第1章
1.王宮魔法使いのコール。
「そういえば、シオン君っていくつなの?」
「僕ですか? 僕はいま、十二歳です!」
「十二歳か……。それなら、アタシの弟といっしょだね!」
「そうなんですか? 弟さん、いるんですね」
「うん、そうだよ」
――翌日の昼。
宿に一泊してから、ギルドに向かう道中のこと。
僕とシーナさんはそんな雑談をしながら歩いていた。特にこれといって深く突っ込むことはなく、和気藹々とした時間が流れている。
「それにしてもシオン君の収納魔法、ホントに不思議だね」
「そう、なんですか?」
シーナさんの言葉に聞き返すと、彼女は一つ頷く。
「だって、基本的に収納魔法における結界は、その使用者の潜在魔力で大きさが決まるんだよ。それを考えると、シオン君の結界はとてつもなく巨大、ってことになるの。――その意味、分かる?」
「えっと、すみません。よく分からないです……」
収納魔法の基礎理論らしいのだけど、僕にはちんぷんかんぷんだった。
目を回していると、シーナさんが説明してくれる。
「つまり、ね? もしかしたらシオン君は、ものすごい魔法使いになる可能性を秘めてる、ってことなんだよ! ドラゴンを閉じ込められる魔力なんて、聞いたことがないもの!」
「えっと、でも……」
興奮気味に話すシーナさんだったが、やはり僕にはわからない。
それでも、僕の収納魔法がすごいかも、くらいはわかった!
うん、なんだか自信が出てきた!
「ありがとうございます! シーナさん!」
それが嬉しくて、僕は彼女の手を取る。
すると不意打ちになったのか、ポカンとするシーナさん。やがて――。
「あ、あわわわわわ!」
なぜか、顔を真っ赤にしてしまった。
その場にしゃがみ込み、小さく何かを口にする。
「―――ゎぃぃっ!」
「……?」
うまく聞き取れず、思わず首を傾げてしまった。
どうしたものかと思っていると、何やら咳ばらいをしてから立ち上がるシーナさん。そして、どこか視線を泳がせながら手を差し出してきた。
なんだろう、この手は……。
「あの、シーナさん?」
「さ、さぁ! 早くギルドにいこ!?」
「あ、え……!?」
そう思っていると、有無を言わさず手を握られた。
一向に構わないのだけれど、彼女はいったいどうしたのだろう?
「まぁ、いいか」
考えても、仕方ないだろう。
僕はそう思って、シーナさんと一緒にギルドへ駆けるのだった。
◆◇◆
「ん、どうしたんですかね。向こうが騒がしいような……」
「受付の方かな?」
「行ってみましょう!」
ギルドに到着すると、なにやら騒ぎが起きていた。
僕とシーナさんは互いに顔を見合わせて、ひとまずそちらへ行くことにする。野次馬の隙間から確認すると、どうやら一人の男性が担当者と揉めているようだった。聞き耳を立てると、聞こえてきたのはこんな会話。
「だから、個人情報は教えられないんです!」
「いいではないか、悪用するつもりなどない!」
「そういう問題ではなく、規則で決まっているんです!」
「私は規則を超える存在だ!」
「どういう意味ですか……?」
「口から出まかせだ!」
「出まかせかよ!!」
――なんだろう。
そこはかとなく、残念な雰囲気が漂っている。
これはきっと、関わらない方がいい。そう思って、その場を後にしようとした。
「とにかく、私にシオンという少年の情報をくれればいいのだ!」
しかし、なぜか自分の名前が出たので反応してしまう。
「え、僕のこと……?」
本当に小さな声で。
だが、男性は地獄耳だったらしい。
「…………む?」
「あ……」
目が合ってしまった。
その瞬間に、ズイズイと人波をかき分けて、こっちにやってきた。
そしてどこか満足そうに、何度も頷く。金の髪を後ろで一つに結んでいる、緑と赤のオッドアイをした男性だった。耳が長いから、エルフだろうか。
そんな彼は、大仰に腕を広げながらこう言った。
「あぁ、あぁ! 会いたかった! 未来の才能、未来の大魔法使い!!」――と。
ギルド全体に、響き渡るような声で。
「は、はぁ……」
「そんなに恐怖せずとも良いのだ。私は決して怪しい者ではない!」
「いや、どう見ても怪しいでしょ。アンタ」
男性の言葉に、即座にツッコミを入れたのはシーナさん。
しかし彼はそれに対して、こう返した。
「私は年増女に興味などない」
「なっ!? 年増!?」
――え、シーナさんはまだ十八歳だよ?
僕はそう思ったが、口には出さなかった。
言われた本人もあまりのことに絶句しており、そこへ男性がこう続ける。
「私が話をしたいのは、この愛らしく、未来に名を刻むであろう少年だ。わかったら、どこかへ行っていろ――この、ショタコン女め」
「……ショタ、コン?」
「違う!! アタシは、断じて――」
「ふむ。そういえば、自己紹介がまだだったな……」
「聞けよ!!」
なんだろう、このカオス。
僕はポカンと状況を見守るだけだった。
そうしていると、男性は恭しく礼をしながらこう名乗る。
「初めまして、シオン君。私の名は、コール・ディステンバー」
なぜか膝をついて、僕の手を取りながら。
「王宮魔法使いであり、まだ見ぬ才能に恋した者です」――と。
なんだろう。
彼――コールさんの微笑みには、寒気がしてしまった。
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