●欠片を見つけた吸血鬼
30分ほど歩くとアドルクが止まった。
「アドルク?」
「異変を感じた時は木屋にいたからはっきりとは分からねぇが大体この辺だったと思うんだが、何もねぇな」
「へー」
アドルクの言葉に相槌を打ちながら周囲を観察する。
「この辺ってなんかあったかぁ?」
アドルクは何かが気になるようで顳顬を指で叩きながら何かを思い出そうとしている。
「あ、少し先に《ファラシャス》の遊技場跡地があるじゃねぇか」
アドルクが思い出したのは以前、アドルクと初めて会った時に言われた言葉だった。
「前にも聞いたけど、その《ファラシャス》の遊技場跡地って何?」
「お前に前あったっけか?ま、いいや。昔に《ファラシャス》って言う悪党がいたんだが、そいつは世界中から恐れられるほどクソ強かったんだよ。でもそいつはいろんな種族から選抜された強くて勇気がある奴らが倒したんだ。その《ファラシャス》が住んでた城とその周辺を《ファラシャス》の遊技場って言ってたらしいんだが、《ファラシャス》が死んじまったから今は《ファラシャス》の遊技場跡地って言われてる。それが近くにあるんだよ」
「そんなことがあったんだね。それと分からなかったんだけど、あくとうって何?」
「悪党が分からなきゃ話の半分も分からねぇだろ!」
「そんなことないよ」
「じゃあ言ってみろよ」
「《ファラシャス》さんって言う強くて怖い人をゆうき?があるいろんな種族出身の人が《ファラシャス》さんが住んでた場所を襲って殺した場所が《ファラシャス》の遊技場跡地なんでしょ?」
「わかってるっぽいけど《ファラシャス》を倒した英雄が悪いみたいに言うの止めろよ!人聞きが悪いだろ!?」
「え?ここに俺とアドルク以外に居ないよ?」
「居ないけどそんなことはもう絶対に言うなよ?!本人とか面倒な奴らに聞かれたら庇い切れねぇからな!」
「うーん?よく分からないけど、ダメみたいだから止める」
「はぁ、そうしてくれ」
アドルクと話しながら歩き続けているといつの間にか木漏れ日が大きくなってきていた。そして少し先では森が途切れているようで、もうすぐこの涼しい木陰ともお別れしなければいけないようだ。少しも歩く速さを緩めなかったのでほとんど時間もかからずその場所に到着した。少しの間暗い場所にいたからか直接浴びた日の光が眩しく感じ、目を閉じてしまう。
「やっと着えええええええええッ!?!?」
「そんなに叫んでどうしたの?」
いきなり叫び出したアドルクに目を向けてもアドルクは目を剥いて驚愕したままなのでアドルクが驚いていた場所に目を向けると少しだけ懐かしい風景だった。
「あ、ここ俺が目が覚めた場所だ」
「えええええええええええッッ?!?!」
少し落ち着いてきたと思ったら今度はこちらを向いて驚き出した。
「そんなに叫ばれたらうるさいよ」
「え、いやだって、えええ?!」
アドルクは混乱してるみたいだから落ち着くまで起きた時出来なかった散策をしよう。
「そういえばこの辺で異変があったって言ってたけど、何かあったのかな」
自身が起きた場所なだけに関心は尽きない。
「ええっと、俺が起きたのはなんか丸く凹んでる場所の真ん中だったはずだったよね」
目が覚めた場所に足を進めてみると、自身が目が覚めた場所には禍々しい赤黒い色の魔力を発した縦に四角い何かがあった。
「あの変なのってなんだろ?起きた時はなかったと思うんだけどなぁ」
(今ほど何かを知りたいと思う気持ちはなかったけれど、起きた場所にあんな風に立っていたら絶対気になると思う。だから目が覚めた時はあの場所にはなかったって考えた方が自然だよね。て言うことは後からあの場所に現れたって言う事なんだけど、それはそれで意味がわからないね)
あまりにも謎すぎる物体について考えながら近づいてみる。
(近くに来てもなにもして来ないし魔物とかじゃないのかな?)
