真祖による冒険譚

滝米 尊氏

●始まりの時

かつて、《ファラシャス》と呼ばれる絶対的な強さを持つ怪物がいた。《ファラシャス》はその有り余る強さにものを言わせ、自身の欲望のままに喰らい、気に入らない物は全て殺戮し、世界を恐怖させた。

だが人種と呼ばれる、序列12位ヒューマン、序列11位ピクシー、序列10位ビースト、序列9位エルフ、序列8位ホビット、序列7位マーメイド、序列6位ドワーフ、序列5位ジャイアント、序列4位デーモン、序列3位エンジェル、序列2位ヴァンパイア、序列1位ファンタズマ、などの二足歩行する生物たちは《ファラシャス》の絶対的な力に怯え、恐怖しつつも誰かがその脅威を消すことを望んでいた。

《ファラシャス》が世界を恐怖で包んで何百、何千年と経ったある日、1人のヒューマンが立ち上がった。

ヒューマンの種族特性は数を生かした何代にも渡る種族としての研鑽と適応力。だがそれは数が多いことしか取り柄がないとも言え、他の種族よりも、あらゆる面で劣っていると言われた。ピクシーは魔力操作能力、ビーストの高い五感と身体能力、エルフの魔力適性、ホビットの器用さ、マーメイドの自然を魅了する歌、ドワーフの神憑かった器用さ、ジャイアントの圧倒的な質量、デーモンの多種多様な能力、エンジェルの規格外の制約能力、ヴァンパイアの夜に限り発動する他種族を寄せ付けない圧倒的な再生能力、ファンタズマの伝説上でしか見聞きしたことのない摩訶不思議な超常現象を引き起こす力。ヒューマンが研鑽したところで《ファラシャス》どころか他種族にすら追いつけるものではない。

だが、立ち上がったヒューマンは研鑽された情報と言う誰も気にもしなかった武器で他種族を説得し、自身と共に《ファラシャス》と戦う者を集めた。ピクシーからは仲間を支える覚悟と魔法を持った者、ビーストからはあらゆる武器を手足のように扱う武神のような者、エルフからは他の追随を許さない森羅万象の如き魔法を操る創法者と呼ばれる者、ホビットからは大地の祝福を与える者、マーメイドからは人々に愛と勇気を持たらす愛らしき者、ドワーフからはあらゆる攻撃を弾く強靭な防御力を持つ者、ジャイアントからは山を一撃で粉砕する強き力を持つ者、デーモンからは魔物の特殊能力を吸収し糧にする者、エンジェルからは万人から聖なる者の勲章を送られた素晴らしき者、ヴァンパイアからは強靭な再生能力を生かして他者を守ることに生き甲斐を持つ者、ファンタズマからは視界に入ったあらゆるモノを解析する能力を持つ者が《ファラシャス》を討つため、そして世界を取り戻すために戦うことを誓った。

だが、《ファラシャス》は強すぎた。何度も討伐に赴くもその度にボロボロとなって撤退していた。初めは退屈凌ぎに相手をしていた《ファラシャス》も次第に飽き、ついに終わらせることを決意し、次も退屈なままであればそれぞれの種族の8割の者達を殺す、と世界に伝えたのだ。

この決意表明により、ボロボロとなって帰ってくる英雄たちを見る度に感じていた不安が爆発した。“何故あんな無謀な事をした”、“お前たちのせいで俺たちは死ぬ”など、掌を返したように罵倒し、排斥し出した。英雄たちも《ファラシャス》に手を出した事を後悔し、民衆の不満を受け入れた。

だが、初めに立ち上がったヒューマンだけは諦めなかった。ヒューマンの英雄は最後の切り札を切った。それはそのヒューマンの家系が何代にも渡り研究していた召喚魔法だ。だが、通常の召喚魔法で召喚できるのは予め印をつけていたものか、あるいは魔力を対価に、捧げた魔力と同等のモノをランダムに呼び出す、と言うモノだ。だが人間種程度の魔力総量では《ファラシャス》と同等以上のものを呼び出すほどの魔力を用意できる筈がない。できるのであれば初めから《ファラシャス》を脅威に感じていない。と仲間たちから猛反対を受けるも、ヒューマンの英雄は実行する決意を曲げる所かより強固な決意をする。

