だったのね!?おかしいとは思ってたのよ!長時間サーチを使い続けるなんて普通集中力が持たないはずなのに、あなたは少なくも私と出会った時からずーっと魔力を出してたからどれだけ集中力があるのって!」

聞き返したが微妙に会話が噛み合っておらず、困ってしまう。

だがアドルクは持ち直したのか抱えていた頭から腕を離し、真剣な目で話しかけてきた。

「お前、俺たちに教わらなくてよくね?」

持ち直してなかったようだ。

「必要だからお願いしてるんだよ?」

「いや、お前なら適当に魔力の塊をぶつけるだけでそこらの相手なんて跡形もなく消えるだろ」

「えー、でもあの声のひとに全く当たらなくて一方的に攻撃されただけだったんだよー」

「えぇ、あれを平気で使ってたお前にドン引きしようと思ってたのに、それを普通に避けてるそいつにドン引きだわ」

「もう、そろそろ話はやめて強くなれるように教えてよ。あまり時間はないでしょ?」

「それもそうだな。じゃあ、俺らは飯がまだだから食べながら教えるわ。おい、リア行くぞ」

アドルクが声をかけるが、リアはまだ持ち直せておらずぶつぶつと呟き続けていた。

「あー、そういやこいつって一旦ペースが乱れたら中々戻らなかったな。あんまりにも会わなかったから忘れてたわ」

一人でウンウンと頷きながらもリアの頭に張り手を喰らわせて正気に戻らせた。

「痛いッ!ちょっと何すんのよ!私の頭はあんたみたいな筋肉で覆われてない繊細な頭なのよ!?」

「嘘つけ、お前と昔から共闘した時戦ったキングオーがから一発良いの貰って吹っ飛んだくせにピンピンしてただろ。……ん?!お前今俺の頭が筋肉塗れって言わなかったか!?」

「言ったわよこの脳筋!それが何か?!」

「ああ?!俺のこのインテリ感あふれる頭の何処に筋肉が詰まってるんだぁ!?」

「見なくてもあんたの頭ん中に詰まってるもんなんて一目瞭然でしょ!」

「あったまに来た!今日と言う今日はお前のその無駄に囀る口をぐちゃぐちゃにしてやる!」

「やって見なさいよ!」

この短期間で何度も見させられた二人の喧嘩姿を見て、違うことを考えていた。

(そういえば、さっき俺の知覚範囲が広がるやつを見てびっくりしてたなぁ)

という訳で、魔力を無駄に使うのも嫌なので一瞬だけ広げてすぐに解除した。

「「!?」」

また驚いた表情でこちらを向き、固まった。

「強くなる方法、教えて?」

「「はいっ」」

何故か背筋を伸ばして元気よく返事をし、キビキビと出て行った。

「変なの」


「死ぬかと思った…」

「私も…」

「今度から、喧嘩するにしてもあいつにだけは迷惑をかけないようにしようぜ…」

「ええ…」

さっきまで騒いでいた二人だが、何故か静かに相談をしていた。特に気にする事でもないが。

「俺はどうすればいいの?」

「ふぅ…。そうだな。まだこいつとどう教えるか相談してないからなぁ」

「大した考える必要ないでしょ。あなたが体術関係、もしくは武術関係。私が魔術、もしくは魔法って分けた方がわかりやすい上にお互い得意分野を教える訳だからあれこれ考えなくて楽でしょ?」

「それもそうだな。じゃあどっちから教える?」

「私は少しどう教えるか考えるからアドルクが先に教えてあげて」

「おう、了解。てことで俺から教えてやるよ。だが、俺の戦闘スタイルは大剣を振り回すことを軸に組み込まれた武術、体術が中心だ。だから下手な癖を付けないように基本の歩法と体の動かし方しか教えてやれねぇから、そこは理解してくれ」

「うん、わかった!」

「おし。じゃあ始まるか。まずはお前がどれだけ動けるかを見るから軽く走るぞ」

アドルクは一方的に告げるとすぐに走り始めた。

「よしっ」

それについて行くために、アドルクがどう走っているかを一瞬だけ見て真似るように足を早く動かそうとした。

「うえっ」

だが足が縺れて転んでしまった。

「お?何転んでんだよ。ドジったか?」

戻ってきたアドルクが笑いながら起こしてくれた。

「アドルクみたいに走ろうとしたら足がもう片方の足に引っかかっちゃって」

「そうか。だけどそんなんじゃいつまで経っても強くなれないからな。次はゆっくりで良いから気をつけて走れよ」

「うん!」

肯いたのを見て、またアドルクが走り出した。それを、追いかけるようにさっきよりも気を付けながら足を踏み出し加速するも、何故かアドルクの何倍もの速度が出て頭を地面に擦るようにして数メートル進んだ。

