第7話 王部ロンの正体

休み時間。

リラの周りと王部オウベロンの周りには人だかりができていた、

一部の女子生徒はリラの周り・残りの女子は王部オウベロンの周りに…。

男子連中はリラが気になりながらも恥ずかしいのか誰も行かなかったが、チラチラ盗み見てるヤツが何人かいた。

そして、何人かは大翔ヒロトの周りに集まってきていて、友達の俺が行くとガンつけてくるヤツもいた。



「おい、阿辺アベちゃんよ、どーいうことよ?説明して」



俺は『待ってました』とばかりに事情を話そうとしたら、ふいに後ろから誰かに左肩をつかまれた。

振り返ると、そこにはいつのまにか王部オウベロンが立っていた。



「ちょっと失敬…自分はこの男に用があるんだが、いいかい?」



そもそも先に大翔ヒロトが俺に話しかけてきたのに大翔ヒロトのヤツ、



「はいっ、いいですよ、お先どうぞ!」



なんて譲りやがるからぶったまげた、いつもなら話の横入りに対しブチ切れるヤツなのに…。



「ありがとう」



王部オウベロンは男の俺が見ても惚れ惚れするくらい良い笑顔を見せた、なるほど、もしかして大翔ヒロトのヤツ、コイツのイケメンっぷりに恐れをなして譲ったのか…。



「ちょっと君、こちらへ来たまえ…」



なんかこの王部オウベロンってヤツ、いちいち発言がキザなんだが、それがとても自然で鼻にはつかないから不思議だった。

俺は言われるがまま教室を退室し、廊下に出た。

休み時間なのに不思議なことに人っ子ひとりいなかった。



「君がリラのお気に入りだね?」



いきなり直球ですか…。俺はムッとしながら、



「そうみたいだけどね、それがなにか!?」



答えた。

ここでいきなり王部オウベロンに壁ドンをされた。



「…っ、なっ!なにすんだよ!」



いくら相手が目の覚めるようなイケメンでも俺にはその趣味はない、カンベンしてくれよ…と思うと同時に、自分より15センチ以上はありそうな背の高い相手からどう逃げようと恐怖した。

が、



「おい、お前、さっきも言ったがこちらの正体をくれぐれも他の人に話すなよ?」



予想外のセリフを吐かれ、しかも意味不明…。リラだけならわかるが、こちらとは?



「はァ!?なんのことだよ!」



俺はビビリながらも精一杯。



「だから、この自分とリラだ」



この言葉に俺は仰天した。



「あんた、何者なにもんだよ!」



なんだかイヤな予感した、リラの仲間の妖精か?ビビってたら、



「我は妖精王なり」



壁ドン体制からいきなり目の前で決めポーズらしきスタイル決めながら自己紹介され、ガクブルしそーになった。



「なにぃ!?」



そもそも…妖精王っていうからにはもっとガタイのいいヒゲのじーさんだと思ってたから意外だったんだが、そう思ってんのを見透かしたのか、



「人間界に出るとき我々の姿はいかようにもなるのだ」



と言われ、妙に納得した。



「今回は日本人好みにハーフのモデルでタレントで既に有名って設定で現れたんだが、そなたには通用しなかったようだな」



そーいえば千波大翔センバヒロトをはじめ、多くの生徒が王部ロン《コイツ》を認識していた。



「どうゆうこと?」



俺は素朴な疑問を投げかけた。



「我々妖精と深い関わりを持つであろう者は、基本記憶操作が通用しないのだ」



なんだと!?深い関わりだなんてジョーダンじゃねーよ!と言おうと思ったら、



「待てよ?もう一人いたぞ?」



いきなり目の前で考え込んだ。

ぶっちゃっけキョーミねーと思ってその場をコッソリ立ち去ろうとしたら、



「わかった!隣の席に座ってたあの美少女だ!」



なんて明らかに美月ちゃんのこと言い出すもんだから、聞き捨てならなかった。



「マジか!」



俺は妖精王に詰め寄った。



「ああ、周りの女性陣が熱い視線投げかける中彼女だけ無関心だった」



なあんだ、そんなことか…。俺は呆れながら、



「それ、単に好みじゃなかったんじゃね?自意識過剰だなぁ、現に俺だってリラのこと好みじゃねーし」



正直に伝えると、



「なにっ、それはまことか!?」



エキゾチックな風貌のイケメンがさっきからジジむさいセリフなのがなんかおかしかったが、俺はこらえた。



「ああ、確かにリラってすんげーキレーだって思うけど俺はどちらかって言うと黒髪サラサラストレートな純日本人の方が好みなんだよ」



「ほう…つまりは我の隣の席に座ってた少女のような者か?ふむ、確かに美しい、悪くはないな」



ここで王部オウベロンがニヤけたので、イヤな予感がした。



「おいっ、止せよな!美月ちゃんは俺のだからな!」



保険のため牽制かけたんだが、



「そなたら、恋人同士ではなかろう?」



痛いとこついてきた…。

このとき、ふいに昨夜ゆうべのこと思い出した、なんだか妖精の女王ってのがやって来たよな、もしやコイツの妻なんじゃね?



