第2話 まるでデート!?な気分で苗木をもらいに行く

嬉しいことに美月ミツキちゃんとは同じクラスになり、クソだりぃ校長の長ったらしい話も入学時の成績最優秀者による新入生の挨拶も苦にならなかった、ってか、俺ずっと美月ちゃんのほう見てニヤニヤしていて時間すぎるの早かった。

 おかげで同じクラスに中学から一緒でわりと仲良くしてたヤツいても、ちっとも気づかなかった。



阿辺アベちゃーん、また同じクラスになったね〜〜、一緒に帰ろうよ!」



 そう言って声をかけてきたのは、中3のとき同じクラスだった千波大翔センバヒロトだった。

 身長160あるかないか小柄な男だがすばしっこく、体育の時間はバスケやバレーみたく身長高いのが有利な競技以外は活躍してたよーなヤツだ。

 天然で茶髪で天パで通ってた中学校はチョイうるさくて届けを出してたが、

 俺らが通う花園高校はわりとユルく、合格した時は、



「やったー!!これから自由だ、メンドーな届け出がいらねーや!」



 って、誰よりも喜んでいた。



 そんな大翔ヒロトの誘いを俺は断らなきゃならなかった、



「ごめん、俺 、ちょっとこのコと帰る事になってるから…」



 そう言って美月ミツキちゃんの手を取り繋いだ、本当はオトコに免疫ないはずだからこんなことされたら美月ミツキちゃん怖がるだろうけど、俺は幼なじみで信頼されてるから嫌がる様子も見せずにされるがまま、しかも同世代のオトコは俺以外とあまり接して来なかったのあって怖いのか、俺の後ろに隠れた。



「マジかー!?誰?誰なのよ、オマエいつのまにカノジョできてたん?」



 大翔ヒロトの目は今にも飛び出しそうでスゲー驚いてた、そりゃそうだよな、

 平凡でどこにでもいるような俺がこんなかわいい女の子と一緒にいるんだから。



「ま、色々とな…また今度話すよ」



 はっきり言ってまだただの幼なじみで彼女と紹介するほどの仲にはなってなかったので 、質問攻めにされたらなにかとメンドー、なんでテキトーにはぐらかして教室出た。



 例のトットコストアは、学校のすぐ近くにあった。

 トットコストアとは数年前にできた大型スーパーマーケットで、主婦層だけでなく若者にも人気の場所とネット記事で読んだことがある。

 店内はフードコートもあって、学生のちょっとしたデートスポットにもなっているらしい。

 ああ、いつか美月ミツキちゃんと行きたいな、今日苗木さえなければな…そうだ、近いうち誘ってみよう、一緒に手を繋いで店内ブラブラして………とボンヤリ考えていたら、美月ミツキちゃんの叫び声で現実に引き戻された。



「うわ、なにこの長蛇の列!苗木をいただくのにこんなに並んでいるのね!?」



 言われたとおり、ブルーの大きな建物の前は長い行列が作られていた。



「整理券はこちらでお配りしていまーす!会員さんはカードを提示し整理券を受け取ってからこちらにお並びくださーい!」



 紺色の制服に身を包んだ警備員がスピーカー片手に叫んでいた。



「うわ、マジかよ、たかだか苗木もらうのに、こんなに並んじゃってるの?」



 思わずそうつぶやく。

 こんなに並ぶのイヤだったから、母親に『行列凄すぎてもらえなさそう』ってLINEしようと思った矢先、



怜士レイジくん…並ぶのしんどかったら先に帰っていいわよ、私どうしてもブルーベリーの苗木が欲しいから…」



 美月ミツキちゃんの思わぬひとこと。



「え、、、いや、お、俺もさ、苗木欲しいから一緒に並ぶよ!」



 本当は苗木なんていらねーよ…と思ってるが、こんなとこに美月ミツキちゃん一人置いてくのは心配だし、何より一緒にいたかった。



 チラとスマホを見る。

 母親からLINEきてた、うぜー…。



『言い忘れてたけど、苗木はフルーツがなるやつがいいな』

『ブルーベリー、レモン、ライラックあるけど、ブルーベリーかレモンね』



 知るかよ…って言いいたいとこだが、俺だってもらえんなら食える方がいい、

 美月ミツキちゃんと同じブルーベリーをもらうつもりでいた。



 待っている間、さっき声をかけてきた大翔ヒロトのことを話題にした。



「あいつさ、中3のとき同じクラスでまぁまぁ仲良くしてたヤツで、千波大翔センバヒロトっていうんだ、結構いいヤツだよ」



「そうだったの…あの、さっきはごめんなさいね…私なんか慣れてなくて、怖がってしまったの態度に出してしまって…」



 美月ミツキちゃん、頰を赤らめて申し訳なだそうにうつむく。それがまたかわいいのなんのって!

