9.所長の秘密

 所長のとっておきを見せてもらうために部屋をでたルシフ一行だったが、そのとっておきが一体何なのかはもちろん知らない。だから、どこへと向かっているのかも検討がつかない。

 部屋を出てから思いのほか長い廊下をルシフたちが登ってきた階段とは反対の方向へと、何メートル、何十メートルと歩いても目的地につかないようだ。

 ルシフはもとい、レヴィア、アリサに至っても辟易とし始めたようだ。もう10分はなんの変化もない廊下を歩いているのだから、仕方がないことだろう。所長はそんな様子も気にせず歩き続ける。

 

「いくらなんでもおかしくない?」

 一番はじめにそう切り出したのはレヴィアだ。疑問に疑問で返すのがルシフ、同意するのがアリサだった。

「なにが?」

「これはおかしいですね?」

「だからなにが?」

「だってこの役所はこんなに大きくなかったでしょ?」

「それはそうだが……」

 もちろん、そんなことにはルシフも最初から気がついていた。気がついたうえで2人が何に対して疑問を持っているのかかが理解できないのだ。

「僕もそう思うよ。これだけ歩いたんだ……それなのにまだ廊下の突当りが見えないって、なにか不自然じゃない?」

 そんなアリサと問いにルシフは廊下の奥をじっと見つめる。ルシフの目にも映ったのは永遠に伸びる廊下の壁だけだった。

 

(確かにおかしいかもしれない……俺の知っている限りではここまでは……だが、所長の事だから問題はないだろう)

 ルシフは所長のことをかなり信頼していて、少しくらいおかしなことがあろうとも大して気にもとめない。そんな風に落ち着きを保っているルシフをみて、レヴィアとアリサは落ち着きを取り戻して再び歩みを進める。

 それからもひたすらに、長すぎる廊下を歩き続ける4人だった。

 

 

 歩き続けること1時間、ようやく目的地に到着したようで所長が歩みを止めて、ルシフたちのほうを振り返る。

 

「みなさん、お待たせしました。こちらが私のために作った私だけの秘密の部屋だよ」

 

 そう言って所長が紹介した部屋の外装はさっきまでいた部屋と遜色ないものだった。どのあたりがとっておきなのかはわからないが、中に入ってみるまで何とも言えないだろう。

 ようやくのおもいでここまで来のだから、どうしても期待せざるをえないルシフとレヴィアだ。ドアの中を潜るが非常に楽しなのだろうか、ずっとそわそわしている。それはもう、帰りにまた1時間あるかなければならないことなど、忘れてしまっているようだった。

 だが唯一人、アリサだけは全く別のことが気になっていた。

 

「所長さん。この役所はそこまで大きくなかったはずだよね? どうしてこの廊下はこんなに長いんだい?」

 アリサにとっては一番気になることであった。

「この廊下にはね、私が得意とする空間魔法がかけられているんだよ。」

 さも当たり前かのように答える所長。

「空間魔法? そんなもの聞いたことがないよ。」

 アリサの疑問も当然なものだとルシフはわかっていた。所長にとっては話しづらいことだが、ルシフならうまく説明できる。

「所長は元々、王国魔術団の最上位魔術師である賢者の称号をもつものだったんだ。だが、知ってのとおり魔法狂いだ。魔法の研究に明け暮れるあまり、新たな魔法を生み出してしまった! それがこの空間魔法だ! だが、所長の魔法の使い方はあまりにも派手だ……多くの問題を起こし、研究職からは外され、この街に左遷されてきたという訳だ」

「おいおい、勝手に人の恥ずかしい話をするんじゃない。だけどそう、私が生み出した魔法だ。自分で魔法の能力を語るのは何か恥ずかしいが、その魔法の一つとしてあるのがこの廊下にかけた空間拡張魔法だ!」

 

 所長が高らかにそう言い放つ。レヴィアにとっては、そういった個人で開発した魔法は珍しくはないが、まだ経験が少ないアリサにとっては非常に珍しいことだ。アリサは目を輝かせている。

 

「驚くのはまだ早い。ルシフ君にもまだ教えていないことがあるのだ! ルシフ君は知っていると思うが、空間拡張魔法には幾つかの欠点がある。1つは1度使えば元に戻せないこと、もう1つは拡張の調整が効かないことだ……それゆえ、この廊下のような悲惨な状況が生まれていしまった」

 悲壮な目をして所長は話した。

 長々と続く廊下は、調整ミスによって膨大に広がってしまった空間というわけだ。

「それよりも、早く部屋の中に入りませんか?」

 もう時間を1秒も無駄にしたくないレヴィアがそう提案する。唯でさえ、魔力が枯渇気味な彼女だ。街の外に広がってしまった膨大な水たまりをどうにかする為の魔力を回復させなければならないのだから、出来る限り早く魔力をためておきたい。

「それもそうだね。こんなことをしていたってボスにばれたら、次はどこに飛ばされるかわからないし……」

 所長が髪をくしゃくしゃといじってから、ゆっくりとドアを開けた。ドアの向こうには衝撃の景色が広がっていた。

 

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