第4話 女王様、登場!

漫画家である母親は、毎回ネタに苦しめられている。

ネームまで進めたらわりとサクサクいくんだが、大抵その前段階で行き詰まってる。

それって漫画家としてどーなんだよ!?って思う。

そんなとき決まって夕食を作るのは俺、父親がいる時は父親が作るんだが、平日のこの時間帯に帰ってくるはずがなく、必然的に俺の仕事だ。

最初はイヤでしかたなかったが料理ってなかなか面白い、今日の夕食は生姜焼きだ。

ダイニングキッチンの隣はリビング、まだ母親とライラックの妖怪の話し声が聞こえてくる。



「おい、いいのかよ?さっきまでネタがなくて困ってたんじゃねーの?」



気になった俺は声をかける、別にほっときゃいいんだが、いつまでもネタが思いつかないとウチの母親はキレまくり非常にメーワク、平和のために時折こーして気にかけてやるのだ。



「大丈夫、大丈夫!リラちゃんのおかげでいいアイデア浮かんだのよ♪」



やたら上機嫌だ。



「まさかライラックの木から妖怪出たマンガ描くんじゃねーだろーな」



俺がこう言うと、



「マァ失礼ね、ワタシ妖怪ちがう、妖精よ!」



リラのヤツ、なんか必死で笑える。



怜士レイジ、もういいからさっさと夕食作って」



ちぇ、ネタの心配ねーなら、オマエが夕食作れよ…そう思ったが、こう言ったところで聞く耳は持たなさそうだ、母親は昔から何かに夢中になると人の話なんて聞きやしない。

とっとと夕食を作ることにした。



「ただいまー」



ちょうど夕食を作り終えたタイミングで、玄関先から父親の声が聞こえてきた。

時刻は午後6時半くらい、残業なしでまっすぐ帰ってきたのだろう。



「おかえりー」



玄関に向かってそう叫んだ後、俺は出来上がった料理をダイニングテーブルに並べた。



−−リラを見たらどう思うかな?ライラックの妖精と言っても信じねーだろうな−−



父親は玄関入ったらまず洗面所に向かい、手を洗ってうがいをする。

それから二階へあがって着替えてからリビングを通りダイニングキッチンへ入ってくるので、リラに気づくにはもう少し時間がかかるだろう。

母親は相変わらずリラとの話に夢中、昔から夢中になると他が見えなくなるよーな傾向があるから、父親が帰って来たのに気づいてないかもしれない。

父親も心得ていて、本来であれば今頃母親はネタを考えている最中のはずであるから、

「おかえりなさい」のひとことがなくても、全く問題はないだろう。

そう、今日はいつもと変わらない日常のはずなのだ。



「おい、父さん帰って来たよ」



一応リビングの二人に声をかける。

リラの存在を説明するのが面倒だから、遠回しにライラックの木に戻れ…と、伝えたつもりだったんだが…。



「あらやだ、もうそんな時間なのね」



母親、ハッと気づくもリラと会話の続きをはじめる。



「そうそう、だからね…」



初対面の、しかも人ではない妖精となにをそんなに話すことがあるというのだ!?

思わずため息が出てしまった。



「いや、だからさ、そうじゃなくて…」



早いとこリラに木に戻ってもらわなきゃ、説明がメンドくさい。

なのにこの女ども、耳を貸そうともせずに訳わからん話で盛り上がっている。



「今日の夕食はなんだい?」



ここで思ったより早く父親顔を出す。



「あわわ…」



俺、テンパって父親をリビングの入り口ドアから追い出そうとするも、間に合わない。うちはリビングを通らなきゃダイニングキッチンへ行けないつくりになっているから、バッチリとリラの姿を見られてしまった。



「おや、お客さんかい?」



中肉中背ごくフツーのおっさんの父親。

どう見ても外見外国人のリラを見ても驚いてはおらず、『誰かが友達を連れてきたノリ』だったから気は楽だったんだが、、、



「ハジメマシテ、ワタシはリラっていいます、ライラックの妖精で…」



あちゃー、リラのヤツまんま自己紹介しやがった!

ここからメンドーが予想できたから、なにがなんでもリラには木に戻ってもらいたかったんだが…。



「へっ、今このなんて言ったの?誰か通訳〜」



父親も大概ボケたヤツだ、ちょっと助かったよーな気もしたんだが…。



「や、いいからさ、ここは俺が紹介するから」



俺はリラがもう一度自己紹介しようとするのを制し、父親に当たり障りない説明することにした。



「あ、この人フランスからきた留学生なんだ」



これでなんとかおさまるだろうか?



「へーえ、かわいいじゃないか!あ、僕は怜士レイジの父親です」



ヘタな英語使おうとする父親じゃなくて良かった…、

根掘り葉掘り質問ぜめにするようなヤツじゃなくて良かった…、

あまりにもすんなり受け入れるからホッと胸を撫で下ろした……………んだが…。



「ワタシ、ほんとうはライラックの妖精なんです」



リラのヤツ、いきなりカミングアウトしやがった!

