●謎の美女と吸血鬼 

おっちゃんが家から出て行くと、これからどうするか考える。

(何か新しい技でも考えようかな?それもつまんなさそーだなー。それに技を考えようにもそんなに記憶がないから大した技も思いつかなそーだしなー)

暇つぶしを思いつくもすぐに飽きそうになるため、どれもボツにする。そうしてしばらくすると妙案を思いついた。

(記憶が足りないから何にも思いつかないんだ。なら周りを見て回ったらいいんじゃないかな?ここに来る時は飯のことしか考えてなかったからあんまり周りのことは覚えてないし。これいいね!しばらくはこれで暇が潰せそう!)

やることが決まるとすぐに行動に移す。

(何かモノを入れる物があったら、キノコとか持って帰れるから準備しよう。それ以外何か必要なものってあったっけ?道具は魔力で作れば要らないし…。ま、初めてだからそこまで広範囲に移動するつもりもないから取り敢えずこれでいっか!昨日なんて道具どころか服も持ってなかったけど、大丈夫だったしなんとかなるよね!)

おっちゃんに家から持ち出す許可を貰っていなかったけど、借りた家と言っていたし大丈夫だと勝手に思い込んで大きめの袋を探す。

「あった!これ結構デカい。俺が入れるんじゃないかな?」

あまりの大きさに驚くが、特に問題もないのでそのまま家から出ようとドアを押したところ、危なくズボンが脱げそうになった。

「忘れてた。そういえばおっちゃんのズボンだからダボダボしてたんだった」

食事をしたことですっかり忘れていたようだ。

「でも流石に細い紐が何処にあるかなんてわかんないしなー。そうだ!」

狭いと言っても一件の中を隅々と探すのも面倒なため、途方に暮れていたところで妙案を思いつき、片手でズボンを押さえながら袋を持った手でドアを開けて近くの木に近寄る。

「森だから蔦がいっぱいあるもんね。……これは使え、る?」

すぐに蔦を見つけることはできたが、思っていたよりも太くて自分の細い腰を巻けるとはとても思えなかった。

「んー?記憶違いかなー?昨日カリンに乗ってここまで来た時はもっと細かった気がするんだけどなー」

「ブゥ?」

名前を呼ばれたので庭で寝ていたカリンが来たようだ。

「ねえ、俺の腰に巻けそうな蔦って知らない?ズボンが落ちそうだから使おうと思うんだけど」

「ブゥ?」

カリンは首を傾げると徐にノシノシとどこかへ行った。

「伝わらなかったのかな?ま、いいや。まだまだ蔦はいっぱいあるし、ほかに使える物が出てくるかもしれないしね」

前向きに考えると落ちそうになるズボンをどうにかするための何かを探し始め1時間も探すが見つからず、集中力も切れて来たために他のことに思考が移って行った。

「あれ?そもそもなんで外にいこうと思ってたんだっけ?ズボンの紐が無かったから?」

元々決めていた予定すら忘れてしまったようだ。

「ブゥゥゥ」

そこでカリンが蔦を加えて戻ってきた。

「探してくれていたの?ありがと!」

「ブゥっ」

わざわざ違うところまで行って探してくれていたカリンを撫でると、嬉しそうにカリンも鳴いた。それはまるで、昔から一緒に過ごしていたと錯覚するほどに仲が良く見え、本来の主人である男の存在を忘れるほどであった。

