第9話 衝撃の事実

放課後になる前に俺はトイレ行くフリして勝手に早退した、荷物持ってくとなんかバレそうなんで、手ぶらで逃げた。



−−輝裕アキヒロ兄さん、LINE読んでくれたかなー?−−



今日のすったもんだでLINEが既読になったか・レスがきたか、全く確認できなかった、でも輝裕アキヒロ兄さんなら受け入れてくれるだろう…この時は本気でそう思っていた。


輝裕アキヒロ兄さんが一人暮らししてるマンションは、俺が通ってる高校からそう遠くはなかった。

後から考えたら学校へはどう通うとか親への連絡とか全く考えてなくて、それだけ切迫詰まってたんだと思い知らされた。



マンション入り口で輝裕アキヒロ兄さんの部屋番号を入力し、インターフォンを鳴らす。

応答なし…。

もう一度同じことしてみる、やはり応答なし…。

もしかしてLINE目にしてなかったのかと絶望的になっていたら、カチャと音が鳴り、『怜士レイジくん?参ったな、LINE見なかったんだね?まあいいや、入って』やっと輝裕アキヒロ兄さんからの返答があり、中へ入ることが出来た。


玄関の呼び鈴を鳴らし、中から出てきた人物に驚き腰抜かしそうになった、



「あらあ、アナタまた会ったわね!」



出てきたのは燃えるような赤い髪をしたセクシーな美女の妖精の女王ティタニア

それがなんでここにいるのか、マジで意味不明だった。



「悪ぃ、今カノジョ来てたんだよねー」



なんと輝裕アキヒロ兄さんいつのまにかカノジョできてた、しかも妖精の女王!?

なんだか昨日から悪い夢を見続けてるみたいだった。



「なっ、なんでアンタがココにいるんだよ!」



最後の砦とここへ逃げてきたのに、目の前が真っ暗になったような気がした。



「ん?二人はもしかして知り合いか?」



輝裕アキヒロ兄さんが後ろから顔を出す、ああ、兄さんが超現実主義でなきゃ、洗いざらいぶちまけるのに!



「中へ入ったら?」



妖精の女王がいた時点で本当は逃げ出したかったんだが、他にどーすりゃいいか思いつかず、しかたなく部屋へ入った。



輝裕アキヒロ兄さんの部屋のセンスはカッコ良かった、『インダストリアル』とか『男前インテリア』って言われてるらしい、黒い革張りのソファー前に木箱のようなテーブルが置かれていて、マジでイケてた。

そんな硬派な従兄がなぜこんなプレイメイトのような女とつきあってんのか、まるで理解できなかった。

二人の馴れ初めを訊こうとしたら、



「ね、怜士レイジとティナがなんで知り合いなのか気になるんだけど?」



先に兄さんに訊かれてしまった、なーにがティナだよ…。



「えー、コホン、実は私の妹が日本に留学していて、このレイジくんのおうちにホームステイしているのです」



苦しい言い訳だ。うちと輝裕アキヒロ兄さんの家は親密な親族カンケーで(ウチの母親の姉の息子が兄さんって訳)、海外からの留学生を受け入れたとなると筒抜けになるはず、事前ならまだしも昨日突然は不自然だと気づきそうなものなんだが、



「へぇ、そうなんだ」



輝裕アキヒロ兄さんあっさり納得、次は俺が気になること質問した。



輝裕アキヒロ兄さんは、どこでこの人と知り合ったの?」



俺の中でこの二人の組み合わせはあり得なかった、だって輝裕アキヒロ兄さんは昔から頭脳明晰なイケメンで、女にモテても見向きもしなかったから…。

「軽薄なバカ女はキライだ」と常日頃から発言していて、この超セクシーな外国人の女(って妖精だが)は、どう考えても輝裕アキヒロ兄さんのタイプじゃない。



「いや、月の綺麗な晩に眺めてたんだよ…ほら、俺ってさ、天文にも興味あるじゃない?」



輝裕アキヒロ兄さんは子供の時から理数系が得意で大学も理系に進んでるが、天文にも興味あるなんて初耳だった。



「そうだっけ?」



なんか怪しい。チラと妖精の女王見ると、ふふと意味ありげに笑ってた。

俺が怪しんでいるのも気づかず、兄さんは言葉を続ける。



「その日は満月で今日も月がきれいだなぁって眺めていたら、このひとにぶつかったんだ、あまりにも美人だし、俺運命感じちゃったんだよね」



ますます怪しい!

