●新たな知識をつける吸血鬼

あのあと二人をカリンが引きずって帰り、ノソノソとした動きでご飯を用意したおっちゃんはパタリと倒れて動かなくなった。だけどご飯さえ食べれば大体のことは気にしないのでそのまま放っておいた。

「乾パン美味しい!干し肉も美味しい!」

自身が感じるままに食べた感想を言い、机の上にドサッと置かれている食べ物をどんどんお腹に収めていき、机いっぱいにあった食べ物はものの十数分で完食され、そこに食べ物があった痕跡さえも綺麗に消え去った。

「あー、美味しかった。やっぱり満腹っていい気持ちだねー」

(今日森を歩き回ってみた感じだと、長距離移動したら自分の居場所がどこか分からなくなるだろうね。まあ、やっているのは暇つぶしだから良いんだけど。でもあと1週間と8日で多少の知識を付けないと仮に森の外で過ごすにしても困るどころの話じゃ無いよ。おっちゃんは説明するのは苦手そうだったし、今日あったお姉さんに期待するしかないかな)

今日、散歩した時の感想と、今後の目標と同時に達成方法も考える。だけど、取れる手段が少なすぎるため、自身の不幸を嘆く。

(起きてからもう2日が経つのに、ついた知識は魔力操作と身体強化が普通ではないこと。そして乾パンと干し肉が美味いことと、貨幣と日付と呼ばれる制度が世界中で広まっていると言うことだけ。俺の知識を増やす手段が説明下手なおっさんだけって言うのも大変な要素だけど、俺の質問の仕方が悪いのかもしれない。そういえばこの場所についても知らないな。……はぁ、記憶がないのに自分の身辺の事についてなにも質問しなかったのは失敗だね。こういうところから直して行かなきゃ)

自身の知識を増やし、今後どのように過ごしていくかを定めるためにより効率よく行動するための反省点を見つけ出し、次に繋げられるように考え続ける。

「ん、もう外もだいぶ暗くなったみたいだ。そろそろ寝て、明日朝早くから行動できるようにしなきゃ」

誰も座っていない椅子を横に並べ、その場所で眠る。

(明日も楽しかったらいいな)

心中で祈りながら。


浮上するような感覚を感じた瞬間、心地の良い鳥の鳴き声と風に揺られた木のざわめくような爽やかな音が耳に届き、気持ちの良い目覚めとなった。

「ふわぁ…。うん、今日も美味しい食べ物を食べて元気になろう!」

食べることを考えたからか、机が気になってしまってつい見てみると、筒状のものがあった。

「なんだろ?」

筒状のものを触ってみると、ツルツルとしていて、片手で握れるサイズのところから三分の一あたりの場所からいきなり太くなっている。両方の筒の穴が開いている部分は、太くなっているところだけ壁のように蓋がされているのに、逆は蓋どころか穴が開いているだけで何も付けていない。

(何かを入れるものなのかな?)

片手で握れる所を持ってブンブン振り回してみると、中から液体出てきた。それを匂ってみると、今まで嗅いだことのない匂いで、少しだけ舐めてみると変な味だった。

(柔らかくて甘い感じなのに、酸っぱい?んー、なんか違うなー。辛い?苦い?んー、よくわからないなぁ。嫌いじゃないんだけど、乾パンと一緒に食べたら美味しいのかな?)

