デルタアタック!

 目の前にお尻がある。


 もちろん、スッポンポンじゃなくって、黒のマイクロミニスカートに包まれた形の良い、理想的なお尻だ。


「上原さん」

「はい、わかりました。X軸の交点はここで、y軸の交点はここです」

「……上原さん、グラフを描くのはノートにしてくれないかしら? さっきからあなたがシャーペンでなぞっているのは、わたしのお尻なのよ? それに、真後ろで正座するのは間違いだからね? ちゃんと席にすわって授業をうけてくれないかしら?」

「すみません、先生。あたしったら、教科書とノートを全部忘れちゃったみたいで……」

「うん、まず謝るところはそこじゃなくって、シャーペンの先で割れ目を連打するのやめてくれないかな──って、そこは本気マジでダメだからッ!!」


 顔を真っ赤にして激昂したひなむー先生が、あたしの喉元を狙って素早く背後に回り込む。それをいち速く察知したあたしは、尻餅を着いてそれを回避。

 けれども同時に、ひなむー先生の太股が──適度に肉づきの良いおみ足が──あたしの首を捕らえて絡みつき、そのまま後ろへと倒れる。この技は、首四の字固めだ!


「あっ……うぐっ…………し、あわ……せ……」

(──ハッ!? わたしとしたことが! これじゃ、ただの御褒美じゃない!)


 なぜか先生は、技を急に解いてしまった。

 その一瞬をあたしはのがさない。

 仰向けだった身体を高速で回転させて、20デニールの黒いストッキングに包まれた魅惑の三角地帯デルタゾーンへ顔を埋めることに成功する。やったぜ、母ちゃん! あしたはホームランだ!


「ちょ、上原さん!? そんなところをスーハーしちゃダメだってば!」


 絶対に逃げられないよう、あたしはひなむー先生の太股を渾身の力で鷲掴む(?)。もう離さない──ネバー・リリース(?)だ。


「う……上原さん……ああっ! や、やめ…………んん……いやッ、だぁ…………本当に……もう…………やめなさいッ!!」


 と、あたしの脳天にメガトン級の空手チョップがめり込む。


「んぎゃ!?」


 強烈な一撃を受けて太股を手離したわずかな隙に、今度はあたしの右腕をひなむー先生が掴んで引っ張る。

 それとほぼ同時、ふたたび首を両足でがっちりとクロスさせて捕らえたこの技は三角絞めだ。最高級の内腿とあたしの右肩が、頚動脈をグイグイ締めつけてくる。


 と、次の瞬間──


 教壇近くで横たわる、眠れる森の美少女なあたしと必死に心臓マッサージをするひなむー先生が足もとに見えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る