●真祖吸血鬼の誕生

目が覚めると周りは真っ暗で、ここが何処なのかも分からなかった。手を伸ばすもすぐに壁らしき物に当たり、ここが狭い場所なのが分かった。

「ここ何処?」

その疑問に応える者は当然いない。何故ならこんな狭い場所に他に人がいるならもっと狭くなっているはずだから。

「どうしようか。押してもびくともしないし。と言うか力が入らない。なんでだろ?」

自身の身体に力が入らない理由がわからず、首を傾げるが、わからない物は仕方がないと割り切る。

「なんにも出来ることは無さそうだし、取り敢えず寝よっ」

先ほどまで寝たいた事実を忘れ、退屈凌ぎに再度寝た。

暗闇のためどのくらい時間が経ったのかも分からないまま寝続け、次に目が覚めた時、最初に目に入った物は暗闇ではなく、青空で燦々と輝く太陽だった。

(眩しッ!眼が痛いッ!)

久しぶりに光を見たため、目に潰れそうなほどの痛みが走って思わず目を窄める。

そして幾ばくかの時間が経ち、目が光に慣れ始めたので寝た体勢から胡座をかく体勢に移行し、大きく伸びをする。

「ん〜、よく寝た」

完全に目が覚めてから改めてもう一度周りを見渡す。

「ほぇー」

(すごい荒れてるなー。ここで何があったんだろう?)

周囲を見渡すと、自分を中心に大きく窪んでおり、所々破損されたような形の鉱物が転がっている。

窪んだ大地から出ても鉱物は落ちているが、それ以上に目立つのは建物の破片らしき物だ。その大きさは好物の大きさが自身と同じぐらいの大きさなのに対して、建物の破片らしきものはその倍かそれ以上の大きさであることからとてつも無く大きく感じる。

「あの破片って5メートルもあるんじゃないの?」

(やばい所で起きちゃったみたい。そういえばここ何処だろう?)

破片や窪んだ大地以外は密林のような森が周囲を囲んでおり、他の場所に行くとしても森を通過しなければいけない様だ。

「何をすればいいのか分かんない。また寝るのも飽きたし、取り敢えず1番高そうな山がある方に行こうか」

行く方角を決めるとすぐに行動に移し、まっすぐ山に向かって歩き出した。

(むー、蔦とか膝まである草が邪魔だなー)

すると頭の中にできそうな事が浮かび、実行する。

「こう?」

浮かんだアイデアを実行するために掌を見つめて魔力を操作する。すると紅色の魔力が腕を覆った。

「おー。なんか出た。じゃあこれは?」

腕を覆っている魔力を操作して拳に集め、球体状にする。

「おーっ。結構自由に動くっ。これおもしろー!」

球体を浮かばせたり、何個か作ってお手玉にしたり、いろんなことをして遊ぶ。

「あ、忘れるところだった。これで遊ぶのもいいけど、最初に立てた目的を達成してからにしようか。これじゃあ、いつまでも終わりそうにないしね」

宙に浮かばせている球体を消し、もう一度腕から紅色の魔力を出す。

(これを手からまっすぐ伸ばしてー。これじゃあ草は切れそうにないなー。じゃあ、平らに、薄くなるように伸ばして。んー?あ、持つところがないのか。じゃあ、保つところだけ細く。細すぎた。俺が持つんだから俺の手に合うように。んー、なんかシンプルすぎる気がするなー。でも装飾とかの記憶がないしなー。あっ、そうだっ。持つところに蔦みたいな奴を作ったらよさそー!うー、それにしても疲れたねー。でもまだまだ改良して行けそうだし、今度頑張ろうかー)

多少気に入らないところもあるが、当初の目的通りの物は出来たので、その出来栄えを観察する。そしてやはり満足できる物ではないのか、不満そうに唸るも慣れない魔力操作をしたせいで疲れたのか改良する事を諦めた。

(魔力操作ってすんごい疲れるなー。まだ慣れてないからかな?んー、考えても分かんないし、取れあえず練習できる時に遊んだりして慣れるしかないかー)