お腹が減ったから液体のことからどんどん思考がずれていっている。

「んー、お腹すいたしおっちゃんたちを起こそっか」

二人とも、昨日は床で寝ていたのを覚えていたので床を見ると、誰もいなかった。

「あれ?」

昨日おっちゃんを起こした所を見てもいない。

「あれー?」

この狭い部屋に誰もいないことに首を傾げていると、外と繋がるドアが開かれ、汗だくの二人が入ってきた。

その姿に疑問を抱くが、それよりもお腹が空いている方が大事なことなので質問せずに話しかける。

「おはよー、お腹すいたからご飯ちょうだい」

「おはようさん。それのことなんだが、悪いな。昨日渡したのでここにある最後の食料だったんだ」

「えぇっ!?そんなぁー…」

お腹が空いているときに、この事実は応えたため、項垂れてしまう。だが、一昨日のかぞくの話を思い出した。

「じゃあカリンを食べるしかないね」

「ほら見ろ!やっぱりこうなったじゃねぇか!」

「うっさいわね!あんたが家族についてちゃんと説明しなかったからこうなったんじゃないの!カリン食べられたくなかったらちゃんと説明しときなさいよ!」

「お前はあの時いなかったからそんなことが言えるんだろうが!お前は初めてあいつと会った時に冷静に説明できんのかよ!」

「そんなの出来るに決まってるでしょ!」

「嘘つけ!そんなことが出来てたら昨日あいつを拘束して殴ったりなんかしてねぇだろうが!」

カリンを食べることを独り言のように呟くと、何故か二人が喧嘩し出した。だけどギャーギャーと騒音をまき散らしている二人よりも、食べ物が無くなったことの方に強いショックを受けたせいで気にならない。そのせいなのか、いつもよりも動きが鈍く、ノソノソと入り口に近き、ドアの前に立つと二人が気づいた。

「ちょーっと待った!」

「お願い少し待って!」

カリンのところに行こうとしているのに気づいた二人は、先ほどまで喧嘩していたのが嘘のように仲良く止めに来た。

「えー、なにー?」

それでも、二人のことなど全く気にならないのだが、話しかけてきたので仕方なく止めた理由を聞く。

「えーっと、な、なんて言えば良いんだ…」

「役に立たないわね…っ。そのね、食べ物がないと、私たちも困るでしょ?」

「うん」

「だから、あなたが起きる前に二人で話し合ったんだけど、食べ物がないなら探してきたら良いって思ったのよ」

「うん。でも、俺は起きてから沢山森を歩いたけど、動物と全く会わなかったよ」

「(それはあんたのせいでしょうが)動物と会えなかったのにはちゃんとした理由があるんだけど、今はその話は置いておきましょ。あなたの近くには動物が出てきてくれないから、少し離れたところに居る動物を狩ってきましょうってなったから、さっき狩って来たのよ。だからカリンを食べるのはやめて、私たちが狩ってきた獲物を食べない?」

「うーん、たしかにもう殺している獲物を食べないで生きてるカリンを殺したらもったいないね。分かった。死んでる方を食べるね」

「「…よしっ」」

二人とも、何故か拳を合わせて大きな試練を乗り越えたみたいな顔をしているけど、今食べられるものがあることを知ってウキウキしているので二人のことを放っておいて、入り口のドアを開ける。すると、目の前にお腹を裂かれ、そこから未だに血が出ている巨大な赤い死体が倒れていた。

「おぉーっ!めちゃくちゃ大きい!」

初めて見る動物に興味が湧き、近くから見たり触ったりしてどんなものかを確認する。

(ちょっと硬い、かな)

いつも纏っている魔力の量を右手だけ少し増やして力を強くする。強化した右手で先程観察していた掴めそうなところを掴み、思いっきり引きちぎる。

「うんッ、と」

片手で潰そうとしてみるけど、引きちぎった硬い物体は今纏っている魔力量じゃ潰せない程度の固さはあるようだ。

(どのくらい力が変わってるかわからないけれど)

ふと、今の力がどの程度なのか、と疑問が浮かび、足元にある掌サイズの石を持ちあげて右手で持っている物体と左手で持っている石を見比べる。

(大きさは同じくらいかな)

右手に集めていた余剰分の魔力を左手に移し、半分くらいの力を込めると砂のように粉々に砕けた。

「半分で石が砕けたってことは、少なくともこの硬いのは石以上の固さがあるんだ。凄いなー」

(そんな硬いものの中にどんな肉が入っているのかな…。楽しみだなー)

ウキウキしながら起きたばかりの時に作った魔力を平らに伸ばし、持つところだけ細くしたものを作り、巨大な動物の死体を解体しようと平らな部分で斬りつけるも、硬いものに阻まれてまったく進まないため、仕方なく硬いものをのけた部分を斬りつけても今度は皮を破れない。

「えー、どうしたらいいの?」

自分では解決策を思いつかず、渋々と家に戻る。

「ねぇっ、あの動物どうやったら食べられるの?」

「「え」」

どうやら二人は椅子に座って話していたようで、そこに話しかけると訝しむような顔をされた。忘れているんだろうか。

「外にある大きい動物が纏ってる硬いのと皮が切れなくて中の肉が取り出せないの」

「何で切ろうとしたんだ?そんなの持ってないだろ」

おっちゃんが聞いたことと違うことを聞いてきた。なんで質問したのに違う質問で返してくるんだろう?

