第3話

ダイエットを誓ったのにもかかわらず、なぜ私がお菓子を食べているか。


答えは至極簡単である。お茶会と言う戦場に私がいるからである。



「グレイシー様が本当に羨ましいですわ。」


「ふふ、ありがとうございます。」



いきなり話を振られてびっくりした。あ〜お茶とお菓子自体はすごく美味しいのだろうけれど、心が休まらない。なので味がわからない。


女にとってお茶会は情報を得る場所であり、格を見せつけ、騙しあったりもする。なんと面倒くさい世界なんだ。私が生きてた頃も人間関係は面倒くさかったけど。陰湿なのでいじめもあったし、陰口とかもあったけれども、言い方が大変回りくどい。いちいち動作に頭を使う。なんだろうこの無駄なことをやっている感。


いじめよくない。でも小心者の私は何もできないのである。長いものに巻かれている私を許してほしい。自分の自己保身に余念はない。



「そう言えば皆さん聞きまして?ネスビット侯爵家にもオットルがでましてよ。」


「まあ、それは大変ですわ。」

「フランチェスカ様も大変ですわね。」


「そうですわねえ、私たちも気をつけねばなりませんね…。」



「皆さん、気を引き締めてまいりましょうね。」


「「「「はい。」」」」



相変わらず回りくどい言い方をするなあと思いつつ神妙な顔をして頷いておく。


ストレートに訳すと、要するに。”ネスビット侯爵家令息が絆された。”ということである。

なんでこんな紛らわしい言い方をするんだろうね。もっとどストレートに色ボケ男になりましたよ、とか惚れて修羅場になりますよ、とか言ってくれるとわかりやすいのにね。まあ悲しきかな貴族という生き物は体裁を気にするものだ。


この世界のオットルという生き物は前世で言うオットセイみたいな生き物である。ここまで言えば勘のいい人はわかるだろうけれど、そう、このオットル、なんとハーレムを築く生き物なのである!しかもこのオットルという生き物、女がハーレムを築く。要するに逆ハーレム。生物ってすごい。


というか、ええ〜すごい。モテる女っていうのは本当にすごいなあ。ここまできたら逆に無罪にしてほしいくらいのあっぱれっぷりである。何人目だ?5人目?いや6人目だったか?乙ゲかよ。にしても凄まじいな。この勢いで全世界の男を無双してきますと言われてもあ、ハイ。ってなりそう。でもブライアンはやめてね。ジェフも嫌だって言ったらやめてあげてね。

私も一度でいいから良い男を大量に侍らせてみたかった人生だったなあ。グットルッキングボーイを配置してレッドカーペットを歩いてみたかった。今はもうブライアンいるからいいけど。


というか全員まだ離れていってないんだ?随分とまあまめである。そんなに良い男が傍にいたら終始気が休まらないのでは?余計な心配か。というか私にもその手腕を分けて欲しい。ブライアン骨抜きにしたい。絶対に無理だろうけど。



「まあ、あそこにいらっしゃるのブライアン様とジェディディア様ではなくて?」



ブライアンのこと考えてたらブライアンとジェフが横切る。私たちのことには気がつかなかったようだ。忙しそうだなあ。まあ実際忙しいんだろう。お茶を一口飲む。美味しい。



「本当だわ。素敵ねえ。グレイシー様、いってらしたら?」



「お気遣い、感謝いたしますわ。ですが今日は皆様とご一緒させていただきたく思いますの。ブライアン様にも言われましたの、お友達とお茶会楽しんできてね、と。」


「そうでしたのね!ブライアン様は本当に素敵な方ですわ〜。」

「うふふ、ありがとうございます。」


「私もブライアン様のような素敵な方と婚約したいですわ。」

「アンジェ、あなたの婚約者だって素敵な方じゃないの。私の婚約者なんて〜」



ああ、漸く私とブライアンから話題離れたわ…。話題は尽きない方がいい。沈黙は耐えられない。雰囲気はいい方がいい。学園が不穏な空気に包まれているから。かと言って私とブライアンとジェフの話はしないでほしい。こんな状態じゃ無理あるけど。

本当はお茶会なんて切り上げてブライアンとジェフのところに行きたかった。けど今後のことも鑑みたら令嬢たちとの付き合いは大切だ。なので泣く泣くこっちにきた。誰とどう付き合うか。前世でも吟味したけど今世はそれが顕著だ。貴族社会というのは見極めが難しい。でも前世より良かったなと思うのはボイスレコーダーや映像記録機がないところである。ああ言ってました!とか証拠提出されたら困るでござる。

隣にいたメイドがスッと何か話しかけている。きっと終わりの合図だ。ああ〜長いお茶会もやっと終わりだ〜!!イェーイ!!はやくベッドで横になってゴロゴロしつつ寝たい。



「まあ、もうそんなお時間?皆さん、今日は集まってくださってありがとう、またぜひいらしてくださいね。」


「ぜひ、またよろしくお願いいたしますわ。」


「今日はとっても楽しかったですわ、またよろしくお願いいたしますわ。」



男爵家なんでこういう挨拶も一番最後である。地位が高くても低くても大変である。さて、明日はブライアンとジェフと一緒に居られればいいなあ。

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