6.王国騎士団3
「ハムートは現代における最強の悪魔刈りと言われ、おそらくだけど、ルシフが悪魔の力を使ったとしてもハムートには勝てないんじゃないかってぐらいに強いわ」
唐突にそう話すレヴィアにルシフは呆然とした。
「さすがに俺は聖者に勝てるほど強いなんて、そんな自意識過剰なことは思ってないぞ?」
それもそのはず、ルシフは聖者を尊敬こそすれ、自身の戦闘向けではない能力が通用しないことを知っていた。
「聖者。そう言えば聞こえはいいし、必ず強いものだと思い込むのも仕方のないことだと思う」
「そりゃあそうだろ……」
ルシフは呆れたように返す。
「でも、彼はまだ5才なのよ? それを聞いても勝てないと思うの?」
レヴィアはルシフを挑発するように言った。
「悪いがその挑発にはのらないぞ。お前と一緒にいることで俺がどれだけ怖い思いをしてきたことか……」
そう言ってルシフは苦い思い出を振り返り、寒気を感じたのか身震いする。
「ルシフって、時々とても失礼なことをズケズケと言うよね?」
「そうか? 俺は思ったことしか言わないぞ?」
レヴィアの思いは鈍感なルシフには届かない。それは出会った頃から知っていることだ。
「いまさら言ってもしかたないわね」
そう呟くと、話を戻すように「とにかく」と続けた。
「ルシフはハムートには勝てないの!!」
だから分かっている、と思うルシフだが口には出さず取り敢えず同意した。
「そう……なんだろうな」
「分かったならいいわ!」
少し不満気だったが、なんとか納得したレヴィアだった。
だけど、レヴィアがそこまで言うのだ。ルシフが全く気にならないわけがなかった。
「ところで、俺が勝てない理由ってなんだ?」
「そうね……。ルシフを超える剣術が使えるとかかな?」
「レヴィアが絶賛するほどの魔法を使用で来て、俺が努力で鍛え続けてきた剣術を上回る剣術……それも5歳で、か?」
「ええ。たぶん史上最高の天才、いいえ、天災とでも言うべきで存在よ」
確かにルシフはそれほどの実力を持つ相手に尊敬の念すら抱いた。しかし、同時に哀れにも思う。自分を超える剣術が使える子供となると、それなり以上の筋力をつけているというとだ。
そこほどの筋肉を体に、それも5歳の時につけてしまったとなると、相当成長の妨げとなることだろう。ルシフはなんとなく可哀想だな、などと同情するだけでなく自身に重ね悲しさすら浮かぶ。なぜなら、彼自身も成長期に体中の筋力を鍛えた影響か、身長がそれほど大きくならなかった。それは戦士として致命的な欠点になり得る。
「悲しき運命を抱えているんだな」
「大丈夫よ。ルシフよりは成長すると思うから」
「それはどういう意味だ!」
そんなやりとりのおかげで、レヴィアは元気を取り戻したようだ。
(よかった、だが俺の身長に触れてしまったことだけは生涯恨んでやる)
1人でそう静かに誓うルシフであった。
「でも、確かに俺では勝てなさそうだな。そんな肉体の持ち主に勝てる気がしないぜ」
「なんか勘違いしている気がするけど、まあいいわ」
レヴィアは呆れて立ち上がった。
「もう時間も遅いことだし、私はそろそろ今日の宿を探してこないとどこにも泊まれなくなっちゃうわ」
彼女そう言い残し礼拝堂のドアを開け出て行こうとする。その言葉にルシフが衝撃的な言葉を発した。
「家に泊まっていけば?」
通常なら異性にそんな言葉を投げかければ、そういう意味と受け取られてもおかしくないのだが……その言葉の意味することをルシフは知らなかったのだ。レヴィアはそれに気がついていたから動揺することもなく聞き返す。
「たぶんルシフのいう、泊まっていけっていうのは普通の意味なんでしょうね?」
「普通もなにもないだろ?」
ルシフにとっては何気無しに言った言葉だが、その言葉はレヴィアにとってはありがたい。実のところ、彼女は近くの料金が安い宿に泊まっていたのだが、懐はそれほど温かくない。
「でも、おばさんにご迷惑なんじゃ?」
彼女にとっては気になるところだろう。
「いいじゃない。私は気にしないわよ。」
ドアの向こう側から聞こえた言葉にレヴィアは振り向くと、そこに立っていたのはルシフの母、マリアだった。
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