ヒューマンの英雄は意地になったように召喚の用意をし、召喚陣の上に立つと今までの様子が演技であったかのように寂しそうに笑った。その様子に仲間たちは嫌な予感を感じていたが魔法の暴発を恐れて近づかない。そんな仲間たちに寂しそうにしつつも満足そうに笑い、仲間たちに別れを告げるように言葉を送った。それに仲間たちは嫌な予感がより強まり、暴発の危険を冒しつつも一歩近づいた。だが、ヒューマンの英雄は手を上げ仲間たちの接近を拒否した。それでも止まらないものはいたが、ヒューマンの英雄が予め用意していた罠に捕まり身動きが取れなくなる。ヒューマンの英雄はそれを見届け、仲間たちを元気付けるように笑うと、召喚魔法陣を起動した。エルフの英雄は魔法陣の上にヒューマンの英雄が立っている事に気づき、慌てて呼びかけるも、ヒューマンの英雄は忠告を無視してその場に立ち続ける。その意味にようやく気づき、エルフの英雄は召喚魔法陣を壊そうとするも、召喚魔法陣の周囲を覆う結界により妨げられる。仲間たちもエルフの様子がおかしい事に気づき問い詰めるも、その内容をきちんと理解できる者はいなかった。だが、それでもヤバイと言うことは理解しなんとか召喚魔法を止めようとするもヒューマンの英雄を中心に目を焼くほどの光に覆われる。英雄たちは衝動的に目を閉じてしまう。

そして目を開けた時、ヒューマンの英雄はそこに居らず、いるのは見たこともない黒髪のヒューマンのみ。

その様子に殆どの英雄たちは首傾げたが、エルフの英雄だけは泣き崩れた。

後にエルフの英雄は仲間たちに事情を話し、その話に仲間たちは絶句し、エルフの英雄と同じような反応をした。だが、エルフの英雄は1番冷静に黒髪のヒューマンに誰何と質問をするが、話が通じていないようなので知る限りの言語で話すも、黒髪のヒューマンは首を傾げるだけ。その様子に短気な者たちは苛立ちを募らせるが、エルフの英雄は冷静に翻訳の魔法を黒髪のヒューマンに使い、話しかけた。それでようやく話が通じて質問を繰り返すうちに驚愕の事実が発覚した。黒髪のヒューマンは異世界の出身のようだったのだ。そしてエルフは慌ててヒューマンの英雄の部屋を漁り、机の上にあった宛先不明の手紙を開けた。

そこには立ち上がった当初のことから召喚された黒髪のヒューマンのことまで書かれており、これまでが筋書き通りだった事に気づいた。そして、遺書に書かれている通りに黒髪のヒューマンを鍛える事に決め、仲間たちに話し同意を得る事で黒髪のヒューマンを鍛えることが決定した。黒髪のヒューマンは嫌がったが、英雄たちは話を聞かず、黒髪のヒューマンを鍛え続けた。

1年後、召喚当初とは見違えるほどに強く逞しくなった黒髪のヒューマンは人々の希望を背負い、各種属の英雄たちと肩を並べて《ファラシャス》と戦った。その戦いは三日三晩続き、英雄たちは何人も膝を着いたが、《ファラシャス》を討つ事を成し遂げた。

その事に人々、いや世界は歓喜し、誰もが望んだ平和な世界が訪れた。


そして《ファラシャス》が討たれてから1000年後。

《ファラシャス》が世界で遊んでいた本拠地から《ファラシャス》の遊技場と名づけられた城の地下にある墓地。その場所にある最も雄大な棺が突如として周囲の魔力を吸収し始めた。その場所は《ファラシャス》と英雄たちが戦った影響で多くの魔力があり、長い年月が経った事でより濃縮されていた。その魔力を全て棺が吸収し終えた瞬間、上にある城を全て吹き飛ばす威力で巨大な爆発が起きた。

その中心には白髪のヒューマンに見える、とても美しい15、16くらいの少年が倒れていた。

その少年は目をゆっくりと開けるが、太陽の光が目に入った事で目を窄める。

それから数分後、ようやく目が慣れたのかゆっくり起き上がり、周囲の様子を見る。

周囲は先の爆発の影響で荒れており、少年を中心にクレーターが出来ている。そして所々に城の破片が先の爆発の威力を物語っている。そんな中心にいる少年は1つ大きな伸びをすると呟いた。

「ん〜、よく寝た」

これが彼がこの世界に誕生し、初めて呟いた言葉である。






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