10.秘密の部屋
所長が開いたドアの向こう側、そこにあったのはもはや部屋とは言えない超巨大な空間だった。
中には自然が溢れ、木や草はもちろんのこと、川や海も流れている。
「わあ、すごい……」
「嘘でしょ! こんな魔法見たことないわ!」
アリサやレヴィアが驚愕しているのはもちろんだが、ルシフも内心穏やかではない。今にもココロが踊りだしそうな気分だ。あんなことがあった後でなければ、もっと騒ぐことも出来ただろうが、今はそんな気分ではなかった。
とはいえ、それでもルシフは十分に驚いていた。
「さすがの俺もこれは予想していなかった」
所長はそんな3人のようすを見てご満悦なようで、微笑みながらその様子を見ていた。部屋の中は明らかにどこまでも行けそうな感じで、ドアの後ろ側まで空間が広がっており、ドアの枠の中にだけ廊下が見えている不自然なものだった。
それこそが空間拡張魔法のすごいところだ。わずかな空間を質量さえ無視して、広げることが出来る。
「驚くのはまだ早いぞ! この空間はただ空間拡張したわけではない。この自然もすべて私が魔法で作ったのだ!」
「嘘だろう!? 生命を生み出す魔法はこの長い歴史のなかで作り出したのは、災厄の悪魔が作った魔物製造魔法ぐらいだ。それが本当だとしたら、あんたは厄災の魔王の再来ってことになるぞ!?」
そうなるとルシフも冷静でいることなど出来ない。遠くにも声が聞こえていたようで、アリサとレヴィアもその様子を伺っている。
「まあまあ、落ち着きたまえルシフ君。これは創造魔法なんてたいそうなものじゃないよ。ただ人の心にこの情景を映し出す空間幻想魔法といったところかな。」
「空間幻想魔法? つまりどういう魔法です?」
そう聞くルシフに対し、なぜか嬉しそうに所長は話す。
「私が名付けたこの空間幻想魔法とは、その名のとおり空間に私の幻想を映し出す魔法だ。」
「そんな悪魔じみた魔法が……?」
通常ならば、ルシフが驚いているのを見て所長は満足げにするというのが流れなのだが、所長は苦虫を噛み潰したような顔をし、なにか言い辛いことを話すが如く小声で呟いた。
「うむ、しかしひどく難しい条件をクリアしたうえでのみ発動できるものだという事もあるし……なにより、この魔法で街の人々にいたずらをしていたのが原因で、左遷されたわけだが……いや、なんでもない」
もし、所長が言うように厳しい条件があったとしても、幻想を現実のようにみせる魔法など生命を作り出す創造魔法と同じか、それ以上にすごい魔法であることは確かだ。獣の刻印も聖なる刻印ももたぬ所長がここまでの魔法を使えるようになるには尋常ではない努力があったのだろう。
「そうですね。だけども、よくこんな場所で魔法の開発が出来ますね?」
所長は魔法実験が好き過ぎるあまり危険人物とみなされ、魔術師団から追い出され、大した研究施設もないこの街で研究せざるをえないのだ。
「それは違うな……この街だからこそ、私はこの空間魔法をより強力なものにすることが出来たのだ。これほど良い研究環境は他にはないだろう。もし仮に、もう一度、王都に戻れと言われても、戻るつもりはないほどにね」
所長の感慨深かそうにそう言う。
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