第3話 ヤベー女が現れた!?

「これでよしっと…」



ジョウロの水が空になる。

一通りの作業が終わり、俺は汗を拭った。

ダセえ話、昔はよく母親の手伝いで庭仕事したことあったので、今回の作業は苦にならなかった。

部屋へ戻ろうとしたそのとき、辺り一面が突然ピカー!と光り、まぶしくなった。



「!?なんだ、なんだ?!」



てっきりどっかの車がウチの庭に向けて思いっきりライトを当てたのかと思ったが、庭と道路の境にちゃんとコンクリートのブロック塀があって物理的に無理だし、第一車のライトにしちゃ眩しすぎた。

あまりにも眩しすぎるので、右手を顔の前にかざした。

光の発信地はどこだ?と思い右手ごしに探すと、どうもさっき植えたライラックの苗木が怪しい。



−−え?苗木あいつやけに光ってないか?−−



苗木から光が溢れ出てるようにしか見えない。

なんだろうとじっと眺めていたら光は徐々に人型を形成し、

気がついたら目も覚めるような美女がにこやかに立っていた。



「うぎゃ〜っっっ!!!」



あまりの事に俺は叫び腰を抜かした、誰がどー見ても苗木から出た光が人に化けたようにしか見えない。

波打つ豊かな金髪は腰まであり、大きな青紫色の瞳は宝石みたいにきれいだった。

ゆったりとした青紫色のワンピースを着ていたが、身体の線はモロわかりでボンキュッボン!という感じで目のヤリ場に困った。



「サヴァ〜」



美女はそう言ってにこやかに近づいてくる。



「うわわーっ!来るなぁ、こっちへ来るんじゃねー!!」



普通に考えたら絶世の美女が近づいて来るのは大歓迎なのに、苗木から光が出て人型になったかと思ったら美女になるなんて恐ろしく、妖怪としか思えない。



「何事なの、うるさいわねー!」



ここで母親が庭に面したリビングの窓をガラリと開けて顔を出した。

例の美女とバッチリ目が合った。



「あら怜士レイジすみに置けないわね、このヤロー!みっちゃんという者がありながら…」



どーやら母親は誤解してる様子、俺がフツーにオンナ連れ込んだと思ってる!?



「ち、ちがうんだ!ライラック植えたらいきなり変身したんだよ!」



俺はありのままを必死に説明したが、



「またまた〜、なにバカなこと言ってんの」



そう言って俺の頭をゲンコツで軽くグリグリした。



「マジなんだって…」



俺、ほぼほぼ涙目。



ここで美女が口を開いた。



「アナタ、お母さんデスカ?ワタシ、レイジとケッコンするためにきました」



いきなりの爆弾発言!



「ぬあんだって〜〜〜〜!?」



俺、半ば発狂しながら絶叫。



「だいたいオマエ誰なんだよ!?今さっき初めて逢ったばっかだろ?」



もうワケわかんねー…。



「えっ、結婚って、、、男子はまだムリよね?ウチの怜士今年16だし…」



母親も母親でなかなかボケたこと言いやがる。



「Anchante《アンシャンテ》(フランス語ではじめまして)、Je m'apelle《ジュマペル》(フランス語で私の名前は)……っと、日本語、日本語…エート、はじめまして、ワタシ、リラっていいます、フランスからきました、ついでに言うとライラックの妖精デ〜ス」



美女がいきなり自己紹介おっぱじめた、しかも電波だ。



「は?おかしいんじゃね?」



不思議現象を目の前で見たくせに俺、思い切ってテンパり相手をキ◯ガイ扱いしてしまう。



「アラヤダ、目の前で見てたのにね…じゃあ、モウ一回…」



そう言うとまた強烈な光を放ち、光の人型になったかと思うと先程植えたライラックに吸い込まれ、再び眩しい光が放たれ人型になって美女に戻った



「す、スゴいスゴ〜い!こんなことって本当にあるんだー!!」



母親やけにハイテンション、これがフツーの母親だったら気絶案件だと思うんだがさすが漫画家、こういう珍事に免疫はあるようだ。



「なんか感動しちゃったー、良かったら上がって上がって…」



全く調子がいいというか、順応性が高いというか…。

美女は言われるまま窓からリビングへと入る、続けて俺も部屋へ入った。



「今お紅茶淹れるわねー」



ウキウキな様子の母親はそのままキッチンへ向かおうとしたが、



「あ、ワタシ水でいいです、ライラックの精ですから…」



美女がこう声をかけた、



「あ、なるほどね〜」



母親が水を汲んで持ってくる間、なんかなにがどうしたらいいのか、頭ん中ぐるぐるだった。

いきなり俺の名前知っていやがったよーな気がしたの、気のせいだろうか?

