第6話 まさかの転校生!

なんとか美月ミツキちゃんに追いついても、シカトされっぱなしだった。

学校はとりあえずギリギリ徒歩圏内、約15分間恐ろしいくらい早歩きされた。



「だからね、昨日突然現れてね、いきなりカノジョ宣言されてね、俺もワケわかんないのよ…」



美月ミツキちゃんと同じペースで一生懸命早歩きしながら説明したが、あえて聞かないように振り切られた感じだ。

傍から見りゃイヤがる美月ミツキちゃんにしつこくまとわりつくオトコに見えたのかもしれない、



「君、やめたまえよ、彼女いやがってるじゃないか!」



いきなり見知らぬオトコに右腕を引かれた。



注意してきたのは、パッと目を引くようなイケメンだった。

背がスラリと高く手足が長くてモデル並みで、外国人っぽい顔立ちだった。

紺色のブレザーに赤いチェックのズボンを履いていて一目でうちの学校の生徒だというのがわかったが、それにしても大きなお世話だった。



「いや、彼女幼なじみで…」



説明しようとしたが、



「だからと言って相手のイヤがることしていい訳ないだろう」



と、さらに強く腕を引かれた。

そうこうしてるうちに美月ちゃんはさっさと行ってしまった。



「なんだよ…俺たちの問題に首突っ込むなよ…」



俺は心底腹が立った、なんだってこんなに色々とジャマが入るんだ!



「明らかに女性がイヤがっているのを黙って見すごすわけにはいかないだろう!」



なんだこのオトコ、いけ好かないヤツだな!

口論していたら、



「おい、オマエらなにやってんの?遅刻するぜ?」



声をかけられた。

声の主は、千波大翔センバヒロトだった、なんだか助かった!



「ありがとう、助かったよ」



俺はそう言って大翔ヒロトと一緒に駆け出した。

俺に注意してきたイケメンは何やらブツブツ言ってたが、俺たちを追い抜いて駆け抜けた。



「なんだぁ?あいつ?」



小走りしながら不満げにつぶやくと、



「なんだ怜士レイジ、オマエ知らねーの?」



と、大翔ヒロトから意外な返答。



「へっ、有名人か何かか?」



わりとテレビは観てるほうだから疎いほうではないと自負があったんだが、



「マジで知らねーの?王部オウベロンとかいって最近人気のハーフのモデルでタレントじゃん!」



…知らなかった…



「そんなヤツが、フツーの公立高校通ってんの?」



「うん、自分も驚いてるー」



そんな会話しながら小走りし、なんとか始業時間に滑り込めた。



教室に入ったと同時にキンコンカンコンとチャイムが鳴った。

俺たちは急いで自分の席についた。

席順はあいうえお順なので、阿辺アベという名字である俺は学年がはじまると常に一番前の入り口付近の座席だ。

美月ミツキちゃんの名字は【長谷川】だから比較的後ろのほう、俺は振り返って美月ミツキちゃんを探した。

窓際席より二列目後方の座席に座っていて、俺と目が合うとプイとそっぽを向かれた。



−−ちぇっ…−−




なんだか面白くない。

程なくして担任が入ってきた。



「みなさん、おはようございまーす!」



ほがらかにあいさつをした担任はメガネをかけた中年の女教師で、担当科目は確か国語だった。



「今日は入学して2日目なんですが、なんと!転校生が、しかも二人いま〜す!」



入学して2日目に転校生ってヘンだよな…と思ったの俺だけでないみたいで、教室中どよめいた。



「はい、王部オウベくん、フィーさん、入ってー」



ゲッ!王部オウベってまさかさっきモメたヤツかよ!と思ったら、

もっと驚くもんが俺の視界に入ってきた。



「レイジ〜!」



なんとリラのヤツが王部オウベロンの後に続いて俺に手を振りながら入ってきた!



「うぉっ!なんでオマエがここにいるんだよ!」



思わず叫ぶ。



「はい、阿辺アベくん、私語は謹んでね…」



いきなり注意された…。

教室中、なんかスゲー大騒ぎになった、俺は知らなかったんだが、オトコのほうはなんか有名人みたいな上に超イケメンだし、リラだって外国人の超美少女だ(でも俺はキョーミないが)

女子は「キャー!ロンよー!!」って黄色い声出すし、男子は男子で「うわ、マジかわいい、ラッキー!」みたいな声があがっていた。

もちろん、一部の女子にも「わぁ、スっごくキレイ〜、何人なにじんかなぁ?」と、リラは興味を持たれているようだった。



「ハイハイ、みなさんお静かにー!」



ここで担任がパンパンと手を叩いた。



「みなさんが騒ぎたくなる気持ちもすっごくよくわかりますが、転校生の挨拶くらいさせてくださいねー!まずはみなさんご存知のこの方からー!」



王部オウベロンとかいうヤツの紹介からはじまった、みなさんご存知って、俺は知らなかったぞ?



