第10話 弱点

程なくして、紫色の煙とともにオベロンが現れた。



「なんだね」



やたら不機嫌そうだ。ふと俺の姿を認め、不思議そうな表情を見せる、



「お主いつのまにやら姿を消しておった?リラがムコ殿の姿が見えぬと嘆いておったぞ?」



誰がムコ殿だよ…。俺が何か答えよーとしたら、ティタニアがすごい勢いでさえぎった。



「ちょっとアンタ!いつのまにリラと繋がってた!?しかもそんな若づくりまでして!」



え、そっち?繋がってたってまるで浮気みたいな言いがかりじゃないか…。



「おいおい…あのとは何事もないよ…君だけに任せたら不安だから、留学生としてムコ殿の学校に潜り込んだらとアドバイスしたまでさ…」



なんと、リラがいきなり留学生として転入してきたのは、妖精王コイツの差し金か!

どーやらこの男もリラの恋を応援してるっぽく、メンドーだ。



「それじゃなんであなたまで学校にいるの?まさか浮気してるんじゃないでしょーね!」



ティタニア、自分のこと棚にあげ、やきもち…。全く意味不明だ。



「いや、だから、あのリラだけだと何かやらかしそうだから、心配で自分監視することにしたのさ…」



もっともらしい言い訳、それにティタニアも納得しそーになったんで、ここで俺は爆弾を投下した。



「いやさ、オベロンさんよ、確か清楚な美月ちゃんをかわいいって目をつけてたよね?」



俺はわざと『清楚』というコトバを意識して強調した、すると、



「この浮気男が〜ッツ!」



予想通りティタニアは怒り狂ってオベロンにつかみかかろうとした。



「ま、待て!」



オベロンは防御しつつフリーズしたままの輝裕アキヒロ兄さんを指さした、



「そなただってなんだ、この者と浮気してるのではないのか!?」



形勢逆転か?



「あなたには関係ないわっ!」



「いいや、先月の満月時から目をつけておったのだろう、こやつがサークルとかいう訳わからんサークルに呼ばれ月見してたとき、我々を否定するような発言してるの一緒に聞いていたであろう?この者は確かにそなた好みの見た目だしな、俺が嫌うタイプでも平気で浮気していたな!」



「何よ!あなただって私の嫌いな清楚な少女に手を出そうとしたじゃないの!」



「俺はまだ未遂だ!」



夫婦喧嘩は堂々巡りで終わりそうにない、逃げるなら今のうちだが、なんだか面白くなってきてその場を動けなくなってしまった、俺もゲスいなぁ…。



「もうこうなったら私、何がなんでもこの人間オトコと結婚してみせてやるわ!」



口論のあげく、ティタニアがとんでもない発言した、



「ああ、やれるもんならやってみろよ、こっちは清楚な美少女にたくさん子供を産ませてやるから!」



対抗したオベロンのこの爆弾発言に今度は俺がぶっ飛んだ、



「なんだと!?このスケベヤローが!!俺の美月ちゃんに手を出すなー!」



そう言ってオベロンに飛びかかったが、相手に触れないうちに吹っ飛ばされた。



「!?」



「ふん、人間の分際で我に飛びかかろうとは生意気な!そなたはリラと恋してれば良いものを」



冗談じゃない!

せっかく夫婦の浮気を暴露し、それをきっかけにお互いを見直しついでにリラも連れ帰ってくれたら…という俺の目論見は、もろくも崩れ去った。



「あのな人間よ、そなた産まれてこのかた恋人がいたことはないのであろう?我々使ってリラを妖精界に返そうだなんて、100万年早いわ!」



オベロンにはすっかり見透かされ、しかも彼女いない歴イコール年齢をグサリと指摘されてしまう。



「あら、いやあねぇアナタったら無粋なマネしてくれるわね…」



ティタニアには侮蔑の表情で見つめられてしまう…。



「そうだ!なぜこんなカンタンなことに気がつかなかったのか!ティタニアよ、そなたのチカラでこやつがリラに恋い焦がれるようにすれば良い話ではないか!」



ここでいきなりオベロンが話をすり替えてきた、何だって、冗談じゃないや!

ティタニアにそんなチカラあるとは知らなかった、全力で逃げるべ、俺はそう思って慌てて輝裕アキヒロ兄さんの家を出た。



「逃げてもムダだからね〜!」



ティタニアの叫びを背にひたすら走る。

それにしてもどうしよう、家帰ってリラはいるし、教室戻ってもなんか気まずいし…。

ここでふと歴史教師の石橋を思い出した、彼なら妖精に詳しそうだから退治方法知ってるんじゃないか?