恐る恐る触ろうとするが、簡単に触れていいものとは思えず、なかなか踏ん切りが付かない。
恐々といろんな方向から観察しながら触るか触らないかを真剣に考えていると、アドルクが走って追いついてきた。
「テメェ、勝手に行くんじゃねぇ!」
「なんで?」
「こんなわけも分からねぇ状態で勝手に弄くり回してえらいことになっちまったら責任なんて取れねぇだろうが!」
「えらいこと?」
「俺たちじゃ手がつけられねぇやばいことってことだよ!」
「なんでせきにん?を取らないといけないの?」
2度も質問すると熱くなっていた頭がいくらか冷静になったようで、ため息を吐くと説明を再開した。
「俺とリアにも立場ってものがあるんだ。面倒くせぇが、最初に頭下げて加入させて貰ったし、いつも金払いの良い仕事を回してもらってる分、人様に迷惑をかける可能性が高いことに首を突っ込む訳にゃいかねぇんだよ」
微妙に回答が間違っている気もするが、アドルクが取り敢えずどうすることもできないし、する気もないことが分かった。それにこの話ぶりからしてリアも同じようで、付き合ってはくれなさそうだ。
「でも、これがとっても気になるなー」
いつもは聞き分けが良いのに今回だけは中々引かないことを不思議に思い、アドルクは質問してみることにした。
「なんでそこまでこの訳わかんねぇ黒い箱にご執心なんだ?」
「ごしゅうしん?」
「気になるってことだ」
アドルクからの思わぬ質問に考え込んでしまう。それは本当に無意識にこの謎の黒い箱に惹かれていたことに起因する。
(なんでこんなにも気になるんだろ?今までこんなに気になることなんてなかったのに)
自身の中に生まれた新たな疑問の答えを探すように、謎の物体に目を向けつつも意識は自身の中へ向ける。
(俺はこの謎の物体があるところで目が覚めたのは確実。だからかな?なんか違う気がする。この物体の形が好きだから?それはないか。じゃあなんだろ。そういえばこの箱、俺の魔力に近い色をしてる気がする。なんだろう、気が合う、みたいな感じなのかな)
そう結論づけ、アドルクに報告する。
「ねぇアドルク、この箱が俺と近い魔力を発しているんだけど、ここで目が覚めた俺と何か関係があると思わない?」
「お前って口調は人懐っこい感じなのに、言ってることがリアみたいに理路整然としてて馬鹿にされてる感じがしてなんか腹が立ってくるな」
「それ、俺なにも悪くないよね」
「ま、いいや。いくらベトベトに理由を付けたって俺だけじゃこんな物判断出来ねぇよ」
「そっか。分かったよ」
名残惜しそうに目を向けつつ、アドルクの言っていることに納得する。
「ほら、こんな荒れてる場所なんだ。他にも何か気になる物があるかもしれねぇぞ」
「それもそうだね」
少し落ち込み気味になっていたからか、アドルクが気を遣って他に目を向けようとした時、二人に聞いたこともない声で話しかけられた。
“おいおい、なにもそんなにすぐに帰ることはねぇじゃねぇカ。ちっと遊んでいけよ”
その瞬間、謎の物体から赤黒い魔力で構成された手のようなもので襲いかかってきた。
「くそッ」
突然攻撃されたせいで反応が遅れ、咄嗟に隣の少年を抱えつつ背中に背負っていた大剣を攻撃に合わせてぶつける事で吹き飛ばされるようにして回避する。
「チィッ、想像以上に重てぇ一撃だな!」
悪態を吐きつつ、アドルクは真剣に攻撃してきた物体を見据える。
(アドルクのこんなに真剣な顔、初めて見た。アレってそんなにやばいんだね)
周りにある情報を拾うために色んなところに目を向ける。
“オメェ、意外と強ぇナ。遊ぶっつったが全く期待してなかったのによ。ま、俺のほうが強いがナァッ”
なにやらアドルクを認めるような事を言いつつも声の主の方が強いと威張っている。
(アドルクは真剣にあの箱を見ているけれど、片手がプルプル震えてる。俺を片方の手で支えてるから大変なんだね)
簡単に状況をまとめ、自分の行動を決める。
アドルクに抱えられている手を、強制的に外すとそのまま地面に落ちた。
「ッこんな時になにしてやがる!」
「あのくらいの攻撃じゃ俺の身体強化で固くなってる魔力の壁は超えられそうにないから、アドルクが全力でやった方が楽そうだと思って」
「なに言って」
“ハッ、舐めやがって。後悔すんなよ!”