「はじめまして、ロン王部です。一年前からモデルやったりバラエティ出たりとタレント活動をさせていただいてますが、普通に高校生活も送ってみたくてこの学校を選びました、みなさんよろしくお願いします」



こう挨拶終えた途端、女子が「キャー」と沸いた、

グリーンがかった薄茶色の瞳に薄い茶髪で、ハーフというよりそのままどこかの国の人と言ってもおかしくはなく、ハリウッド俳優も顔負けなくらいのイケメンだった。



「はい、ありがとうございます。みなさんご存知王部オウベくんは芸能人ですが、あまりもみくちゃにして疲れさせないようにしてくださいねー」



なあにがもみくちゃだよ…。そんなことすんの、ミーハーなバカ女子だけだろ?

美月ミツキちゃんはそんな安っぽいことしねーわ!

美月ミツキちゃんの反応チラと盗み見たが、他の女子たちのようにはしゃぐ様子は見せていなかった。



−−ほらな−−



「はい、続いてはフランスからの留学生です」



続いてリラの自己紹介がはじまる。



「みなさーん、こんにちは!私の名前は、リラ・フィーです、仲良くしてくださいねー」


…それにしても『フィー』ってどっから出た名前なんだとノンキに考えていたら、

リラのヤツいきなり爆弾宣言しやがった!



「えー、実は私、ここにいる阿辺怜士アベレイジの恋人でーす!今も一緒に暮らしてまーす!」



うぉっ!なんてこと言いやがるんだ!

昨日初めて知り合ったばかりのクラスメイトで同じ中学校からの進学でない限り顔と名前が一致しない状態なもんだから、クラスの連中がどよめきとともにわざわざ俺の顔を見にきた。



「はいはい、みなさん席について〜!それにしてもフィーさん、大胆ですねー!当校は男女交際は容認していますが、くれぐれも高校生らしいおつきあいしてくださいねー!っと、誤解とかなきゃ!みなさーん、一緒に暮らしてるって同棲ではなくホームステイですからねー!」



担任の叫びも虚しく、クラスのほぼ半数以上が俺の顔見に押しかけてきた、



「なんだ、フツーじゃん」「ロンみたくイケメンなのかと思ったよー」

こうハッキリとひでーこと言うのってだいたいが女子、

男子は「うわ、マジかよ」くらいで言葉少な、

ただ大翔ヒロトだけは、「お前マジかよ、幼なじみのかわい子ちゃんと二股か?」なんてこれまた爆弾発言したもんだから、その場はパニックになった。



「え、なんだよ、他にオンナいるのかよ!」「どこで知り合った」「なんだ、たいしてイケメンじゃないじゃん」



などなどクラスメイトのほとんどが口々に詰め寄り、教室が沸いた。



「みなさん、席についてー!」



担任は顔を真っ赤にして叫ぶ。

俺は担任にもっと注意してもらいたくてチラリと見ると、メガネがずり落ちそうで必死な様子だった。



−−なんか頼りねーな、もっと怒鳴ると迫力あるヤツが良かったのに−−



その思いもむなしく、誰も担任の声に耳を貸さなかったのか俺はもみくちゃにされかけていた。



「やめたまえ、君たち!」



ここで転校生の王部オウベロンが大声をあげると、不思議なことにピタリと静まった。



「さっすがオーベローンさま!」



ここでリラのヤツがいきなり王部オウベロンを褒め称えた、なんだか発音おかしいぞ?と思ったが、フランスの妖精だからかとあえてツッコまなかった。



「まあ、ありがとうね、王部オウベくん!」



心なしか担任の目がハート型になっているように見えたのは、気のせいだろうか?




「ええっと…お二人の席は……、あら、ちょうど二つ空いてたわね、王部オウベくんは阿辺アベくんのお隣、フィーさんは長谷川ハセガワさんの隣ね!」



昨日まで空いてなかったはずの俺の隣の席がいつのまにか空席になってたんでビビった、もしやリラのヤツが妖精マジックかなにかを使ったか!?

と、ここでリラが、



「センセー、私怜士レイジの隣がいいな〜」



と抜かしやがった、カンベンしてくれよ…。



「そうねフィーさん、好きな人の隣の席に座りたいお気持ちよーくわかりますが、席はあいうえお順に並んでるって決まってますからね…意味わかるかしら?王部オウベくんは阿辺アベくんと同じあ行、フィーさんは日本語の表記だとは行になるから長谷川ハセガワさんの隣になるんですよ、わかりましたか?」



なるほど…そーいや学年の始まりの席ってあいうえお順だから、そりゃ納得だ。

リラはちょっと首をかしげたが、



「はい、わかりました」



やけに素直。



こうして王部オウベロンは俺の隣の席に、リラは美月ちゃんの隣の席についた。



『おい、お前…リラの正体を他人にバラしたらタダじゃおかないからな、覚えておけ!』



隣の席についた王部オウベロンが挨拶もなしにいきなりこんなこと囁いてきたので、俺は盛大にビビった、



「え、どういうこと?」



訊いたがなにも答えない、こうして波乱が幕を開けた。






















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