自身が作り上げた剣を見て魔力操作について考えながらも、右手に持った魔力の剣で歩く邪魔になりそうな枝や蔦などを切り捨てて歩き続ける。

「そういえば、お腹空いたなー。起きたばかりだしなー。なんかないかなー」

ダラダラと自身の欲望を吐き出しながら歩き続けると、目の前に体長3メートルもありそうなイノシシが見えた。イノシシもこちらを見ており、寝ていた体勢から立ち上がって突進する態勢に入る。が、少年は何か反応することなくぽけーっと自身の倍以上あるイノシシを見上げている。

「ブゥッ!」

そしてイノシシは鼻息荒く突進し始めた。

イノシシが少年と接触まであと1メートルもない距離に来た瞬間、少年が剣の腹でイノシシを殴り真横に吹き飛ばした。

「よっしゃーっ。ご飯ゲットー!」

イノシシは少年に吹き飛ばされ、近くの木を何本も折ることで衝撃を緩和させ、尚も立ち上がろうとするが体内のダメージが相当で立ち上がるほどの力を入れる事が出来ないようだ。

イノシシは手を出してはいけないモノと接触してしまった事に気づき、絶望したのか顔色が悪くなる。

「あれ?顔色悪くなったけど、何か病気でも持ってるのかな?」

自身が与えた影響でなっている事に気づかず、不思議そうに首を傾げる。

「お腹すいたしどうでもいっか」

(仮に病気でも食べたら大丈夫だろう)

何が大丈夫なのかいまいちわからないが、目の前に肉があるため食欲がすごい事になっているのでほとんど本能で食べることを決めた。

「あー、こんなに大きいのどうやって食べようか。こんなに大きいとたくさん場所とるしなー」

イノシシをぶっ飛ばして木をなぎ倒したからといって、そこまで広い間があるわけでもなく、解体するにしてもする場所がないため、どうするか悩む。

「んー、仕方がないか。めんどーだけど最初の場所まで戻ろ」

イノシシを何処で調理するのかを決めると、イノシシを仕留めるべく近づく。

「ブゥ、ブゥ、ブゥっ」

「ん?何か言いたい事でもあるの?」

何事かを訴えるようにイノシシが叫ぶため、どうしたのか分からず首を傾げる。

「ブゥっ、ブゥっ」

ダメージがあるためか、苦し気にしつつも、それでも何かを伝えようと鳴き声を上げる。

「やっぱり分かんないなー。ま、分かんないことは考えても仕方ないし、殺そっ」

いくらイノシシが必死に伝えようとしても種族が違いすぎるため、何を言っているのかが分からないので思考放棄した。

そして、右手に持つ剣を振り上げ、一言。

「ごめんね、イノシシ。許して欲しいとは言えないけど、俺のご飯のために死んでね」

剣を振り下ろした。

だが、その剣がイノシシに当たる寸前で止められた。

「え?」

イノシシの前に立つ黒髪の自身よりも大きな男のヒューマンが手にした自身が持つものと同じようなもので受け止めたのだ。

「てめぇ、うちの可愛い可愛いカリンに何してくれてんだッ、ああん?」

「カリン?」

何処にそんな可愛らしい人がいるのか首を傾げる。周囲に人の気配は感じなかったのだ。そもそも、周囲に人がいないからこそ、当てずっぽうで道を決めて歩いていたのだ。

(そんなやつ何処にいるんだよ。なにか食べ物があるなら貰えるように交渉するから、こっちが聞きたいよ。交渉出来るものは無いけど)

「そんな可愛らしい名前のやつ、見たことないよ」

「ッここにいんだろうが!」

例の棒状のやつで弾かれたため、そのまま数歩下がる。

「えー?意味わかんない。もしかしてそのイノシシのこと言ってるの?」

「そうだ!このつぶらな目をした可愛い子がカリンだ!」

(ますます意味がわかんない。もしかして保存食みたいにお腹が空いた時用の?)