おっちゃんの考えてることがよくわからないけど、もう一度魔力で平らな物体を再度作って見せながら説明する。

「これで切ろうとしたんだよ。おっちゃんは一回見てるよね」

「お前剣を作れたのか…。見たっけか?あん時はいきなりわけわかんねぇ事ばかり起きたから、全部はあんまし覚えてないんだ」

「カリンを殺そうとした時だよ」

「あん時か!そうだ、思い出したっ。あん時に攻撃してたのはそれか!」

「あんたなんでそんな大事な事忘れてるのよ。本当に馬鹿ね」

「あ?お前だって俺と同じ立場ならぜってぇ記憶吹き飛ぶぞ。何せ家族って何?って聞かれたんだ。んなもん答えれるかよ」

「はあ?家族は家族でしょ。何言ってんのよ」

「そんな記憶がねぇ奴になんて説明すんだっ聞いてんだろ」

また喧嘩しだした。まだ質問に答えてもらってないのに。気づいてもらえるように二人に魔力を伸ばすと、何故か飛び跳ねるように椅子を蹴って伸ばした魔力から離れるように動いた。だけど、そんなことより食事の方が大切なので質問を続ける。

「それで、どうしたら食べられるの?」

「…びっくりしたぁ。あー、まずはその剣を見せてくれねぇか。もしかしたら何か理由があるのかもしれねぇし」

「うん」

魔力を操作して手から離れても固定されるようにし、おっちゃんの方へ浮かして渡す。

「うおっ、浮いてやがる。…魔術なら当たり前か」

「馬鹿ね。そんなわけないじゃない。確かに魔力は事象を作れるものだけれど、そこまで自由にできるのは魔法くらいよ。簡易魔術だとあんまり自由に動かせないわ」

「え、こいつ魔法使えんの?」

「知らないわよ」

「魔法使えんのか?」

「魔法ってなに?」

「「…」」

勝手に盛り上がって話を振ってきたが、そもそも話の内容を理解できてないので質問しか返せるものはない。

二人は黙って見つめ合っていると、お姉さんがため息をついて説明し始めた。

「話が進まないわ。一つずつ答えていきましょ。たしかその剣で外のドラゴンが切れない県についての話だったわね。まずはアドルク、その剣を持った感覚を教えて頂戴」

「おう」

おっちゃんはアドルクって言うらしい。アドルクはもう一度魔力で作った剣を見てからしっかりと握って軽く動かした。

「んぅ、なんだこれ。重いような重くないような。変な感じだな。少なくとも俺は重心が取りにくいこんな剣で戦いたくねぇな」

「へえ、面白いことを言うわね。握った感じはどう?」

「握ってるのは分かるんだ。それに折れそうな感じもするんだけど、本気で握っても折れない。意味わかんねぇ感触だな…」

自分は普通に持ってる感じがするのだが、アドルクはそんな風に感じるようだ。

「魔力が物質化しているけれど、それも中途半端に止まってる状態ってことかしら」

「魔力が物質化?」

お姉さんが一人で納得しているけれど、全く意味が分からないので訊き返す。

「魔術師じゃない人はあまり考えないプロセスの話ね。例えば魔術で水とか土を使うでしょ?…魔術に馴染みがないからわかんないか」

お姉さんが分かるように話そうと考えてくれているけれど出した例自体がわからない。

「えーっとね、こう言うのを魔術っていうの」

空中に丸の中に何本かの線が入ったマークが浮かんだ。

「この魔術っていうのは魔力を使っているのだけれど、そもそもの起源が魔法が使えない人が魔法みたいなあり得ない現象を起こそうとしたのが魔術。魔法と魔術の違いは、魔法が自然に魔力を操作して現れる現象に対して、魔術は人間種が考えた理論的な魔力現象。どちらも魔力で現れる現象だけれど、魔法はとんでもない魔力量と質、一流以上の魔力操作がなければ出来ないけれど、魔術は論理的な理解とちょっとした魔力操作が有れば誰でも出来るって感じね。それで魔法でも魔術でもいいけれど、属性の現象を顕すことが出来るの。火や水とかね。でも、顕す前はその場になかったのにいきなり現れるなんて不自然でしょ。でも、魔力自体に現象を作り出すっていう性質があるからこんなふうに表すことが出来るの」