「女王様に言いつけるからな…昨日我が家に来たんだよな、いいのかな、あんなにキレイな奥さんほったらかしにして浮気なんて」



本当に夫婦かどうかわかんなかったが、とりあえず言ってみた。

すると、



「なに!やはりあいつは現れたんだな!今どこにいる!?」



ものすごい勢いで喰いついてきた、壁ドンの次は今度は俺の制服の両襟首をつかんできて、マジ勘弁して欲しいと思った。



「し、知らねーよ!」



本当にどこにいるかなんて知らない、突然現れ突然消えたのだから…。



キーンコーンカーンコーン…。



ここで休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り助かったと思った、王部オウベロンは俺から手を離し、そそくさと教室へ戻った。



教室内へ入ると、リラと美月ちゃんがなごやかに仲良さげに話しをしていた。

一体なに話してる?リラのヤツ、余計こと言ってなきゃいいが…。

確認しようにも 、すぐ次の教科の教師が教室内へ入ってきてしまい、どうにもできない。

俺は時々後ろをチラチラ盗み見た。



「えー、授業をはじめます」



次の授業は歴史で、教師はだいぶオッサンで白髪まじりの髪はもはや銀髪というレベル、真四角のメガネをかけていて出っ歯で、マンガに出てきそうな見た目だった。



石橋賢治イシバシケンジ



黒板にチョークで名前を書く、どこにでもいそーだよな…と思っていたら、王部オウベロンのヤツが、ヘンなことつぶやきやがった。



『なんかコボルトの変装に似てるなー』



『なにっ!?』



俺も一々反応しないでスルーすりゃ良かったのに、思わずつぶやいてしまってた。



『コボルトって、我々妖精の仲間だよ…ふむ、コボルトではなさそうだな』



そのセリフにホッとした、だってこれ以上妖精ばっか現れたら、いい加減俺のアタマおかしくなりそー…。



ところが、



阿辺怜士アベレイジくん」



当のコボルトのような歴史教師にフルネームで呼ばれ、ちょっとビビった、

出席取ってるだけなんだが、予想外だったから…。



「ふうむ…。君の名前は面白いねぇ、アベレイジ…英語で平均…」



ああ、いきなり俺が気にしてること言いやがった!そもそも親はナニ考えてこんな名前つけたんだ!?と、うらみに思うこともあった。



「いや、悲観してはいけないよ?君たち若い世代は平均と言われるとガッカリするが、我々の年になるとありがたみがよーくわかるようになるから…」



これも今まで大人に何百回も言われた気がする。

ムスッとしてたら、次の生徒の名前が呼ばれた。




王部オウベロンくん…」



そもそも…あ行の俺の次がいきなりオではじまる王部オウベなのは納得いかなかった、なんだか初日はその間の名字の人がいたような気がしたの、気のせいか?



王部オウベロン…ほほう、これはまたなんと面白い!オベロンという妖精王のような名前ですね!ふむ、確かにタレントは妖精のように美しい者が多いからねぇ…」



ここで教室内の一部がザワついていることに気づく、



「進化するのかなー」「そういやなんかちょっと似てね?」



俺はあまりゲームに興味ないからよくわからんが、どーやらオベロンって名前が何かのゲームキャラらしいのは、千波大翔センバヒロトを通じて知ってはいた、



−−こんな架空のヤツらが現実に存在していたとは…−−



これが大翔ヒロトをはじめとするゲーム好きに起きたことなら嬉しい出来事にちがいない、だが俺はごく普通の男子高校生、ため息つきたくなる。

その後の生徒は普通に出席を取るだけだったが、美月ちゃんとこでまた雑談はじまった。



「ほう…キミがウワサのMSグレースソリューションシステムズ社長令嬢の長谷川くんかね?ようこそ、我が校へ!」



ここでまた教室中が沸いた、美月ちゃんのお父さんの会社は誰もが知る有名企業で、その令嬢が来てるから…。



「マジか」「スゲー」「なんでここにいるの?」



美月ちゃんかわいそうに、真っ赤になってうつむく。



「なんかスゲーかわいいよな」



男子生徒のこのつぶやき耳にしたとき俺は誇らしかった、俺の幼なじみでよく知った仲なんだぞと…。

だが、俺の中ではカノジョ同然と思ってたのに美月ちゃんにとってそーでもなさそーなのは。心が痛んだ。



−−なにもかもアイツが悪いんだ−−



そう思ってたら、



『リラ・フィーくん』



当の元凶のリラの名前が呼ばれた。



「うんうん、君も美しいね、フランスから?ボンジュール」



石橋の目尻が垂れ下がり、さらにキモくなる。

なんだって世の中のオヤジはガイジンのオンナに弱いんだ!?

全てがそーじゃないかもしれんが、そんなイメージがある。



「ふうむ…フィーとはこれまたピッタリな名字ですねぇ、フランス語で妖精という意味、君も妖精のように美しいねぇ…」



そうか、フィーってなんなんだよって思ってたが、そーいう意味か…。

それにしてもよくモノを知っている、隣の王部オウベロンも、



「我々の世界に詳しそうな人間だな」



と、つぶやいている。

そうか!もしかしたらこの教師なら妖精の撃退法を知っているかもしれないと、

なんだか明るい兆しが見えてきた気がした。



















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