第一輝裕アキヒロ兄さんが月を眺めてカンドーするなんてガラじゃないし、月に興味を持つとすればもっと科学的な意味なら考えられるんだが、たかだかぶつかった女に運命感じたとかいう発言はおかしすぎる!

日頃から他人の運命の出逢いとかいう発言を鼻で笑っていたようなタイプなのに、

このザマはなんだ!

これも妖精の魔力(あれ?妖精って魔法使えたっけ?)かと思うと、ゾッとした。



「信じらんない…」



思わずつぶやいてしまう。



「ところでさ、LINE読んだよ、今までの話まとめると、ティナの妹さんが怜士レイジくんの家にホームステイしていて、そのに好かれて困ってるってこと?」



輝裕アキヒロ兄さんがやっと本題に入ってくれたもんだから俺は食いついた、



「そ、そーなんだよ!すんげーウザくてさぁ」



すがるように窮状を訴えようとしたが、



「いいじゃん、怜士レイジくんカノジョいなかったろ?それとも何か、妹さんあんまかわいくないとか?」



「あら、そんなことないわよ」「いや、そんなことないんだが」



妖精の女王ティタニアと俺はほぼ異口同音に答えた、



「じゃあいいじゃん、それとも何か?他に好きなでもいんの?」



図星だ。

俺の顔は自分でもわかるくらいみるみる赤くなってった。



「ハハーン図星か、相手はどんなコなの?」



「幼なじみの美月ちゃん」



俺はティタニアが聞いてるのも構わずに正直に答えた、自分に他に好きな女の子いるから諦めてと説得してもらいたい気持ちもあったから…。

そして美月ちゃんは昔兄さんとも一緒に遊んだことあって知っていたから、

打ち明けても恥ずかしくはなかった。



「へぇ、おまえまだあの清楚系美少女のこと好きなんだ?まー確かに怜士レイジくんの好みって、50人くらいいるアイドルグループだもんねぇ」



50人くらいって…、いい加減グループ名覚えてよ…と、俺は呆れた。

と、同時に輝裕アキヒロ兄さんがこのセリフを言った途端、



「清楚ですって!?」



いきなりティタニアが声を荒げ、目が吊り上がった。



「うわ、おっかねー!」



マジで怖い顔になったんで、俺は小さく叫ぶ。

ふと気づくと、輝裕アキヒロ兄さんの動作がフリーズしていた。



「!?」



昨日から驚きの連続で、頭が追いつかない…。



「今だけ彼の時間を止めたのよ」



ティタニアはそう言って輝裕アキヒロ兄さんの頭を撫でてから俺の目の前に座った。



「なに、アンタ清楚な女が好きなの?」



美人だけど怖い表情で俺に迫ってきた。



「こ、怖いっすよ!そーだよ、俺は清楚でかわいらしい美月ちゃんが好きなんだよ、だからリラを好きになるの、ありえねーから!」



正直に言えばなんとかしてくれるだろうと思った、けれども、



「はぁぁ、よりによって清楚ねぇ〜!我々妖精族の女はなぜだか人間に清楚だと思い込まれて迷惑してんのよねー、妖精であるとバレると、こんなハズじゃなかったとか妖精っていえば清楚じゃないの?って言われるから、いつしか清楚系な女がイヤになったのよね〜」