アドルクが答えるよりも先に不思議な声の方が反応し、攻撃を再開した。
今度の攻撃は先ほどよりも早く、アドルクは回避する暇がなく猛攻を弾くことしか出来ていない。その隙をついて手のようなものが自身に矛先を向けた。
“貰ッタァ!”
「避けろ…ッ」
猛攻を受けているアドルクが絞り出すように声を張るが、無情にも手に捕まった。
「攻撃じゃないの?」
“俺の目的はもともとテメェだからナァッ”
「何ぃッ!」
目を見張るアドルクだが、その隙を声の主は見逃さず、猛撃でアドルクを吹き飛ばしつつ、自身を掴んだ手を縮めて不思議な箱に近づける。
(このままだとアレにぶつかるんじゃないかな?)
そんな事を冷静に考えるが、そんなことは杞憂だとばかりに何の抵抗もなく箱の中に入った。
中には光が全くなく、一寸先も全く見えない暗闇だが、不思議と閉鎖感というものがなかった。
だがそんなことよりも気になったのが、この場所の雰囲気といったものに懐かしさを感じていたことだ。
「ここはどこなんだろう?」
“馬鹿かテメェ。さっきここに運ばれてきたのをもう忘れちまったのカ?”
答えを求めていなかった、無意識の疑問に先程の声が答えた。
「君は誰?」
“……聞いた通りノンキな野郎だナァ、テメェはよう。ま、んな事どうでもいいカ。テメェが俺達を知るのは今じゃねぇ。知りたきゃ俺を倒しやがれってんダッ”
謎の声が意気込んだと思った瞬間、横からすごい力で殴られて宙を舞った。
“…硬ぇナァッ。てか全く反応しねぇとか舐めてんのカァッ!?”
何も見えない環境で前後左右、凡ゆる方向から攻撃を喰らい宙を舞い続ける。
この連撃に少々を焦り、魔力で剣を作って反撃をしようとするも、結果は振り回すだけになり何かをあたった感触もなくただただ攻撃に晒されるだけになった。
“弱ぇッ弱ぇッ!なんでこんな奴にあいつが執着してたのかわかんねぇ程の弱さだぜぇッ”
先程から攻撃しながらも漏れている言葉が気にはなるも、この状況に対処しようと奮闘する事に意識が行っていつものように疑問を呈するほどの余裕はない。
“そんなんじゃアッ、テメェの名前も返してやれねぇナァ!!”
「ッッッ」
その一言に、今まで攻撃に晒され続けても身体強化で覆われている魔力の層を破れない程度の攻撃に攻撃させる事に焦りを持っても、攻撃が通らないというある種の余裕があったが、今この瞬間、全ての思考を謎の声を打倒することのみに集中させた。
(今までの攻撃の感触から物理あるいは俺の剣と同じ魔力を圧縮した純魔力と呼べるような攻撃のみと考えれるけどどこから攻撃が来るのかがわからないために剣を振り回すことしかできていないなら分かるようにしよう)
瞬時に剣をただの魔力に戻し、全方位に魔力を膨らませるように広げていく。
(これでわかるはず)
自身の判断に微塵も不安を抱かず、行動の結果を見据える。
(見えないから当たらないんじゃなくて早いから当たらなかったみたいこれじゃあダメだねなんで早いんだろう見たところ魔力圧縮して物理に近づけている物体だけで攻撃してるだけみたいだど…もしかして魔力操作で全部判断してるのかなそれなら俺じゃあ再現は無理だね考える間剣で当てれるか試そうか)
予想外の攻撃だった為に対処方法が思いつかず、先ほどは当てられなかった剣での攻撃で考えている間を繋ぐという無難な行動に出る。
“どうしたどうしタァッ!変わったのは目つきだけカァッ?!”