結婚するって言ってたよーな気がするの、聞き間違えか!?

美女はずーっと俺のほう見てニコニコしてやがる…。

フツーに考えたら外国人の美女に微笑まれたらまじ嬉しい案件なんだが、

木から出て来たっての気味悪ぃし、第一俺は外国人の女に興味はない。



「どうぞ」



なにを考えたんだか母親、めったに出さない…ていうか恐らく一度も使ったことのないよーな高そーなグラスに水を入れて来やがった。

しかも、コースターつきで。



「アリガトウ、イタダキマス」



美女は出された水をくーっと飲み干した(本当はグッと飲み干すって表現が正しいんだが、彼女が飲む姿はくーっと…が合ってる気がした)



一息つき、美女は語り出した。



「ワタシ…、ライラックの妖精、フランス語ではリラだからリラって呼んでクダサイ」



「はい、わかりました、リラちゃんね」



母親はなんだか嬉しそう。



「ワタシ…フランスからはるばるこの日本へやって来マシタ、ブルーベリーとレモンと一緒に色んな人にもらわれてくことになりマシタが、ワタシだけだれももらってくれませんデシタ…しかも、ブルーベリーとレモンなくなったら、みんなワタシをいらない、言いマシタ」



「まあ、そうだったの、かわいそうに…」



母親よ、フルーツの苗木以外はいらねーって言ってたのに、どの口が言うかなー?



「そんな中、レイジだけがワタシをもらってくれました、しかもワタシをキレイだって…だからワタシ、レイジをスキになっておヨメさんになるって決めました」



…確かにライラックの苗木だけいらない扱いされかわいそうだと思ったし、花咲かせたライラックの写真を見てきれいだとは言ったが、、 、



「マジでそんだけ?そんな理由で俺を好きになったの?」



どーにも信じられん。



「ハイ、スキになるのに理由はアリマセン、ワタシ、ピンときまシタ」



ま、まじか!!!

驚きすぎて、なんも言えん……………。



これ聞いた母親、なんかやたら感激してる。



「んまぁ、んまぁ!ウチの息子をこんなにも思ってくれるなんて!しかも一目で優しさを見抜くなんて!リラちゃんなら大歓迎よ!」



祈るように両手を握り、目まで潤ませてやがる…。



「ちょ、、、俺やだからな!だいたい俺にはもう美月ミツキちゃんがいるって知ってるだろ!?」



俺は母親に向かって言い放った、美月ミツキちゃんのことずっと好きだったの、知ってるはずだろうし…。



怜士レイジや」



ここで母親は急に改まった。



「みっちゃんはね…確かにかわいいし昔から仲良しなの、よく知ってるわよ?でもよく考えてごらんなさい、うちはしがない一般的なサラリーマン家庭、そりゃあ共働きで稼いでお隣さんがみっちゃんちみたいな金持ちでもおかしくはないけれど、

あちらのお父様は最近業績落ちてるとはいえ会社経営者、お母様はエステサロン経営者よ?格差あって結婚はおろか付き合うのも無理でしょう?」



いきなりイタいとこついて来やがった、



「そんなカンケーねーだろ、俺ら多分好き合ってるし…」



「そうかなぁ、悪いけど私にはそう見えなかったけどなー?みっちゃんって昔から人見知りだから、慣れるまで知った子にベッタリなの、昔からだけどね…」



今度はグサっと突き刺さるよーなセリフ!



「ひ、ひでーよ!」



そうは言ったものの、美月ミツキちゃんが俺のことを好きか?っていわれると自信ない、イケる気はしたが母親の指摘で人見知りなのを思い出した。



「あのう…」



ここで美女が口を開いた、リラっていうんだっけ?



「そのみっちゃんっていうひと、もしかして一緒にワタシをもらいにきてブルーベリーもってかえったひとデスカ?」



そういやこいつ、苗木の時に美月ミツキちゃんを見てるのか…。



「そーだよ、俺はあの子が好きなんだよ!」



正直に言ってやった。

一瞬下を向いたもんだから、ああ泣くかな?と思ったら、ニコッと笑って顔を上げ俺に抱きついてきた、フワッといい香りが鼻腔をくすぐった。



「デモ、ケッコンしてないよね?ワタシ、あきらめませーん!」



な、なんだと!?

こんなにメーワクな話あるか!



「断るっ!」



俺は声を荒げて言い放ち、抱きついてきたリラを振りほどいた、


怜士レイジ、オマエなんてもったいないことを…!あんたレベルでこんなに美人に好かれるなんて、もう二度とないかもしれないのよ?」



母親のくせになんてこと言いやがる…。



こうしてメンドーで憂鬱な日々が始まってしまったのだった…。












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