そこで少し乱れた呼吸を戻しつつ、空中に浮かんだマークを手を払って消した。

(手で消した?いや手に魔力を纏ってたから干渉出来たのかな?逆に手を払うのに意味はなかった?んー、後で聞こう)

「そのことを念頭に考えると、この魔力で作られた剣は触れるってことは現象として現れているのに、土とか水みたいに完全に物質化してないのよ。ということは完全に物質化させずに途中で止めた状態って考えるのが妥当でしょ。あえて名付けるなら半物質化ってとこね。こんな現象、ほとんど魔法に近いプロセスだわ。魔力を大量に使う上にずっと魔力操作しなきゃいけないじゃない。非効率すぎるわ」

「じゃあ、欠陥だらけの使えないゴミってことか?」

そこで理解しようと顔を真っ赤にしてついに理解を諦めていたアドルクが割って入った。一人だけ理解できてないのが嫌なのかちゃんと分かっているフリをしたいのだろう。

「そうとも言えないのよね。完全な物質化してないってことは純粋な魔力ってことなのよ。物質化したものよりもよっぽど頑丈、というより壊れにくいわ。頑丈って言わなかったのはたとえ柔軟性を十分に持った細長い糸にしたとしても、達人が使った剣でも傷一つつかなそうだからね。万が一壊れても完全な物質化のプロセスが無いおかげで再生させるのは1番効率的なのよ。だからこの剣を簡単に説明すると使用者の魔力がなくならない限り絶対に壊れない剣ってことになるわね」

「へー、すごいね。絶対に壊れないんだ。でもドラゴンは切れなかったら意味がないよ。っていうかお腹すいたから早くどうすればいいか教えてよ」

どうすればいいかの説明を求めたらお姉さんは困った表情をした。

「もう少し説明したかったんだけれど、たしかにまだご飯食べてなかったわね」

「なぁ、今更なんだがよ。俺らが解体すれば早いじゃねぇのか?」

「あ」

お姉さんはアドルクに言われて何かに気づいたようだ。

「早く食べれるなら何でもいいよ。アドルクが出来るなら早く切って」

「お?お前に名前教えたっけ?」

アドルクが喋ってなかなか動こうとしない。

もうお腹が空いて限界だ。行動に移すしかない。

「お姉さんがおっちゃんに言ってたからそうなんだと思ったんだ。そんなことよりも早く切って!」

「わーったから押すな!」

チンタラ遅いアドルクの背中を押してドラゴンの死体の前に行く。

アドルクは腰から剣を小さくしたものを抜くと魔力を纏った。

(小さい剣まで魔力を纏ってるし、身体強化とかそんな感じのやつかな?)

アドルクはそのまま自然な動作で小さい剣を一振りすると、ドラゴンの体が真っ二つになった。

「おぉっ」

(小さい剣に纏ってる魔力が一瞬だけ伸びてドラゴンを真っ二つにした…。あんな使い方があるんだ。俺の剣も出来そうだし、今度いろいろ試してみよ)

「ふっふっふっ」

なにやらアドルクのテンションが上がっているようだ。

「ブゥ」

「ん?」

アドルクの魔力の使い方に感心していると隣にカリンがやってきた。

カリンはチラリとアドルクの方へ馬鹿を見るような視線を向けるとその場で寝転んだ。

(何しに来たんだろう?)