「うわっ!え!?なに!?」

朦々と土煙が舞う中、アドルクが突然そんなことが起きて呆気に囚われているとゆっくりと土煙が地面に落ち、顔を伏せるようにして倒れている少年を見つける。

「えええええっ!?」

だが、ただ走ろうとしていただけでここまでの土煙が立つのはおかしいとさらに混乱する。

「びっくりした…」

そんは混乱の極致に立っているアドルクのことなど全く気付いていないまま、立ち上がってアドルクの方に向き直る。

「失敗しちゃった」

「そんな次元の話じゃないよな!?なんで走るだけでスタート地点から数メール先で倒れるなんてことがあるんだよ!」

「早く走り過ぎちゃって」

「ゆっくりって言ったよなぁ!?話聞いてたぁ?!」

「走るのって難しいよね」

「そんな難解なものじゃないから!お前が平気で作ってた魔力の剣の方がよっぽど難しいから!」

「そんなことよりもう一回やろ?」

「やるんだけどさぁ!」

その後もアドルクは叫んでいたが、時間がある勿体ないのでまた驚かせて静かにして走り始めた。だがまたも盛大に転び、アドルクの土手っ腹に頭突きをかました。

「もうアレな!お前運動向いてないから走るな!」

「えぇ!?じゃあどうやって強くなればいいの!?」

「リアの魔術があるからそっちでなんとかしてくれ!お前が強くなるより俺が怪我する方が絶対早いし、走るのもままならないとかどう鍛えていいかわかんねぇ!お前を鍛えるなんて俺には無理!」

「分かった…」

とぼとぼとリアの方に歩いていく。

「…ぁ」

落ち込んだ様子で歩いていく姿を見て、無意識に声が漏れる。

この時は木が揺れる音さえなかったため、嫌にアドルクの太い声が響いた。

「……何か、言った?」

その、蚊よりも小さな声がなんの悪戯か聞こえ、止まって振り向く。

「…」

アドルクにはその目に自分が写っているのか、それとも何も写っていないのか分からない。ただここで教えを放棄することは、この死も恐れ得ない少年怪物との約束を反故にすることになるのでは、と考える。

「……それをやるのは、許されねぇよなぁ」

「え?」

「悪りぃ、言いすぎたわ」

突然喋り出したと思ったら謝り出したアドルクに困惑する。

「そんな事はないよ。俺がちゃんと出来ないのが悪いんだから」

「いや、一つできないからって全部できなくなるわけじゃない。それに、こんな初っ端から交わした約束を反故にするのは俺の主義に反するんだよ」

「しゅぎって何?」

「あー、説明が難しいな。強いて言えば俺が絶対に守りたい約束、ってやつかな」

「そうなんだ」

「あ、そうだ。お前は今でもかなり強えんだから、出来ねぇ基礎からより心根から固めた方が良さそうだな」

「しんこん、って言うのを固めたらどうなるの?」

「心根は主義と同じで、一度決めたらそれを簡単に破ったら駄目なものだ。これは一見自分の行動を締め付ける物だが、いざって時これを持つ奴ともたない奴とでは生きる価値が変わる」

「んー?強くなるのと生きる価値が変わるのって同じなの?」

「生きる、ってことは死ぬまでの全ての行動を指すことだと俺は思ってる。それはつまり、戦うってことも同義だ。負けるのも生きるってことだが、価値のない負けをしない為には強くなって勝ち続けなきゃいけねぇ。何でだと思う?」

「ん〜〜〜〜〜〜、分かんない。そんなに価値を付けないと駄目なの?」

「この価値を付けるのはお前だよ。他人がなんて言っても、お前の人生はお前のものだ。お前が死ぬ最後の瞬間にお前の人生の価値は決まる。それまでは高くなったり低くなったりするんだよ。だから、ずっと高くあり続ける為には一つ一つの行動に高い価値を付ける必要がある。…価値って言葉にピンときてない様子だな。あー、要するにだ。ずっと楽しいって思えることができたら良いってことだ。分かったか?」

「う、ん」

実感は湧かずとも、楽しいと感じたことはある。それがその時は楽しい気持ちでいっぱいであった為に無意識下でしか思っていなかったことであるが、今はあの時、ずっと続けば良いと思っていたと分かる。アドルクはその思いを言葉にして教えてくれたのだ。

「よし。ここからがお前にして欲しいことだ。お前の生に楽しさを生み続ける為に主義を決めてもらう。これは簡単に破ってはいけないものだし、簡単に変えてもいけないものだ。だが決め方は簡単だぞ?お前がこれから生きていく上で、何をしたくない為にどうしていくのかを言葉にして自分で決める。これだけだ。あと、これは長い文章にするよりも一言でまとめれる物にする方が良いぞ」