謎の声が苛ついたように何度も声を上げるが、先ほどと同じように剣を振っても空ぶるという結果しか残らない。
(無理だ当てるのを辞めよう剣を一度消して再度展開形状は少し変えて記憶にあるアドルクの剣を再現)
周囲に展開した剣を今度は不規則に振るのではなく探知範囲が齎す情報から剣をいくつも置いて防御する。すると今まで一方的だった攻撃を少しだけ防ぐことに成功した。
(どちらにしても俺に攻撃は通らないから全部防がなくていいこれは守ることじゃなくて俺の意思で当たることを確認しただけ当たることが分かったから今度は攻撃を当てようじゃあどうしようか)
一つの問題を乗り越え、次の問題へ取り掛かる。
(一つの剣じゃ弾かれるほど攻撃は強いけど四つくらい剣を防御に回したら一回の攻撃を防ぐのに困らないみたいだ)
新しく得た情報をもとにどう攻撃を当てるかを考える。その間にも攻撃され続けるが、新しく考案した防御方法で少しづつ防御に成功することが多くなってきた。
“やっと対応し始めたカァッ。それじゃあレベルアップダァッ!”
対応し始めた防御の成功率がガクッと下がった。どうやら攻撃の瞬間だけスピードを上げているらしい。それも不規則に。
(今までと同じように感覚のままに対応だかなくなったなら動く前に予測して剣を置けば防御できる)
考えの元防御するが、どれも剣に当たる寸前で攻撃の角度が変わり防御をすり抜けてくる。
(どんどん防御出来なくなってきた向こうも俺の防御に対応してきたんだどうしよう置くのをやめよう少し感覚に慣れて来たし当てに行っても少しは当たるでしょ)
今度は適当に振り回すのではなく剣を感覚の延長戦に来ると予測してる場所に幾つかの攻撃を仕掛けるが、その間をすり抜けた攻撃を喰らう。
“ハァ、萎えタ。もういいワ。今のテメェが何やっても俺に一撃も与えることは出来ねぇ”
先程までの苛烈さが嘘のように消え、失望したように声音の温度が下がる。その様子に光が遠のく様子を幻視し、先ほどの比ではないほどの焦りが募る。
「まだーー」
“じゃあナ。今度はせめて遊べる程度にはなれよ”
今まで出した記憶がないほど大きく声を上げてもそれを無視するように謎の声は一方的に話すと、何度も感じた覚えのある感覚が体を包み、勢いよく放り投げられた。時間にしたら数秒もなかったかもしれない。だけど、何も見えないけど、掴み掛けたナニカが手から滑り落ちる様を幻視して手を伸ばす。
「いやーー」
その先を口にする前に何かを潜るような感覚を感じると目の前にアドルクが見えた。
アドルクは何やら切羽詰まっているような様子であちこちと目を向けていたみたいだけど、自分が出てきた数瞬するとバッとこちらを見て安心したような表情になった。
いつもならそんな姿を見ると疑問に思って質問したかもしれない。だけど、どうしてか水が溢れてきた。
「なんでッ、なんでッ、なんでぇッ」
同じ言葉を何度も繰り返すが、心の中には今まで感じたことのない感情で溢れていて、どうすればよかったとか、自分は悪くないとか、思考がぐちゃぐちゃでまともなことを考えられない。
「どうしたっ」
無意識に声が聞こえた方向を見ると、さっきまで安心していた顔は困惑に変わっていた。
暴れなくなったからか、困惑した表情は変わらなくもどこか安心させるように笑い掛けながら手を伸ばして顔から滴を拭いてくれた。
「お前が泣くなんて想像もしなかったが、そんだけお前は大事な何かに失敗したんだな」
「あどるくぅぅっ、おれっ」
「無理に話さなくていい。今は整理がつくまで存分に泣いとけ」
「うう…っ」