そのカリンの行動を不思議に思いつつアドルクの方へ視線を戻すと胴体の他に首や尻尾、手足などがバラバラになっていた。

「はっはっはっ。バラバラにしてバーベキューにしてやるぜ!」

アドルクは意気揚々とドラゴンをバラバラにすると、小さい剣を布で拭き始めた。何をしているのか分からないけれど、終わったのかなと思い近づこうとしたら肉と皮の間に小さい剣を挟み込んで切り始めた。その時に皮を切らない様に気を付けている様でさっきまでとは変わって慎重に切っていた。

アドルクのしていることを理解しようと見ているとドアから近づいてくる足音が聞こえてくる。振り返ると手を上げながらお姉さんが話しかけてくるところだった。

「今日は挨拶をしてなかったよね。おはよう」

「うん、おはよう」

挨拶をするためだけについて来たのだろうかと首を傾げていると、察してくれた様で理由を話し始めた。

「昨日はいきなり捕まえる様なことをしてごめんね。あなたが見たこともないくらい魔力を持ってる上にアドルクがカリンのそばにいないから何かあったんじゃないかって勘違いしてしまったの」

「大丈夫だよ。別に怪我とかしてないし。お姉さんはなんて名前なの?」

「あら、自己紹介もしてなかったわね。…そういえばアドルクの名前も知らない風にしていたし、あいつも自己紹介してなかったんじゃ。いや、あいつがいくらアホでもそこまでは忘れてないわよね」

「お姉さん?」

ぶつぶつと呟いているけれど、アドルクもそんなことをしていたしこれが普通なんだろう。

「あら、ごめんなさい。少し考え込んでしまってたわ。えーっと、確か自己紹介だったわね。私の名前はアンカーリア=フェネラスラータ。魔術師の親を持つ魔術師よ。探索者ギルドにAランクとして所属しているから、貴族とか大商人には負けるけどそこそこお金も持っているわ。あとは、“魔花”って二つ名があるわね。こんなところかしら。何か聞きたいことはある?」

「なんで名前が二つあるの?」

「二つ名のことかしら?」

「んーん、アンカーリアとフェネラスラータって名前が二つあるじゃん。なんで?」

「本当に記憶がないのね。これは名前と苗字に分かれてて、アンカーリアが名前で名字がフェネラスラータって言うの。名前はその人のことを指していて、苗字はその家族や一族のことを指してるの」

「家族?いちぞく?」

分からない単語を繰り返すように質問する。

「家族っていうのは、普通の意味で言うと二人の男女との間に生まれた子供のことをまとめて言うの。一族っていうのはその家族の関係をどんどん積み重ねていった人たちのことね。まぁ、基本一族って使うのはきちんとした場所とかでつかうから、普段は家族って言えばいいと思うわよ」

「へーっ!アドルクよりもめちゃくちゃ分かりやすい!アンカーリアは頭が良いんだね!」

「ゴフッ」

後ろで倒れる音が聞こえた気がしたけれど、それよりもやっと知識を持った人に出会えた嬉しさの方が大きいので気にならなかった。

(凄い!アドルクはいい加減なことを言ってそうで知識を持ってても分かりやすく説明してくれそうになかったのに、アンカーリアはアドルクが説明出来なかった家族の質問も簡単に話してくれた!これでいろいろ知ることができる!)

ぴょんぴょん跳ねて喜んでいたらアンカーリアから止められた。

「ちょっと落ち着きなさい。何に反応してそこまで喜んでいるのかは分からないけれど、これくらいで喜んでもらえるならいくらでも話すわ。あと、アンカーリアって長くて言いにくいでしょうから、リアって呼んでいいわよ」

「リア?名前なのに変えていいの?」

(なんでアンカーリアって言う名前があるのに長いからって言う理由で変えるんだろう?名前ってそんなに簡単に変えられるものなのかな?)

「ふふっ。変えているんじゃないのよ。アンカーリアって名前があるでしょ?でも長くて言いにくいわ。それでどうにかしようと考えついたのが略すと言うことなのよ。これはアンカーリアって名前からアンカーを言わないでリアのところだけを言ったらとっても楽になるでしょ?こんな風に既存のものからある一定のものだけを言ったりすることを略すというものなのよ。だから、変えているわけじゃないから大丈夫」

「じゃあ二つ名は?」

「二つ名は称号みたいなもの、って言っても分からないか。んー、なんて言ったらいいかしら。……あ、例よ!二つ名っていうのはその人が大きくて偉大な事をしたら広くその偉業が知れ渡るでしょ?」