「そういや、カリンが持ってきた蔦は巻けるのかな?」

「ブゥ?」

持ってきた当人であるカリンも本当に巻けるかは分からないようだ。

「まぁ、俺が見てきた中で1番細そうだし、巻いてみようっ」

持っていた袋を置くと、両手で蔦を腰に巻き始めた。

「あれ?どうやって結んだらいいの?」

だが記憶がないため、当然ながら紐の結び方も知らない。だから今度は紐を結ぶために苦戦することになった。

「ブゥっ」

そんな苦戦する姿に何を思ったのか、応援するように鳴くカリン。その姿は主人を応援する忠犬の如し。

「負けるかぁぁ!!」

そのカリンの応援によって気合が入り、紐を結ぶだけのことに何故か大声で叫び始めた。

「どうした!?」

するとおっちゃんが大声を聞いて慌てて帰ってきた。

そこで見たものは気迫のこもった大声をあげながら腰に蔦を巻きつける美しい白髪の少年吸血鬼と、その少年を忠犬のように座って応援する巨大なイノシシ。

「なにこれ……」

そのあまりにも意味不明な様子に表情が抜け落ちた。

「ん?」

「ブゥ?」

大声が聞こえた方向に目をむけると、茫然とただ立っているおっちゃんがいた。

「早かったね。もう帰ってきたの?なら紐の巻き方を教えてくれないかな?」

「え…?」

まだ驚愕が抜けきらないのか咄嗟にでた言葉しか返すことができていない。だが、そんなことを気にする少年ではない。

「おっちゃんが貸してくれたズボンがデカすぎて落ちそうなんだよね。だから紐で止めようと思ったんだけど、紐が何処にあるかが分からなかったんだ。だから蔦で結ぼうとしてるんだけど、結び方が分からないから困ってたんだよ。だから教えて欲しいな」

「あ、ああ、分かった」

未だに動揺した心は落ち着かないものの、一応理解は出来たため渡された蔦を少年の腰に巻きつけて結ぶ。

「ねえ、紐って家にないの?」

「ねぇな。俺は長い間あそこに住む気はこれっぽっちもなかったから必要に思わなかったし、着替えや装備もちゃんと整備してから来たから予備なんて家にはねぇよ」

「そうび?」

「装備って言うのは仕事とかの目的に使うための道具のことだな」

「へー、じゃあ探さなくて良かったんだ」

「もしかして探したのか?」

「どこあるのか分からない細い紐を探すのは流石にめんどくさかったから探してないよ」

「そりゃぁ、運が良かったな。よしっ、こんなもんでいいだろ。どうだ?きつかったりするか?」

「別に。落ちなかったらなんでもいいよ」

「キツかったら言えよ?合わないズボンを履いてたら余計に疲れるからな」

「もしキツくてもやり方を覚えたから自分でできると思う」

「はやっ、お前頭がいいのか?」

「知らない。そういえばおっちゃんの仕事は終わったの?」

「あー、まだだな。お前たちが大声なんて出すから驚いて帰ってきちまったじゃねぇか。次からはあんな風に騒ぐなよ」

「心配してくれてありがとう。次からは気をつけるね」

「そうか。じゃ、気をつけとけよぉ」

おっちゃんは手を後ろ手に振りながら仕事に帰って行った。

「よし、ズボンがなんとかなったし、予定通りこの辺りの探索しようか」

「ブゥっ」

これで探索を邪魔するものがないと大手を振って歩き回ろうとしたところ、カリンに呼び止められた。

「カリンも来たいの?」

「ブゥっ」

「じゃあ行こっかっ」

カリンにどう言った考えがあるのかは分からないが、一緒に行動する者が増えることは良いことなのでカリンを連れて探索を開始した。

道中、落ちているキノコや野草を食べようとしてカリンに止められ、動きにくいと服を脱ごうとしたところでカリンに止められ、と楽しく活動していた。そしておっちゃんに蔦を巻いてもらった場所からそこそこ離れた距離で紫色に輝いている太陽が真上あたりに来た時、カリンとほぼ同時にお腹の音がなった。

「お腹すいたねー」

「ブゥ」

「帰ろっか」

「ブゥ」

ちゃんと食べ物があると確信できる家に帰ろうと元の道を帰ろうとした刹那、横から飛び出して来た者に組み敷かれた。その時に首を押さえられ、手足も拘束された。

「ぇ?」

突然のことに驚き、自身を押さえつけている者を見上げると、それは目深くまで布で隠しているお姉さんだった。布から溢れている長い金髪が顔を隠している布から垂れているので髪の色は金髪らしい。

「ブゥっ」

カリンはなんとか助けようとしてくれているようだが、纏めて轢いてしまう可能性を考えて手が出せないようだ。

「答えなさい。なぜカリンと一緒にいるはずのアドルクがいないの?」

なんとか動こうとするも、押さえつける力がどんどん増していくだけだった。

「抵抗しても無駄よ。私は今魔術を待機状態にしているから、あなたが魔術を使う前に私があなたを攻撃する方が早いわ。そんなことをするくらいなら潔く答えた方が賢明だと思うけど?それとも試して見る?」

お姉さんの言う通り抜け出せそうにないため、動くことを諦める。そして声を出さそうとするも、お姉さんに喉を押さえつけられているために声が出せない。仕方なく喉を強化して喋れるようになろうとすると殴られた。

「今口の周りに魔力を集めたわね。予め何かを口に仕込んでいるのかしら。今回のは警告よ。次やったら嘘偽りなく殺すわ」

先ほどから知らない単語が出てくるが、質問するための声が出せない。

どうしようかと悩んでいると、カリンがここまで聞こえてくるほどの勢いで空気を吸っていた。

(何をしてるんだろう?深呼吸?)

