第11話 思わぬ別れ

翌朝。

いつものように俺は朝食をとる、相変わらず惣菜パンのみで今日はカツサンドだ。

夕べ美月ちゃんにLINE送ったが未読スルーだ。

大翔ヒロトからは俺を心配するメッセージがきていたが、まだ俺を誤解しているにちがいない。

正直学校へ行くのがイヤだった、でも行くしかない。


美月ちゃんの家の前に差しかかったとき、ちょうど門から高級車が出てきた。

美月ちゃんの母親が運転していて、助手席には美月ちゃんがいるのを認めた。



−−やはり怒ってるのかなぁ…−−



悲しくなる。


俺が教室入った途端一瞬空気が止まる、冷ややかな視線…。

昨日一日でリラのせいでずいぶん印象が悪くなったようだ。

美月ちゃんに至っては見向きもせず、王部オウベロンのヤローと楽しげに談笑している。

リラの姿はまだ見えない。



−−遅刻かな、ま、俺にはカンケーないや−−



静かな気持ちで朝礼を待った。



「みなさんおはようございます」



グレーのスーツに身を包んだ担任は、やつれて見えた。

昨日は俺だけでなく王部オウベロン(オベロン)までいなくなったはずだから…。



「みなさんに残念なお知らせがあります、留学生のリラ・フィーさんが麻疹はしかにかかってしまい、当分お休みです」



担任が予想外のこと言ったので教室中が「えーっ!!」と沸いた、

俺もそんなの知らなかったんで「マジかよ!」と叫んでしまった、聞いてないよ、そんなこと…。


担任が必死に感染がどうこうと話をしていた気がするが、周りの生徒の声にかき消されてしまい聞こえなかった。



「そうなんだ、リラは病気になってしまって人前に顔が出せないのだよ」



隣の席のオベロンがつぶやいた、



「もっとも病気は麻疹はしかなんかではなく、ライラックにとってシャレにならんことなんだけどな」



この意味ありげな発言に俺は気になった、



「え?どういうこと?」



「庭を見ればわかるさ」



その後俺は『ダルい、麻疹はしかうつったかもと大嘘こいて早退した、担任は保健室にいる校医に診てもらえと言ったが、なんとか振り切り強引に帰宅した。



帰宅しても家には誰もいなかった、おそらく母親は出版社に、父親は会社へといつものことだ。

真っ先に庭へと駆けつけた。

ライラックの苗木を確認したが、すぐにはなんだかわからなかった。



−−あっ!−−



よく見たら昨日まで青々と瑞々しく茂っていた葉っぱがところどころ虫食いに遭っていた。



「なんだこりゃ!」



俺は思わず叫ぶ、昨日まで虫食いになんて遭ってなかったはずだ。



「ダンゴムシよ、かわいそうに…」



いつのまにか後ろにはティタニア立っていた。

今日は髪の色と同じくらい赤いピタッとしたワンピースを着ていた。



「ダンゴムシ!?」



俺は驚いた、ダンゴムシがライラックの葉っぱを食べるなんて知らなかったから…。



「今人間の姿になってもね、全身出来物だらけでそりゃあかわいそうな姿なのよ、こんな姿では愛しのレイジの前には現れられないと泣いていたわ」



そう言うとティタニアは悲しげに虫食いに遭ったライラックの葉をそっと撫でた。



「なんでまたこんなになったんだ」



思わずつぶやくと、



「もしかしてあなた方虫除けとかお手入れしなかったんじゃないの?あと彼女一晩ですごいブクブクなっていたんだけど、もしかして昨日人間界のものでも口にしたのかしら?」



言われてみれば俺は苗木なんて植えるのは初めてだったから、ダンゴムシが来ないようにお手入れするなんて知らなかったし、

昨日学校帰りにハンバーガー屋へ寄っておごったから、覚えはあった。

ここで気になることを訊いてみる、



「いつ治るの?」




「そうねぇ…ここまでひどいと再起不能かもしれないわね…」



再起不能ってことは、もう俺の前に現れないのか!

ああ良かった…と思う反面、なんだかかわいそうに思えた。



輝裕アキヒロくんとはどうすんの?」



ここでもう一つ気になってたことを訊いてみた、一体どうするつもりなにだろうと…。



「それね、当初の予定ではこのまま結婚してみて、飽きるころには人間は寿命で死んじゃうしちょうどいいって思ってたのよね、それがオベロンにバレちゃうし彼は彼で他の女に手を出そうとしてたでしょ?」



このティタニアの言う“他の女”とは美月ちゃんのことなので、俺の眉毛はピクリと動いてしまった。



「あれから私たち話し合ってね、今回は手を引くことにしたのよ…で、今朝になってリラちゃんがこんな状態でしょう、全てみんなから記憶を消して人間界を去ることにしたわ」



なんと!

思わぬ形でいなくなってくれるのか!

はっきり言って押しかけカノジョされてメーワクしてた俺は嬉しさのあまり小躍りしそうになったが、グッとこらえた。



「そうか…それは残念だね…」



心にもないセリフ吐く。



「色々と迷惑をかけちゃったわね、明日にはみんなの記憶から消えていると思うわ、さようなら」



ティタニアはそう言うとピンク色の煙に包まれてスーっと消えた。



「さようなら」



俺も一応別れの挨拶をしとく、これで自由だ!

ライラックの葉が風もないのにユラユラと悲しげに揺れる、もうここから二度と妖精は出て来ない。

世間一般的には残念なことなんだろうが、俺の気持ちは晴れやかだった。

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