今度はさっきのようなぐちゃぐちゃした思考なんてものはなく、ただただ思うままに任せてこの二度と感じたくないほどの悲しみに溢れた濁った水を流す。まだほんの少し光が見え、それを掴み掛けただけ。起きた時から何も持っていない状況と何も変わっていない。けれど、掴み掛けたナニカを持っている自分自身を夢想してしまうと、またぐちゃぐちゃな感情がどんどん溢れる。いつもの何百倍も考えることが出来ない今はその中に何が混ざっているのか、何故このような気持ちになるのかも分からない。それでも、夢想するのを止める事ができない自分にできるのは、何故こんなにも悲しいのかと、何故あれほど考えたのに抗うことすら出来なかったのかと叫ぶだけだった。
揺れているのを感じて目が覚めた。どうやら眠っていたらしい。
「ん、顔が濡れてる?」
少しだけ顔が湿っていたのに気づいて眠る前に起こったことを思い出した。すると無意識に顔を顰めてしまう。
「起きたみてぇだな」
アドルクが声をかけてきたと思った時、一瞬だけフワリと感じたと思ったらすぐに地面に転げ落ちてキョロキョロと周りを見て状況を理解する。
「?……アドルクが背負ってくれてたんだ、ありがとう」
「おう、あれくれぇ構わねぇよ。それより中で何があってお前が泣いたのかを教えてくれ。こちとらお前が拐われたと思って色々やってたらいきなり戻ってきて全く分かってねぇんだ」
また泣きそうになるのをグッと堪えて全部話す。
するとアドルクは難しそうに考えてたと思ったらいきなり頭をガシガシと掻いて絞り出すように声を出した。
「お前の説明でもわかんねぇことはあるが、先にこれだけは聞かせろ。ーーまたあそこに行く気か?」
その質問にすぐに答える。
「絶対に行く。あの声が俺の名前を知っているって言うなら絶対教えて貰う」
「…はあ、まあ、気持ちは話は分からねぇでもないけどよ、全く歯が立たなかったんだろ?」
「でも行く」
「新しい名前じゃダメなのか?」
「ダメとかじゃないよ。あそこに本物があるのに違う物と変えるなんて意味がわからないよ」
「諦めるってことを知らねぇのかよ…」
長いため息を吐くとあの時と同じ真剣な表情でこちらを見る。
「何があっても絶対にか?」
「うん」
「俺やカリンが邪魔をしてもか?」
「うん」
2回目の質問に頷いたら微妙な顔をされた。
「これで最後だ。ーー次頷いたらこの場で殺す、と言っても行くか?」
アドルクの言った殺す、と言う言葉の意味は分かっていない。勿論今朝食べたあのドラゴンのようになると言うことは分かっているが、実際に死んだことが無いために本当の意味で死ぬことを理解できる日は死ぬ瞬間だけだと考える。
(でもーー)
「例え俺が行くと言った瞬間に殺すことができて、やることに全く躊躇わないヒトがいるとしても殺されるその時まで俺は名前を取り返すことを諦めないよ」
じっ、とアドルクと見つめ合う。ひょっとしたらあの声と攻撃を交わらせれていたアドルクなら自分を殺すことが出来るかもしれない。それでも言い切ったのはあの声に戦う価値がないと判断された瞬間に感じた無力感にまだ苛まれていて、それでも諦めたく無いからだ。その覚悟は例え目の前に死があっても折れないと証明するためにアドルクを睨み合うように見つめる。
すると、根負けしたようにアドルクから力が抜けてさっきよりも長いため息を吐き出した。
「俺の負けだ。俺はお前を止められるほど強くねぇし、今のお前をねじ伏せるほどの気合いもねぇからよ。お前の前に立つ資格がねぇ。勝てる要素が全くねぇな。くっくっくっ」
今まで感じたことのない緊張した雰囲気を消し去ったアドルクは、何もないと自分自身を貶めるようなことを言いながらも笑っていた。
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