意味不明なこと言いだした、知るかよ…。

でも確かに疎い俺でさえ妖精の女は清楚ってイメージあったから、リラやティタニアが出てきたときは仰天したもんだ。



「じゃ、俺はあんたら妖精族が最も嫌うタイプの女が好みってことか」



しめしめ、ここをもっとうまく突けば、リラを説得してくれるかもしれない。



「そういうことになるわね、言葉の上では…でも実際は外見的特徴なんかじゃなくてね、嘘つきとか欲張りとか腹黒いとか、性質的に良くない女が我々妖精族の女が嫌うタイプで、私が個人的に清楚系をイヤなだけなんだけどね」



それで鬼の形相になったのか…。この手で女王からの説得は厳しいと一瞬ガッカリしたが、ふとひらめいた。



「 なぁ…もしかしてアンタ旦那いるの?」



普通に質問したつもりが、



「ちょっと!この私に向かってアンタとは何様!?」



軽くキレられた、



「す、すんません…」



メンドくせーなぁ、一応謝っとく。



「ええ、いるわよ、それが何か?」



開き直ってやがる、だいたい人間界の常識じゃ、既婚者が独身者を欺き誘惑するなんてひでー話だ、それ言ったところで通用しなさそーだが…。



「いやさ、俺のクラスに王部オウベロンとかいうフザけた名前の転校生きたんだけどさ、なんかリラ知ってそーだし、色々不自然だからもしかして?と思ったのよ」



ありのまま伝えると、



「それ!どんなヤツなの!?」



予想以上に食いついてくる。



「えっと、俺よりうんと背高くて超イケメン・薄茶色の髪と瞳で、モデルでタレントとか言ってすでに有名らしいんだけど、俺は今日になるまで知らなかったんだよ」



ここでティタニアは深くため息をついた。



「ああ、まちがいなく私の夫オベロンだわ…なんだってまた日本ここにいるんだか…リラのことは私に任せてって言ったのに…」



ティタニアは不満げにブツブツつぶやく。



「昨日リラとの会話でアンタ…いや、ティ、ティタニア様が旦那が嫌うタイプと浮気してるって話してたけど、バレたんじゃないすか?」



まさか妖精の王様が嫌うタイプの男が自分の従兄とは驚いたが、ここでうまく話を運んで全員人間界から撤退してくれないだろうか?という期待があった。



「そうねえ…確かに彼は超現実主義者で自信過剰なとこあってしかもイケメンだから、オベロンは嫌いかもねぇ…」



そうそう、その調子!さらに俺はとどめを刺すように、今日感じた不安を伝えた。



「そのオベロンさん、なんか俺の清楚でかわいらしい美月ちゃんにちょっかいかけようとしてましたよ?いいんですか、ほっといて?」



自分で言っといて思い出しムカついてきたが、『美月ちゃんは清楚』を強調して伝えてみた、ここまで言えば慌てて自分の夫を引き連れ、ついでにリラも引っ張って妖精界へ帰ってくれるだろう。



「ぬあぁぁぁんですってぇぇぇぇ〜!!??」



俺は盛大にビビって腰抜かした、だって絶世の美女とも言えるティタニアの赤い髪の毛が、いきなり炎のようにメラメラ燃え出した上に顔立ちもこの世の者とは思えないほどに恐ろしい顔抜けなったから!




「ヒィィ〜〜!」



俺は情けない悲鳴をあげた。



「オベローン!日本ここにいるのはわかってるのよー?出てらっしゃーい!!!」



ティタニアが突き抜けるような大声でオベロンを呼び、俺は輝裕アキヒロ兄さんが目を覚ますんじゃないかってヒヤヒヤしたが、それは杞憂だった。



−−うわ、幸せだよな、これに気づかないなんて−−



今すぐこの場から逃げ出したいのに腰が抜けて動けない、いや、もしかすると金縛りにあってたのかもしれない。



こうして俺はますます深みにハマりそうだと憂鬱になった。














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