その行為はカリンに背中を見せているお姉さんには見えてないようで、じっと見つめて来ているが、視線が違うところを見ていることに気がついたのか一瞬だけ視線を外してすぐに戻した。だけど、何かが脳裏に過ぎったのかもう一度チラリとカリンの様子を見た。

「えぇっ!?」

するとなにやら情けない声を出したと思ったらあんなに硬く拘束していた手で両耳を塞いだ。

「なにしてるの?」

質問するが、耳を塞いでいるせいか聞こえていないようだ。

その姿を不思議に思うが、お姉さんが驚いていたカリンの方を向くと、限界まで吸いきったのか空気を吸うのを辞めたところだった。そして数瞬経ったとき、カリンは上を向いてーー

「ブウウウウッッッッッッ!!!!!」

とてつもなく大きな鳴き声を上げた。

「痛い痛い痛い痛いッ!頭割れるゥッ!」

「ぅぅぅ、すんごい衝撃が来た…」

お姉さんは耳を押さえていたようだが、カリンの大き過ぎる声によって発生した衝撃波によって吹き飛ばされたときに耳から手が離れた隙に音にやられたようだ。

逆に対策をしていなかった自分は衝撃波で吹き飛ばされはしたものの、ゴロゴロとそこら中を転がり回っているお姉さんほどのダメージを受けた感覚はない。

「カリンー、なんであんなことしたのー?」

「ブゥ、ブゥブゥ、ブブゥっ」

カリンはいつもの一単語だけではなく、いろんな音を使い分けてまるで暗号のように話す。

「うん、なにを言ってるのかさっぱりわからないね。そう言えば、このお姉さんはカリンやおっちゃんを知ってるみたいだったけど、知り合い?」

「ブゥ」

肯いているので知り合いと判断していいようだ。つまりあそこで轢き殺さなかったのは自分がいるからではなく、両方を案じてのことだったわけだ。

「………ァァァ」

「ん?何か聞こえない?」

「ブゥ?」

何かが叫んでいるような声が聞こえたような気がしてカリンに問いかけるが、カリンも首を傾げている。

「…ァァァァアアっ」

「ほら、やっぱり聞こえる」

「ブゥっ」

はっきりとは聞こえないが耳をすませば聞こえるぐらいの叫び声が届き、カリンに問いかけると同意してくれた。

「アアアアアっ」

「でもこの声ってなんか聞いたことがある気がするんだよねー。なんだったっけ?」

「ブゥ…」

一人と一匹は首を傾げて考えるが、そもそも2人が共通して知っている生き物など1人のおっちゃんしかいない。だが一人と一匹はそんなことに気づく暇なくおっちゃんと再会した。

「大丈夫かアアアアアアッッッッ!!!!」

「イヤァァァァッ、頭が割れるゥゥゥゥ!!」

「ぐああッ!」

だがおっちゃんの声がお姉さんの苦しみをさらに加速させたようで、女は痛む頭を両手で抱えながら頭突きというおかしい体勢でおっちゃんを弾いて強制的に黙らせた。

「これが普通の挨拶なの?」

「ブゥ…」

頭に疑問符を浮かべながら首を傾げていると、カリンは情けない者を見るような目で二人を眺めていた。

それから十数分もの間倒れ伏していた二人フラフラとしていてきちんと立てているか怪しいが、とにかく立ち上がることに成功していた。

「……ぅあ…。…なあリア、お前なんでここにいる…」

そしておっちゃんは問いかけるも、お姉さんに頭突きを喰らった影響で頭が痛いらしく、大声で被害を受けないように慎重に声を出しながら話しかけた。

「……あんた、愛剣を整備に出したまま《ファラシャス》の遊技場跡地に行ったって聞いたから慌てて渡しに来たんでしょうが…。……なんでこんな魔境に普通のロングソードで来てんのよ…」