「分かった」

アドルクの忠告に頷き、自分の心根を、自分の変えたくないと思えることを探す。

(俺は、何をしたく無いんだろう。嫌なことかな?んー、これはされたく無いことでもあるよね。嫌なこと、嫌なこと。………名前、俺の本当の名前があるのに、俺が今は持っていないって分かった時、嫌、だったな。俺の物を取られたりするのが嫌なのかな。だったら、俺の物を取られないって言うのが主義になるのかな?でも、他には嫌なことないのかな?だったら嫌なことをしない、でもいいんじゃないかな。あ、名前を取られたのが嫌だったから嫌なことをされない、かな。でもこれで、本当にずっと楽しくいれるのかな)

「ねぇ、アドルク」

「お、決まったか?」

「んーん、相談したいの」

「いいぞ。自分で決められることだけが全てじゃないからな」

「これかな、って考えたのがあるんだけど、これで本当に良いのか分からなくなって」

「なんだ?とりあえず何にしようとしたのか聞かせてくれ」

「“嫌なことをされない”にしようかなって」

「悪くねぇが、それだと受け身過ぎるな。もうちょっと何かをしたいって言う方がいい」

「んー、そういえばアドルクはどんな主義なの」

「“一度決めたことはどんなに辛くてもやり通す”、だ」

「長いじゃん」

「あ、確かにそうだな」

あまりにも堂々と言っていた忠告をアドルク自身がやっていたことに、2人は堪らず吹き出した。

「だがやりたいこと、やりたくない事は全部載せてる主義だ」

「うん」

それは伝わっている、と伝えようとアドルクの目を見て頷く。

(ぼ、俺は…。ん?ぼ?何を考えようとしたんだろ?……ま、いいか。それより、もっと自分から前に進むような文章。受け身な文章が“嫌なことをされない”だったから、あれ?楽しい事しかしないになるね。あ、両方を混ぜないといけないのか。楽しい事しかせず、嫌なことをされない。なんかまとまった感じがしないなぁ。楽しいの邪魔をするのは許さない。違うなぁ。あ、そうか)

「“僕の邪魔をするモノは許さない”」

「あ?」

「ん?」

無意識に呟いてしまい、それが何かを考える前にアドルクが不思議そうに見ているのに気づいて見つめ返す。

「なんで主語が変わってるんだ?」

「え?」

「あと呟いた時、ちょっと魔力が動いてたぞ?」

「え?」

「………無意識か?」

アドルクが何度も質問するも、意味のある返答が出来ない。その様子にアドルクは適当に見切りをつけ、頷く。

「ま、意識して考えた末に無意識下で結論がでたならそれが本音ってことだろ。俺も集中して聞いてたわけじゃないからちゃんと覚えてないし、これで心根を固めるのは終わりでいいか」

「うん。うん?」

「まあ、無意識で分かったのが思い出せなくてもやもやしたのが残ってるのは仕方ねぇよ。でも生きてりゃその内分かってくるさ」

「うーん」

「はっはっはっ、今悩んでもしょうがねぇし、俺の修行は今日は終わりだ。次のリアんところに行ってこい」

「うんっ。ありがとう、アドルクっ」

「別に大したことしてねぇよ。それよか明日の修行、楽しみにしとけよ。ちゃんと考えとくからよ」

「分かったっ。じゃあね!」

リアがいる家の中に入る。

「リアーっ、強くして!」

「いきなり、って訳でもないけど早いわね。まあいいわ。今日の準備は終わってるから」

「お願いしますっ」

「いい声ね。まず、私は魔力を使う上で便利な理論を教えるわ」

「りろん?」

「簡単に言うと研究されたことの内容をまとめた事とかそんな意味なんだけど、今回の場合は色んな説明を組み立てた知識って意味ね」

少ししか理解できなかったので首を傾げるが、気付いていないのかリアはそのまますることに移行する。

「まず、魔力というのは通常なら目に見えないわ。だから魔力を使う前に魔力を認識、つまり感知しないといけないのよ。ここで魔力について説明するわね。魔力はなんにでもなることができる極小の物質。このなんでもっていうのは本当になんでも、っていう意味かは分からないけれどね」

「わからないの?なんで?」

「膨大な量の研究をして来た中で、結果的には魔力を使って変化できなかった物がなかったからよ。それは同時に、何に変えられないのかがはっきりと分からないと言うことでもあるの。まあ、それでも今まで変えられない物はなかったから、暫定的に全てって言われてるの」

「そうなんだ」

「この万能物質である魔力を把握するために、まずは自分の中にある魔力を把握することからはじめるんだけど、それが出来るあなたには関係ないわね。………ここまで違和感がなかったけれど、名前がないとちょっと面倒ね。仮にでも名前を決めちゃわない?」

