守護JK

「ひなむー先生♪」

「いや、マジで無理だから」


 ひどい。

 冷たい。

 お美しい。


 きょうのひなむー先生は、いつにも増して態度が厳しい。ううん、むしろ、突き放してきてる感じだ。まるで──


「もう来ないでくれるかしら?」


 そうそう、そう言ってるみたいに。


「それに上原さん……いまの時間て、授業中よね? 学校はどうしたの?」

「そんなもの、二の次以下のこん畜生です」

「いやいやいやいや、ダメダメダメダメ! 学生は学業を最優先でしょ!?」


 ひなむー先生のいない学校なんて、行く価値もない。例えるなら、カレーのかかっていないカレーライスだ。白飯だけで(ターメリックライスだったとしても)、らっきょうや福神漬けを食べろっていうの? まあ、全然食べれるけども。


「お見舞いに来てくれるのは……うん、嬉しいんだけどね。その……どうやってうちの住所を知ったのか、教えてくれると、もっと嬉しいかな」


 フリースにジャージズボン姿でも清楚で奥ゆかしいひなむー先生が、まるで頭のおかしなヤツを刺激しないようにして、優しい笑顔と口調であたしに話しかける。冷えピタを貼った赤ら顔もとってもキュートで、全力で守りたいと本気で思えた。


「近年はいろいろと規制がうるさくなって、個人情報を手に入れるのは難しくなっていますけど……あたしの場合は、大先達たちにならいまして先生の後を──」

「あ。わかった、ストーキングね? はい、さよなら!」


 ガチャーン! カチャカチャ……


 勢いよく先生の部屋の玄関扉が閉められ、チェーンまでロックされてしまった。

 合い鍵は持っているけど、鎖を千切る工具をきょうは持って来ていないことに気がついたあたしは、唇を噛みしめて家路に着いた──振りをしたのは、のぞき穴から見られていたのを知っていたからなのさ!


「……ふぅー、やっと帰ったか。風邪が治り次第、早急にここから引っ越さないと」


 ひなむー先生が疲れた様子でキッチンに向かっている。冷蔵庫を開けると、キンキンに冷えた栄養ドリンクを1本取り出して、それを一気に飲みほした。


「かわいい……」


 思わず声が洩れる。


「うわっ!? あー、びっくりした!」

「あっ、すみません(ニッコリ)」


 階段ですわっているあたしに驚いたマンションの住人が、スーパーの買い物袋を持ち直してから、あたしの脇を窮屈そうにすり抜けてのぼっていく。


 視線をふたたびスマホの画面に戻す。

 ひなむー先生は、もういない。


 軽く舌打ちをしてから、あたしはタッチパネルを軽快に指先ではじいた。すると次の瞬間には、ベッドで苦しそうに横たわる先生が映し出される。


「ひなむー先生……がんばって……」

『ヘッ、キショーイッ!』


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