男の返答に混乱したため、ひとまずあり得そうな答えで保留にする。

「そいつはおっちゃんのなに?」

「俺の大事な家族だ!」

「かぞくー?」

家族の意味が分からず、より混乱してきたために思わず聞き返してしまう。

「イノシシと家族で何が悪い!なんか文句があるか!?」

「家族ってなに?」

「は?」

何やら叫んできたので疑問をぶつけると、男は鼻を摘まれたような間抜けな表情をした。

「え、なんて?」

「家族ってなに?」

聞こえなかったようなので、もう一度聞き返すと、今度は頭を抱えて何やらぶつぶつと呟き始めた。

「…で……と…じ…な……ど…か……あ…」

耳を澄まして聴いてみても要領を得ないことしか聴こえず、首を傾げる。

「おーい、だから家族ってなにー?」

「あ、ああ、家族っていうのは、親父とお袋と自分のこととか、支え合う仲の奴らを言うんだ」

「親父とお袋ってなに?」

「お父さんとお母さんのことだ」

「お父さんとお母さんってなに?」

質問を繰り返すとまた頭を抱えてぶつぶつと呟き始めた。

先程耳を澄ましても聴こえなかったため、今度はまた再起動するまで魔力の球体でお手玉をしつつ気長に待つ。

「え、俺がこんなに悩んでいるときにお前何してんの?」

ようやく起きたようで、こちらに目を向けると、何やら目を丸くして質問してきた。

「先に俺の質問に答えてよー」

「ああ、そりゃあ悪ぃな。でもこれ以上は俺には答えられそうにねぇわ。それで悪いんだけどよ、お前についても教えてもらえねぇか?」

「俺のこと?」

男に言われ、自身のことについて考える。

だが、自身の記憶と呼べるようなモノはなく、首を傾げるだけだ。

だが質問されればわかることもあるかも知れず、取り敢えず聞いてみることにした。

「何を答えればいいの?」

「あー、取り敢えず、なんで裸なんだ?」

「裸?」

少年は起きた時から何もきていなかったことを思い出した。

「なんかスースーするなって思ってたら裸だからか」

「気づいてなかったのか?!」

その余りにも鈍感過ぎる姿に愕然とするも、すぐに立ち直り質問をする。

「じゃあ、何処出身だ?」

「何処?記憶にないけど、強いて言えばこの森だね」

「この森?!」

「そうだけど?」

何かおかしいことでもあるのかわからず、首を傾げる。

「いやいや、ここ《ファラシャス》の遊技場跡地だぞ!?」

「なにそれ?食べ物?」

「知らないのか?!」

今度こそ、男は自身の許容量を超え、フリーズしてしまった。

(へー、この森って《ファラシャス》の遊技場跡地って言うんだ。なんかどでかい遊び場でもあったのかな?例えばあの破片があったところとか)