「はっ?イテテッ、頭がぁぁ…」

「アアアアアッッ……」

おっちゃんが思わず声をあげ、それが意外と頭に響いたらしくまた頭を抱えて蹲った。そして頭に呻いた声がお姉さんの頭に響いたようで、別の痛みで誤魔化そうとしているのか地面に何回も頭突きし始めた。その二人の様子はまるで世界が終わることを知って絶望した人々を表しているようであった。

だがそんなことを知るかとカリンとどうご飯を食べると最高にうまいのかについて真剣に話していると、ようやく頭へのダメージが治って来たのか普通に話していた。

「へー、じゃあ本当に急いで来たのか」

「あんたやっぱバカねっ!?こんな魔力濃度がクソ高い場所に行って災害級の怪物なんていたらどうするつもりだったのよ!」

「あー、それならいたなぁ…」

おっちゃんは死んだような目をしてチラッとこちらを見た。

「なに?」

「もしかしてあの子のことを言ってんの?」

「お前も現実逃避するのをやめろよ…。俺は魔力感知が上手いわけじゃないのに、滅茶苦茶な魔力量が感じられるんだぞ。魔術師のお前が気付いてないわけないだろ」

「えー、じゃあこれ私が気絶して見てる幻覚ってことはない?」

「殴って起こしてやろうか?」

「やめとく…」

なにか二人で話し合った後、微妙な表情でこちらを見出した。

「なに?」

「やっぱり私たちの勘違いって線はない?あんな純粋そうな顔を見てたら嘘だって思えて来たんだけど」

「残念ながら、あいつがやばいってことは本人から聞いてんだよなぁ」

「……なにを聞いたの?」

「種族…」

女の顔がどんどん悪くなっていった。

「なんか嫌な予感がして来たわー。もう、いいや。カリンの咆哮で疲れたし、もうこれ以上考えたくない。さっさと言って。大体の予測はついたから」

「絶対外れてると思うけどなぁ」

「焦らさないでさっさと言いなさいよっ」

「あー、分かった分かった。疲れてるのは俺も同じだから。そんな揺らすな。あいつの種族はヴァンパイア、しかも新たに生まれた真祖っつういらんもんまでついて来てるやつ」

「ヤバすぎでしょッ!?これどうするつもりよッ?!」

「俺は何にもしてないんだけどなぁ。森を探索してたら偶然カリンが食われそうになってただけなんだけどなぁ」

「そっちもやばいけど相変わらずカリンは変なの見つけるわねッ!」

なにやら楽しそうに騒いでいるが、もうお腹の我慢が出来なくなり、呼びかけることにした。

「ねーねー、お腹すいたから家に帰ろうよー」

「お、おう、分かった。確かにもう昼くらいだし、帰って飯にするか」

「ブゥっ」

「えぇ!?家に住ませてるの?!」

わーわーと楽しく話しながら帰路についていると、突然お姉さんが騒ぎ出した。だけどお姉さんが次に何かを叫ぶよりも速くおっちゃんが近づいて、お姉さんの口を塞いで何かを言ったらお姉さんは大人しくなった。その様子を不思議に思いつつも昼飯のことの方に気を取られて考えを中断する。

「そういえば、カリンはいつもなにを食べてるの?」

「ブゥ?」

カリンは質問されて振り返ると、帰りの道から少し離れて何かを咥えて持ってきた。

「木の実?」

「ブゥ」

肯いているので、いつも木の実を食べているようだ。

「この木の実だけしか食べられないの?」

「ブゥ」

カリンは首を横に振るとまた帰路から離れ、何かを咥えて帰ってきた。

「草?」

「ブゥ」

肯いているので草も食べるようだ。

すると他にどんな物が食べられるのかも気になってくる。なのでカリンに近くにある食べられるものを全部持って来てもらった。

「へー、果物や枝、土とか、色んなものを食べるんだね」

「ブゥっ」

カリンはどうだ凄いだろうと誇るように胸を張った。だけどそんなことに気を取られず、カリンが持ってきた食べ物じっと見つめる。そして手に取り食べた。

「「えぇッ?!」」

「ブゥ?」

口に入れたのは手掴みできる程度の量だが、それでも土だ。普通の感性なら口に入れるどころか汚れることを嫌ってなんの意味もなく触ったりする事などしない。だが自分はカリンが持ってきた物に何故か惹かれ、気づいたら口に入れていた。味はお世辞にも生き物が食べていい物の味ではなかったが、どんどん口に入れていき、最後の木の実を食べたことでカリンが持ってきた食べ物は無くなった。

