3.初めての経験。






「すごいね、シオン君!! いったい、なんの魔法を使ったの!?」

「え、いや……。その、収納魔法――」

「収納魔法!? え、それってどういうこと!?」

「ぼ、僕も分からないんです……」


 鼻息荒く、シーナさんは僕に質問攻めをしてきた。

 それでもこちらは首を傾げるばかりで、あいまいな返答を繰り返すにとどまる。


「その、唯一使えるのがこれで。だから、一か八か、って……」

「聞いたことないよ!? レッドドラゴンを収納しちゃう魔法使いなんて! ――って、あれ? ということは、いまドラゴンは結界の中に?」

「たぶん、そうだと思います。でも僕の収納魔法は、取り出せなくて」

「取り出せない? どうして?」


 矢継ぎ早に投げかけられる言葉。

 苦笑いしながら、僕は彼女に答えるのだった。


「実は僕の魔法は独学なので、本当に中途半端なんです」

「ふむ、独学の収納魔法、か……」


 するとシーナさんは顎に手を当てて、ジッと考え込む。

 しかし専門家ではないために、ハッキリとした答えにたどり着くことはできなかった。それでも次に彼女は満面の笑みを浮かべて、僕に手を差し出す。

 そして、明るくこう言うのだった。


「何はともあれ、これからよろしくね! ――シオン君!!」


 それはつまり、仲間として認められたということ。


「あ…………」


 僕は思わず、胸の奥から沸き上がった感情をこぼしそうになった。

 孤児院を出てから一年間。辛いことだらけだった毎日が終わり、外の世界で初めて、必要だとされた瞬間だったから。


 喉が震えた。

 唇を噛んだ。

 そうして、数秒の間を置いてからようやく。


「よろしく、お願いします!!」


 その手を、取ることができた。

 それは同時に、冒険者として生きていくことを決めた瞬間。

 もう迷う必要はない。心のままに自由に生きると、決意した瞬間だった。



◆◇◆



 ――その様子を、陰から見ている男がいた。

 フードを目深に被った彼は、まだまだ幼い少年、シオンを見てニヤリと笑う。


「実に面白い……!」


 そして、小さくそう呟いた。

 あるのは好奇心に違いないだろう。


「これは是非、お手合わせ願わなくては……!」


 最後にそう言って、男性は姿を消した。

 その場には、談笑するシオンとシーナの声だけが響いていた。


 

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