男が動きを完全に止めた為、仕方なくまたお手玉をして遊び出した。

「なんか増えてる?!」

お手玉を増やし始めてから暫くすると男が再起動した。

「って、そんなことは今は置いておこう。お前、ここに来るまでにほかに誰か見たことあるか?」

「そこのイノシシに会うまでなんの生物とも会わなかったよ」

「そうか…。そういやお前何歳だ?」

「わかんなーい。さっき起きたばっかだけど、全く記憶ないんだよねー」

「記憶喪失か?いやでも自我がはっきりとし過ぎてる。もしかしてデーモンとかの上位種族か?」

質問してはぶつぶつ呟く男に、いい加減我慢の限界が迎えた。

「ねーねー、もういい?そいつ食べたいんだけど」

「良いわけねーだろ!さっき家族って言ったよな?!」

「だからそのかぞくってのがわかんないんだって。けど、おっちゃんも答えられないみたいだからいいや。なら代わりにおっちゃんが食べ物くれよ」

「え、お前腹減ってんの?」

「当たり前でしょ。俺は起きてから何にも食べてないんだよ」

「わ、分かった。カリンを食わすわけにもいかねぇからな。ついて来い。俺の家に案内してやる」

「おー、ありがとー」

「ブゥ…」

男は先導するため後ろを向いて歩き出そうとして、カリンの声が聞こえてきたため踏みとどまった。

「わ、忘れてたわけじゃ無いぞ?」

「ブゥブゥ」

「いやここでかっこよくターンを決めてお前の方に行こうとだな…」

「ブゥッ!」

「ぐぼぇ!」

カリンは先程死に掛けていた様子も見せず、素早く立ち上がると男に向かって突進した。

男は必死に言い訳を考えていたため、かりんに注意を向けるのを疎かにし、いい感じで突進を喰らい、木に激突した。

「ブゥっ」

カリンは吹き飛ばした男の上に前足の乗せると満足そうに鳴いた。

「んー」

その2人?のかぞく愛温まる?行為に少年は腕を組んで難しい問題を解く時のように唸る。

「それがかぞくって奴なのか?」

「んなわけ「ブゥっ!」グェッ!」

少年に答えようとするおっさんだが、カリンはおっさんを押さえつけて黙らせる。

少年はより分からなそうに首を傾げるが、より切実な問題が迫っている為に2人?を急かす。

「ねーねー、俺お腹空いてんだけど、早くしないとカリン食べちゃうよ?」

「ブゥ!」

「ブハッ。わ、分かったから蹴らないでくれ!お前の力強過ぎるんだよ!」

カリンを食う、の部分にカリンが反応し、男を蹴り上げて急ぐように言う。

「お前、どのくらい腹減ってんだ?」

「記憶がないんだから比較できるもんもないに決まってるでしょ。もしかして馬鹿なのかな?まあ、少なくとも今日は何も食べてないねー」

「それが人に食いもんねだる態度かよ…。じゃあこれでも食うか?」

男は少年の態度に呆れるが、何時間も腹が減っているのを酷に思い、腰に吊るしている皮袋から干し肉を渡した。

「おお!なんかうまそう!」

「礼もなしかよ…」

引ったくるように干し肉を奪って食っていることに男は文句を言いつつも、それほど腹が減っていたのかと同情した。

「ふぅ、さっきより少しマシになった。ありがとう!」

「はやっ!お前水もなしにあれ食ったのか?」

「水?ああ、どおりでちょっと辛かったわけだ」

「いや、普通そんな簡単に噛み切れるはずがないんだが…」

だからこそ、男は時間潰しに渡したのである。

「えー、あのぐらい魔力使えば余裕で食えるでしょ」

「魔力ぅ?お前身体能力強化でも出来んのかよ」

「当たり前だよ!このぐらい生まれたばかりでも出来るでしょ!馬鹿にしてるの?」

先程男を馬鹿にしたことを棚に上げて少年は怒った。

「いや、普通できるわけ…」

そこで男は少年がヒューマン以外の多種族ではないかと疑っていたことを思い出した。

「そういやお前の種族聞いてなかったな」

「種族?」

「そうそう。お前人間種なのはわかるけど、ぱっと見ヒューマンだからな。もしかしたらハーフとか、他の種族の血が混ざってるかも知れないだろ。っと、そっか。お前記憶なかったな。悪い、忘れてくれ」

「種族なら分かるよ?」

男は気を遣って話をずらそうとしたのに予測と違って転けそうになった。

「なんで分かんだよ。記憶ねぇんじゃなかったのか?」

「俺の記憶って呼べるようなものが無いんだよ。あるのは情報だけ。何何ができる〜みたいな感じで頭の中にあるんだけど、それが本当に出来るって実感がないんだ」

男は少年の説明で少年の状態が少し理解できた。要するに自分に関するごく僅かなことしか分からず、それ以外は欠けらも記憶がないということだ。

「へー、珍しいこともあるもんだな。じゃあなんの種族なんだ?ハーフエルフとかか?」

「違う。種族序列第2位、真祖級ヴァンパイア。ヴァンパイアの頂点だよ」

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