それに気づいた俺は職員室へと駆け込んだ。



「石橋先生っ!」



俺は息急き切ってボサボサの銀髪のオッサンの元へと駆け込んだ。



「おお、どうした、廊下ならびに職員室は走るの禁止だよ?」



石橋は、俺を見るなりたしなめた。



「すみません…」



とりあえず、謝っておく。

すぐ質問に入りたかったんだが、慌てて走り続けたから立ち止まった途端咳き込んだ。



「ケホケホ…」



「ほらほら…慌てなさんなって」



石橋は俺の背中を優しく撫でる。

他の教師は異様な目でこちらを見る、なんかこの状況で質問するのはきついが、

切迫詰まってるんでそれどころじゃない。

俺は呼吸が落ち着いてから質問投げかけた。



「先生…先生は妖精に詳しいようですが、退治方法って何かご存知でしょうか?」



冷静になって考えたら、咳き込むほど駆け込んで質問するような内容じゃない、

でもそれだけ追い詰められていた。



「こりゃまた歴史教師になんという珍妙な質問を」



ああ、やっぱヘンだと思われたか…、ガックリ肩を落としてしたら、



「火だって聞いた気がするねぇ」



ずり落ちそうなメガネを指で持ち上げながら答えてくれた、




「ひ?」



俺には一瞬漢字の『火』が思いつかず、ひらがなで聞き返してしまった。



「そう、ファイヤーの火だよ」



そうか、火を焚くとかすりゃいいんだな!



「ありがとうございます、先生!」



お礼を言って職員室を出ようとしたところ、



「待ちなさい」



何者かが俺の制服の上着の裾をつかんだ。

恐る恐る振り返ると、そこには担任の女教師が立っていた



阿辺アベくん、あなたはなぜ今日私の授業をサボったのです?」



しまった!

スキみて輝裕アキヒロ兄さんとこ逃げたとき、担任が教鞭を取る国語の授業だった!

なんと言っていいのかわからず、固まる。



「いや、あの…」



返答に困ってしどろもどろしていたとこに、いきなりリラが飛び込んできた。



「先生ごめんなさい、怜士レイジは昨日の夜食べすぎちゃってお腹壊してトイレから出られなかったんです!」



おいおい、なんて言い訳だよ…。

だが、担任はそれで納得したようで、「そう…これからは気をつけるように」とだけ言って、すぐに解放してくれた。


職員室の扉を閉めてから、



「助かったよ、ありがとう!」



俺は素直にリラにお礼を言った、理由はひどいけれどおかげで説教されずにすんだ。



「いいえ、どういたしまして」



リラの笑顔がやけにまぶしく、かわいく見えた。



−−あれっ、ヘンだな、タイプじゃねーのに−−



俺は目をこする。

石橋に妖精の弱点を聞いたからバッチリ!なハズなんだが、担任に説教されそーなところを救われたためか、退治するのにためらいが生じた。



−−参ったな…火が苦手といや、苗木に火をつけることしか思いつかないや…でもそれって、いくらなんでもひでーよな…−−



苗木がゴウゴウと燃え盛る図を想像しただけで、胸が痛んだ。



「おうちへ帰りましょう」



リラにそう言われハッとする、今日は午前中の授業だけでおしまい、輝裕アキヒロ兄さんとこ逃げ込んでいたら、いつのまにか下校時間になっていた。



−−あいつらどうしたかな?−−



ティタニア・オベロン夫婦はまだ兄さんをフリーズさせたまま揉めているんだろうか?

気になったが確かめようがない。



「ねぇ、帰りましょうってば」



リラに強引に手を引かれる、その手は冷んやりと冷たくスベスベしていた。



途中腹減ったんで、ハンバーガー屋に寄った。

朝食が惣菜パンとカフェオレだけで昼飯ひるめしがまだだったから、ムリもない。

俺は食いたいもんをサクッと注文できたが、リラは何やら戸惑っていた。



「何してるの、早く注文しようよ」



後ろにも人が並んでいたんで急かすと、



「こういうの食べたことないから、何がなんだかわからないの」



って恥ずかしそうにうつむいた。



「へえ、そうなんだ」



そのままほっとこうかとも思ったが、店員の手前そんなことした日にゃヒドいヤローだと思われかねない。

メンドーなんで俺と全く同じものを注文した。



−−ちぇっ、出費が嵩むぜ−−



心の中で思わず舌打ち、本当は今日学校の売店で昼飯ひるめしを買って節約するつもりだったから、ああいつか美月ちゃんが弁当作ってきてくれたらいいのになぁ…と、切なくなった。



初めて食べるハンバーガーセットにリラは「おいしいぃ!」とがっついた、

金髪の超美少女がハンバーガーにかぶりつく姿に周りも驚いていたようだが、

なんだか俺にはかわいく見えたんで焦った。



−−ヤベー、さっきからなんかリラがかわいく見えておかしい−−



世間一般的にリラが誰もが振り返るレベルの美形なのはよく知っている、

だが俺の好みとは違うからかわいいとは思ってなかった。


−−まさかな…輝裕アキヒロくんちからの去り際に、あいつらなにかヘンなこと言ってたよな?−−



少しイヤな予感がしたが、俺は否定するようにかぶりを振った。









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