ふたりの未来・後編

「上原さん!」

「上原さんてば!」

「上原さん、起きて! 目を覚まして上原さん!」

「う……ううっ……ん……あれ?」


 気がつけばあたしは、屋上じゃなくて教室の中で倒れていた。しかも、黒板の前で。


「大丈夫? きょうは結構長く失神してたから、さすがに逝っちゃったかと思ったよ!」

「そうそう! 大日向先生、メッチャ怒ってたしねー。いつにも増して、容赦なかったよ」


 まわりを取り囲む同級生たちが、口々にお喋りを始める。

 喉の痛みから察したかぎり、どうやらあたしは、ひなむー先生のチョークスリーパーで失神KOしていたみたいだ。


「コホッ、ケホッ……ところで、あたしだけのひなむー先生は?」


 喉元を押さえて起き上がりながら、姿が見えない先生の居場所をたずねる。すると同級生たちは、お互いの顔を見てほほ笑んだかと思えば、ころころと乙女チックに笑い声をあげた。


「えっ、なに? なんなの?」

「大日向先生、上原さんが目覚めないから本気で心配しちゃって……ねー」


 右側の同級生が笑顔で同意を求めると、


「そうそう。上原さんに心臓マッサージをしたり、人工呼吸をしたり……ねー」


続いて左側の同級生が、それに笑顔でこたえた。


(えっ、ひなむー先生が……あたしに……パイタッチやロングブレスなキッスを?! ていうか、あたしは心肺停止で死にかけてたんだね。ひなむー、やり過ぎだゾ☆)



 唇にそっとふれてみる。



 先生のぬくもりが残っている気がして、自然と笑顔がこぼれた。


「──上原さん!?」


 突然聞こえた大好きな声に、あたしは自然と振り返る。


「よかった……生きてたのね……」


 ほんの一瞬、時間ときが止まる。


 あたしと先生のあかく染まった頬に涙が伝い、それはしずくに変わる。宝石のように輝きながらきらめいて落ちてゆく。


「先生……ひなむー先生ッ!」

「上原さん!」


 そしてあたしと先生はお互いを呼び合い、駆け寄って抱きしめ合う。



 そこには愛しかない。


 それだけで充分だ。


 お金も食べ物も、空気もいらない。


 大日向 望(32)があたしのすべて。


 先生……大好きです。


 どうしようもないくらい、好きなんです。


 これからもずっと、そばにいてくれますか?



「よかった……本当に……本当に、よかった……〝生徒殺し〟でニュースにならなくて、本当によかった……ううっ!」









 第1部【完】


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上原さんはチョークスリーパーに沈む 黒巻雷鳴 @Raimei_lalala

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