「いや」

「仮によ?名前を取り返したら捨てたら良いじゃない」

「違うよ。名前を変えないんじゃなくて、変えられないんだよ」

「どういうこと?」

「俺にとって名前は俺の全てに等しいんだ。だから変えようとすれば俺の身体も魂も全てが拒否反応を起こすし、無理やり変えたら俺は死んじゃう。本当の名前が分かっていればそんなことも無いんだけどね」

リアは少し訝し気な視線で見てくる。

「記憶がないんじゃないの?」

「記憶じゃないんだよ。なんでかはわからないけど、名前を変えるってちょこっとだけかんがえてみるだけでも、あ、これ無理だってわかるんだ。わかる時は魔力が俺の操作を受け付けなくなるから、あまりなりたくないよ」

「なんだか感覚的、いや本能的ね。まあ良いわ。名前を取り戻してくれさえすればこんな不便をしないで済むし」

「頑張ります!」

「えーっと、そうそう、魔力感知のことを言ってたわね。まずはあなたがどの位広いのか分からないからやってみて。それによってこの後することが変わるから」

「魔力感知って、魔力をぶわーって広げるやつのこと?」

「ぶわーが何を指してるのか分からないから頷けないわね。取り敢えずぶわーをやってみて」

今朝やっていた事を思い出す。体内を巡っている魔力を部分からではなく、全身から勢いよく吹き出すっ。

「ッッ」

咄嗟に、という感じにリアは腰を浮かせていたが、一つ息を吐くと落ち着く様にゆっくり座った。

チラチラとリアが視界に映って気が散るので目を瞑る。が、視界に映っていないはずのリアが今何をしているのかが全て分かる。もっと広げて感じると、リアの動きを感知しながら外でアドルクが大きな剣を振っているのがわかった。

もっと広げてーー

「その辺でいいわ」

「え?まだ出来そうだよ?」

「馬鹿げてるわね…。もう大体分かったから大丈夫」

何か言いたい、でも言えないみたいに口をもごもごさせているけれど、もうやる意味がないとわかったので広げていた魔力を回収する。

「へー、使った魔力を回収して自己回復が出来るのね。ならあのサーチに似た技術も何度も出来るって訳か」

リアは何度も呟きながらウンウンと頷いている。まさか今のが初めてやってみた試みだとは、全くこれっぽっちも考えていない顔だ。

「よし、やっぱり貴方は魔術よりも魔法を使った方が良さそうね。魔術は前説明したわよね?」

「うん」

「何だったか言える?」

「んーっと、魔力で丸を描いたら水が出たやつ」

「まあ、簡単にしか言わなかったからそれくらいしか言えないか。あなたが使うのは魔法だから関係ないと思うけれど、聞く?」

「うん!」

絶対叶えたい目的があっても、知的好奇心は無くならないのだ。

「魔術というのは、決まった法則通りに魔力を動かす、または流すことで一定の効果を及ぼすことが出来るの。この時の魔力は魔法と同じなんだけど、属性や変えたいものに魔力を近づけた高濃度魔力を使うの。でも、魔術は魔術陣が濃度を上げてくれるから低くても問題ないけどね」

「えーと」

「ちょっと説明が少なかったかしら。もっと分かりやすく言ってみるわね。魔力を変えるって言うのはさっきやった言った通り、魔力自身が万能、というより千変万化なのよ。だから私たちが把握できる以上に変化するけれど、そもそも全く変えてない魔力自体が普通は触れることができない物質なのよ。だから変化させて私たちが干渉しやすいように変化させるの。でも、魔力濃度って言うのが低いと変化させても私たちの干渉を受けにくいのよ。だから魔力濃度を上げて事象への干渉力を上げるの。でも上げ過ぎても干渉を弾くから自分の干渉できる限界を見極めていないとダメだからね。ふう、ここまででわからないところはある?」

「うん。でも俺の知覚範囲を大きくしているアレはどうなっているの?」

「魔力をあなたの視覚や聴覚みたいな感覚器官に状態を近づけているのよ。普通は初めてだと、どんなに広げても殆ど気が付かないくらいしか分からないんだけど、あなたの場合は魔力濃度がめちゃくちゃ高いからそのまま使うだけで効果が高くなっちゃっているのよ」

「そうなんだ」

「ええ、でもあなたはまだ未熟だけど、もっと使い方が上手くなっていったら、今よりももっと色々と分かるようになるわ」

リアが伝えた知覚範囲拡大の技術の可能性に驚きつつも、少しずつ声の主に近づいている実感が湧いてきた。そのおかげかより頭の回転が上がり集中してリアの話に耳を傾けていく。

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