やめてくれよ、うちの父親は脳内お花畑の漫画家の母親とちがって現実主義者なんだから…。

リラに対する厳しい反応を予想していたが、



「ははっ、面白い冗談をいうだねぇ」



以外にもウケている、なにが面白いんだか…。

リラのヤツもなにも答えずにニコニコしてるもんだから、この件に関してウヤムヤのうちに無事スルーされそうだと思っていたら、



シャラーン!



なにやらキラキラしたような擬態音と共にピンクの細かい光がリビング中にあふれ、女のシルエットが見えてきたと思ったら、美女が現れた!



「!?」



あまりのことに声が出ない、リラとはタイプがちがうこれまた赤毛の美女が現れたのだ。

リラよりちょっと年上っぽいかなり色っぽいタイプ、赤い巻き毛を腰まで垂らし、カラダの線がクッキリわかるようなピッタリした黒い服を着ていた。



「こらっ!あれほど人間に素性を明かすなと言ってるでしょう!?」



突然現れたのにもビックリしてるのに、このセクシーなねーちゃんはいきなり大声でリラ怒鳴りつけた。



「あっ、ティタニア様…」



リラは少し青ざめた、へえ、妖精も生意気に青ざめるのか…。

ここで母親がいきなり歓声をあげた。



「ティタニア様って、もしかして妖精の女王様?キャーッ、思っていた以上に美しくってセクシーだわ♪」



やたらハイテンション。

ここで超現実主義者である父親がどんな反応しているかチラ見すると、

目を大きく見開いてパチパチと瞬きをしている。



「疲れているのだろうか…」



次の瞬間にはゴシゴシと目を擦っている。



当の妖精の女王様だというティタニアはつかつかとリラの元へと歩みより、腕を掴んだ。



「ほら、精霊界へ帰るよ」



ああ、これでやっと面倒ごとが消えてくれる…と胸を撫でおろそうとしたが、



「イヤっ!帰りたくありません!」



リラのヤツ、ゴネ出す。

ティタニアはため息をつき、



「人間と恋愛するのは勝手だけどね、素性を明かしてはダメと暗黙の了解があるの知ってるハズでしょう?」



厳しく言い放つ。



「でもそれって、決まりごとにまでなってないでしょ?」



リラも負けずに口答え。

ティタニアはそれでも怯まずに、



「確かに掟でないけどね、人間に正体明かすとロクなことないと散々言い聞かされてきたでしょう?いきなり明かしてしまった以上はダメよ、記憶消してかえりましょう」



強引に連れ帰ろうとする。



「いいのかなぁ、あのことオベロン様に言いつけちゃおうかなー」



リラのヤツ、脅迫めいたセリフを吐く。



「ちょっ、、、あ、あれはいいのよ、うちのダンナだってしょっちゅう浮気してるんだし…」



妖精の女王だとかいうティタニアの顔色がサッと青ざめる。



「ティタニア様の今度の浮気相手、よりによってオベロン様の嫌いなタイプの人間ですもんね〜」



「お願い!それ以上なにも言わないで!」


どうやら形勢逆転したらしく、ティタニアはリラに取りすがる。

妖精の女王の浮気相手の人間の男…しかも夫である妖精の王が嫌うタイプってどんなだよ!?って気になったが、なんだかツッコミ入れられない雰囲気だ。

聞きたがりな母親でさえ、目をまん丸く見開いて二人を見守ってるし、

父親は放心状態でいつのまにかソファーに腰かけていた。

リラのヤツは勝ち誇ったような顔で俺に笑みかける。



「わかったわ…今回は目をつぶりましょう」



ティタニアは諦めたようにため息をつく。

マジかよ…。

もしかして、しばらくこの厄介な女がここにいるのかよとガッカリした。

ティタニアはそんな俺を横目でチラ見し、



「ただし」



急に勝気なもとの表情に戻った。



「その人間、なんだかメーワクそうだから、まだ恋人同士にはなっていないようね。そうね…今度の夏至までにその男が心底あなたに惚れなきゃ手を引く…って条件でどうかしら?」



なんかよくわからん条件出してきた…夏至ってなんだっけか?と思い出せずにいたら、リラのヤツいきなり俺に抱きつき、とんでもないこと言いやがった。



「嬉しいわ、ありがとうティタニア様!きっと惚れさせてみせますわ!ああ、人間の赤ちゃん産むの楽しみだわ♪」



…………えっ………?

赤ちゃんだと!?



俺がリラに惚れるなんてことありえねーのに、子供まで作れるわけがない!

これ聞いた母親は、「あらあ、かわいいお嫁さんが来るのね♪」と脳内に花が咲いていやがるし、父親にいたっては「いいなぁ…オレが替わりたいよ」なんてぬかしやがる。

だったら今すぐ替わってもらいたいもんだ。



「仕方ないわね…まぁ、人間の方が寿命短いから飽きるころには死んじゃうでしょうし、第一ここは日本でこの国の人達って妖精の存在信じないから他の者に正体バレる心配もないでしょう。ま、せいぜいがんばって」



この妖精の女王、なかなかウツなこと言いやがる…。



こうして妖精のオンナに押しかけカノジョをされるという妙な体験をする羽目になった。































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