「不味い…っ」

食べ終えてから吐きたくなったが、この体では今は吐くわけにはいかなく、口を押さえてなにも出ないようにする。

「お、おいおい、大丈夫か?そんなに腹減ってたなんて知らなくてよ。まだ腹減ってんなら今手持ちには干し肉しかないが食べるか?」

「ちょ、ちょうだい…」

おっちゃんから渡された干し肉は大人の手が二つ分の大きさであったため、手で千切って一口分の大きさにすると口に入れた。

「美味しい……ッ」

先ほど食べたクソのような食べ物と、知的生命体が考案し、何代にも渡って機能と美味しさを追求して来た食べ物のあまりにも違いすぎる味に思わず涙が流れた。

「なにあの子。いきなり土食べ出したと余思ったら干し肉食べて泣いてるんだけど…。意味が分からなすぎて怖いわ…」

「ああ、俺も何がなんだか分かんねぇが、初めて会った時から変だなって思ってたからあんまり衝撃を受けてないことにおれはショックだ」

「苦労してるわね」

「なに他人事みたいに言ってやがる。ここまで関わったからには逃がさねぇぞ」

「え、ええと、あなたに愛剣を渡した後に用事があったのよ。ええ、だからこれからとーっても大事な用があるから、帰らないといけないのよ」

お姉さんは何とかしてこの場から離れようと理由を探して目が泳いでいるけれど、おっちゃんはなにも言わず頷く。

「そうかそうか、新しく生まれた真祖吸血鬼以上の大事な用があるんだな」

「え、ええ、そうよ」

「なら仕方がない」

そこでおっちゃんはお姉さんから視線を外して明後日の方へ悲しそうな目を向け、絶対に逆らうことのできない魔法の言葉を言った。

「ギルドにA級“魔花”のリアローザは無抵抗の真祖吸血鬼を拘束して殴ったって報告しないといけないな…」

「やあねぇ、何を言っているのよ。用事なんかよりも大切な仲間といることの方が優先に決まってるじゃない!それに?新しく生まれたって言う真祖吸血鬼は優先保護対象として扱わないといけないほどのデリケートな物だしね!真祖種に傷なんてついてたらヴァンパイア全体を敵に回すかもしれないしね!」

お姉さんはね?ね?と何度もアイコンタクトを送る。

「ああ、そうだな。あいつを無事にギルドに保護してもらう前に、良識のある大人が世間の常識を教えたらギルドで手間が省けて良いかもな。あ!そういやあいつ、滅茶苦茶食うんだけど、俺は愛剣の整備に金を注ぎ込んだせいで手持ちがねぇんだよなぁ。それにここから街まで結構距離あるけど、こいつの服とかいろいろないんだよなぁ。一瞬で行って帰ってこないと食べ物どころか色んなものが足りない状態でこれから探さなきゃいけないなぁっ」

「くぅぅ、分かったわよ!教えるし買えば良いんでしょ!?リストはあるかしら?!」

「いやぁ、悪いなぁ。だけどこいつがうちに来たのが昨日だったせいでそこらへんもまだ出来てないんだよなぁ。だからちょっと待っててくれないか?」

「うがあああ!」

お姉さんは頭に来すぎたのかローブから黒い宝石が付いたロッドを抜くとおっちゃんに殴りかかった。

その様子を干し肉を食べ終わって見ていたけれど、なかなか終わる様子がなかった。しかしこのまま帰っても勝手に食料を漁るのは流石にダメだと理解しているため、どうしようかと困っているとカリンが前に出た。取り敢えず見守ることにし、カリンの行動をじっと見ていると、自分の視線に応える様に頷くようにカリンは地面に踏ん張り頭を下げた姿勢を取った。その姿勢の意味を測りかねていると、突然猛スピードでギャーギャー叫んでいる二人へ突撃して吹き飛ばし、二人に違う意味で叫ばせた。

あとに残ったのはピクピクしている二人と二人の上に前足を乗せて踏ん反り返っているカリンだった。

「なにこれ?」

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