素敵な明日のために全力で生きよ。

 女の子は不可解だ。

 笑っていたと思えばすぐ逆のことをする。

 最寄り駅についてから学校までの道すがら、陽翼よはねの後ろを追いかけながら蓮理れんりは、話の続きを聞こうと呼びかける。


「待ってよ。さっきまでの話、本当は冗談だよね?」


 彼女は振り返り、「バレた?」とにやけながら言うに違いない。そんな姿を蓮理は期待していた。 

 なのにいくら話しかけても、「のんびりできない」と彼女は歩みを止めてくれない。

 仕方なく蓮理は、大股で歩きながら歩調を速めていく。

 競歩に近い歩きながら彼女について行けるだろうか。


「遅延証明書をもらったんだから、慌てなくても遅刻理由をわかってもらえるよ」

「蓮理の言うことを聞いて呑気に歩いていたら、午前の授業を受け損なってしまうではないか。無償化されているからといって、遅刻理由があれば自己の研鑽に励まなくてもいいという理由にはならない」


 追いついて、隣を歩く彼女と目があった。

 なぜか怒っているよう彼には見えた。


「それはわかるけど」

「蓮理は人生がどのくらいあるか知っているか」

「人生百年時代ってやつ? そんなには生きられないと思うし、明日のことは誰にもわからないよ」

「蓮理が長生きするかどうか、わたしだって知らない。でも、平均寿命は聞いたことがあるはず」


 あるよ、と蓮理はうなずいた。


「男子の平均は八十一歳。女子は八十七歳かな」

「平均八十四歳は世界的に見ても長寿には違いない」

「だよね。ぼくはそんなに生きられるかな」


 ははは、と蓮理は小さく笑ってみせる。


「だけど、誰しも睡眠はとる。一日八時間として、約二十七年は睡眠に費やされる」

「人生の三分の一だね」

「つぎに学校。幼稚園から大学まで勉強する時間だけを合計すると約四年。義務教育だけならおよそ二年」

「勉強する時間ってたったそれだけなの?」


 もっと勉強している気がするのに、と息を吐く。


「卒業後は仕事だ。勤務時間を九時間とすると、約十年。通勤通学の時間も計算すると、約一年と半年」

「文明は労働の産物とはよく言ったものだよね。学校で勉強するより、仕事のほうがずっと長いんだ」

「忘れていけないのが食事。一日九十分として、約五年と半年、食べる時間に費やしている」

「同じ五年と半年なら、まずいものではなく美味しいものを食べたいね」

「食べるためには作らねばならない。他にも掃除などの家事にかかる時間は約七年」

「作るのに比べて、食べるのはあっという間だから」

「テレビや動画を見るなどの娯楽時間は約八年と半年。スマホに至っては約七年と半年」

「つまり、およそ十六年。睡眠に次いで二番目の長さだね」


 そのとおり、と彼女はうなずく。

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