ふたりの未来・前編

 誰もいない放課後の廊下を走る。


 斜陽の中、追いかけてくるのはあたしの影ぼうしだけ。


「はぁ……はぁ……はぁ……!」


 走る勢いを弱めずに、そのまま加速させる。



 階段を駆けのぼる。


 向かう先は、屋上。


 扉は開かれていた。



 息を整えながら、ゆっくりと外へ出る。

 茜色の大空の下で、大日向先生があたしを待っていた。


「上原さん。あなた、本気なの?」


 先生が差し出したのは、大学ノートの切れ端……それはあたしが書いた、秘密の手紙でもある。


「はい。それがすべてです。あたしの本気です」

「そう」


 やがて訪れる沈黙。


 お互いが視線だけでなにかを語ろうとしていた。

 そして、夕凪を切り裂くようにして、不意に冷たい風がそよぐ。


 伏し目になった先生は、風に乱れた髪を片耳に掛けてから、ふたたびあたしの顔を、今度は真剣な眼差しで見つめる。


「先生!」

「わたしの答えは、ノーよ」



 次の瞬間──



 世界が崩れて、儚く消えた。




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