5.王国騎士団2


「じゃあ、もう1人の方はどうなんだ?」

 ルシフの声になぜか不機嫌になるレヴィアは、

 

「……あいつねー……あいつ……」そう嫌そうに呟く。

 

「なに不機嫌になってるんだよ。俺はただ聖者について聞いているだけだぞ?」

「私はあの子が苦手なのよね~。あの地角の聖者がね……」

 

 地角の聖者、その言葉にもルシフは聞き覚えがあった。

「そうか、もう1人はあの最年少の聖者だったか」

「うん。彼は私よりも才能がある子なんだけど……」

 そう言う彼女はどこか歯切れが悪い。

「変な奴なのか?」

「そういうことでもないわ。基本的にはいい子だし、努力も怠らないし、言わば努力する天才児ね」

 ルシフには彼女の言いたいことが理解出来なかった。今聞いたところでは悪い所などないように思える。

 

「だったら、一体なにが問題だと言うんだ?」

 

「うーん……。それはね、あの子がどうしてか私を尊敬しているらしく、ずっと私の後を付いてくるってことかしらね」

「いいことじゃないか」

「よくない! あの子と私はね、自分で言うのも烏滸がましいけど最強の十大聖者の2角なのよ! それなのに今回の任務にもついて来ようとしたのよ! 王都の守りはどうするつもりなのってことよ」

 

 最強の十大聖者とはその名の通り、王国内に住んでいる300人程度の聖者の中でも最上位クラスの聖者のことを指すらしいが、その実は誰もよくわかっていない設定だ。国民は特に気にも留めていないし、その実、誰も誰が十大聖者なのかも知られていない。

 

「そう言われても、俺ら庶民には十大聖者とかよくわかんねぇから!」

「大丈夫よ、私にも分からないから!」

 全然大丈夫じゃないと思うルシフであった。

 

「というか、そんなことどうでもいいから……とにかくその地角の聖者について教えろよ」

 ひとまず、凄い聖者ってことはわかったが、まだ名前すら聞いていない。ルシフは苛立ちのためか、強めな命令口調で言ってしまった。

 それでも、レヴィアは丁寧に答えた。

「彼の名前はハムートっていうの。聞いたことぐらいはあるよね?」

「ああ、名前は、な」

「そして彼が地角の聖者と呼ばれる所以、それは彼の頭にある角なのよ」

「角だと!?」

 角を持つ人類など存在しない、もちろん悪魔だろうが聖者だろうが例外ではない。それがこの世界での常識だ。

 

「驚いているところ悪いけど、続けさせてもらうわよ」

「あ、ああ……」

「彼は唯一この世界で角を持つもの、そして、私と同じように魔法を使える魔法騎士でもあるわ」

「そりゃ聖者なら魔法ぐらい使えるだろうよ」

 そんなルシフの言葉に、甘い甘いと言う風に指を左右に振った。

「魔法は魔法でもそんじょそこらの魔法とは違う。こればっかりは実際に見るより他ないけどね」

「そんなに凄い魔法なのか?」

「まあね、でもルシフはあまり驚かないかもしれないけどね」

 そう意味深そうな言葉を吐いたレヴィアだったが、彼女が魔法についてそこまで褒めるというのは相当凄いことだ。

 レヴィア自身、剣術の腕はゴミみたいなものだったが、魔法だけは天才の域を脱している。だからこそルシフはハムートの魔法が見たくなっていた。

 

「いつか見て見たいな……」

「まあその内、嫌でも見ることになるよ」

 ルシフはそう確信を持って言うレヴィアに違和感を覚えた。

「なぜそう言い切れるんだ?」

 その言葉にレヴィアは苦笑いをして冷や汗をかいていた。

「ごめん、今のなし……!  それよりもハムートの話よね?」

 彼女は失敗するといつもそんな顔をしていたから、何かを隠していることは確実だ。だが、話したくないことを無理に聞出すほどルシフは野暮ではない。

「ああ、どんどん話してくれ」

 そう言って、彼女の誤魔化しに乗った。

 

 

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