 イマドキこんなにスペックが高くて純なコはいないだろう、俺はすっかり得意になってベラベラしゃべりまくった。



「いや、大丈夫だって、大翔ヒロトにはちゃんと話しとくからさー」



 そこで話題が途絶える。

 大翔ヒロト以外同じ中学から来て同じクラスになったヤツのことでも話題にしようとしたが、美月ミツキちゃんと同じクラスになれたことに有頂天になりすぎて誰がいるか確認までしていないことに気がついた。



−−うわ、俺としたことが…−−



考えてみれば美月ミツキちゃんとよく遊んだのは小学校上がる前のことで、

最近になるまで見かけたら軽く挨拶を交わす程度なのと当たり障りのない近況を話す程度で、なんの共通点もない事に気がついた。

美月ちゃんが同じ高校に通う事になった時だって、報告にきたのは美月ミツキちゃんのお母さんだった。

ウチの母親とちがって、美月ちゃんのお姉さんと言っても通用するくらい若く美しいひとだった。



「うちの美月ミツキ怜士レイジくんと同じ高校へ通う事になったの、どうか美月ミツキをよろしくね」




きれいな巻き髪にいかにも高そーなワンピースに身を包んだ“いかにもセレブな奥様風”、そんな美しい女性にお願いごとされた日にゃ、



「はいっっ、喜んで!」



バカみたいに返事して引き受けるしかない。



「レモンなくなっちゃったってー、でもブルーベリーあって良かった」

「ブルーベリーも残り少なそうだもんね」



知らないオバサン同士が苗木を手にこう会話してるのを耳にしたとき、現実に引き戻された。



美月ミツキちゃん…今の聞いた?」



美月ミツキちゃんも今の会話を耳にしたらしく、先程のオバサンたちの後ろ姿を見送っている。



「うん…なんかもしかして厳しいのかな?」



苗木を手に帰って行く人達が持っているのが、みんなブルーベリーに見えてしょうがない。



「もしブルーベリーが残りひとつなら、美月ミツキちゃんに譲るよ」



少しでも美月ミツキちゃんを喜ばせたい…この時の俺、心の底からそう思ってそんなことを言ってしまったのだ、



「ええ、本当?怜士レイジくんありがとう」



まぶしいほどの満面の笑みを向けられ俺は天にも昇る気持ちだった。

今にして思えば、ブルーベリーを譲っても代わりの木なんてもらうべきじゃなかったんだ。



「はい、次の人」



ほどなく自分の番になった、ブルーベリーください…と言おうと思ったら、



「ブルーベリーはラスイチね」



なんてスーパーのオッサンが言うもんだから、



美月ミツキちゃん、先にいいよ、ブルーベリーもらいなよ、欲しかったんだろ?」



後ろに並んでいた美月ちゃんに順番を譲った。



「ええ?本当にいいの?」



美月ミツキちゃん、申し訳なさそう。



「いいんだ、約束したろ?ブルーベリーが残り一個になったら譲るって」



このとき、美月ミツキちゃんの後ろに並んでいた人達が口々にブーたれた、



「え、もうブルーベリー終わっちゃったの?」「なあんだ、ガッカリ」「残ってるのライラック?いらんわ、こんなの…」



そう言って大半の人が帰ってしまった。

この時俺はライラックの苗木がスゲーかわいそうに感じた、

今思うとこの時なんでたかだか植物もどきにかわいそうなんて思ってしまったのかわからんが、とにかくそういう気持ちになってしまったことが俺の運命を変えた、



「いやさ、ライラックは食えないかもしれないけれどさ、こんなにきれいな花を咲かせるんだろ?いいじゃないかそれでも…」



はっきり言ってこの時になるまでライラックの花なんて知らなかったんだが、

苗木に花を咲かせた写真がついていて・それがしかも本当に紫色したきれいな花だったもんで、ついつい…あと、美月ちゃんの前でカッコつけたかったのもあって、

あんなセリフを言ってしまったのだ…。



母親の希望通りフルーツのなる苗木じゃないものもらってしまったが、



怜士レイジくんって優しいのね」



美月ミツキちゃんのこのひとことですっかりいい気分になっていた。



「あらやだ、フルーツの苗木以外ならそんな欲しくなかったのに…でもまぁいいか、ライラックもかわいいか…」



帰宅後母親にガッカリされたが、叱られたりしなかったんでまぁ良しとしよう。

イヤな予感したが、苗木は俺が庭に植える事になった。



「ここね…陽当たりも良いし、ここならリビングの窓からも見えるから」



母親の指示どおりの場所をひたすらシャベルで掘り返し穴を掘った。

庭の土は案外硬くて苦労した、結構ゴロゴロと石コロは埋まってるし、訳わからねー木の根っこが埋まっていて、超絶ジャマだった。

俺はひとつひとつ丁寧に作業しながらライラックを植えるために穴を掘った。



−−ああ、美月ミツキちゃんとこは金持ちだから人を雇って穴を掘らせるんだろうなぁ…−−




そんなしょーもない事を考えながら掘りさげ、程よいところで苗木植え込んだ。



「よっしゃ、これでいいだろ」



そうひとりごとつぶやいてから、たっぷりと水をやった。

これからとんでもない珍事が起きるとも知らずに…。



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