少しの間頰に人差し指を指して考えていると、思いついたのか説明し始めた。

「そうなの?」

「旅をしたりいろんな場所に行ったりする人がその話を移動先で話していったらどんどん広がるじゃない。そういう事なのよ。でも、一々その人の名前を覚えて伝えるのも大変だし、もし名前を間違えたりしたら失礼だからその人の名前を言わなくてもわかるように偉業とかから二つ名をつける場合が多いわ。そういう事を普通はあだ名って言ったりするんだけど、大きな事をしたらその事を讃えるって意味で特別に二つ名が付くのよ。でも特別と言っても、悪い意味の名前もあるから二つ名を持っている人が全員良い人とは限らないから注意してね」

「分かった!でもそんな考え方があるんだね!えーっと、次は…。そうだ!魔術師って何?」

今までわからない事を聞いてもわかりやすいように教えてくれる興奮で少しだけ何を聞こうか迷ってしまったけれど、まだまだ聞きたいことがあるからどんどん質問することにする。

「魔術を使う人のことよ」

「貴族って何?」

「人が100人くらい住んでるのが村、村の数倍の規模なのが街、街の数倍の規模が都市、都市の数十倍の規模が国っていう風に人が住む土地の規模に合わせて名前が変わっていくのよ。その土地にある国で1番偉い人が国王とか皇帝っていう風に言うわね。その人に傅いて国に所属している都市を治めたり、国を営なむのに必要な仕事をしている文官や武官っていう仕事をしている人たちのことを貴族っていうの。貴族ってまとめてもその中にも階級っていうのがあって面倒なんだけれど、聞く?」

「うん!」

リアは仕方がないと諦めたようにため息を吐いて説明を再開した。

「さっきも言ったけれど、国で1番偉いのが王様だけれど、王様にも家族や一族がいるの。その王様の家族は公爵といって王様の親族っていう立場で普通の貴族は無視できない位の高い階級。そして侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵。って位が続いていくんだけど、2番目に位が高い侯爵と同じくらいの辺境伯って階級があるの。これは最重要な都市だけれど、国の中枢のある都市から1番遠い都市にいる貴族なの。この二つは何が違うかって言うと、侯爵が文官に影響力が大きいのに対して、辺境伯は武官に影響力が大きいの。ちなみに階級が下がっていくにつれてその階級の貴族は増えていくわ。1番多い公爵は国によるけれど、多いところで四つもいるわね。王様や貴族以外の私達みたいな人は平民っていう一般人の位ね。あとは奴隷って言う命を買われる最底辺の立場の人たちがいるけれど、世の中に平気で回っている奴隷は犯罪奴隷ばかりよ。それは昔に大きな問題があったから強制的に奴隷にする行為を辞めさせるようにしたからなんだけど、これは長くなるからまた今度ね」

「そうなんだ!大商人っていうのは何?」

さらに質問するとリアは表情を引き攣らせ始めた。

「…この子、記憶力が良すぎないかしら…」

「比べられるような記憶なんてないから分かんないっ。それよりも教えてっ」

ワクワクした気持ちを抑えられず、催促するように話すとリアの目が死んだようになりつつ話し始めた。

「そもそも大商人って言うのは商人が大成した人たちのことを指すの。じゃあ商人は何ってことなんだけど、商人というのは物を売り買いする人たちの事を言うのよ。この物を売り買いするときに使うのがアドルクが教えたお金なの。1000ベルもあれば日常的に使う物は大抵手に入るわ。戦う為の武器は安い物でも8000ベルもするし、その武器も量産された品質の悪いものが多いわ。でもたまに良いものもあるから安いからといって価値が決まるわけじゃない事は覚えておいて。ま、今後武器を買うならって話だけどね」

「いろんな仕事があるんだねっ!えーっ、あとはー」

「おおい!ドラゴンの解体終わったぞーっ!食べないのかーっ?」

「あ…っ」

質問できる後半でアドルクの事を忘れていた。まだ朝ごはんを食べていないので食べたい欲求はあるけれど、知らない事を知りたいって欲求もあり、どうするか迷っているとリアが手助けをくれた。

「アドルクがこの仕事を受けている間は私もここにいるから質問ならまだできるわよ。それより私もお腹すいちゃったし、はやく食べましょ」

「……うんっ」

まだまだ知らない事を知れると知って安心したらさっきよりもお腹が空いてきた。そしてアドルクの隣には自身の何倍もするような大きさの肉。これは食べるしかないと巨大な肉の塊へ突入した。



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