理論があるだけで優劣があるのではない。

「それにしても、異世界転生が実在する根拠とその話が、ぼくにはどうも結びつかないのだけれど」

「わからないのか」

「ぜんぜん」


 蓮理れんりの返答に、陽翼よはねはあからさまに嫌そうな顔をして息を吐いた。


「蓮理と話していると、利発なのか愚鈍なのかわからなくなる」

「ずば抜けて優秀とまではいかないまでも、平均より上にいると思うし、察しと思いやりは持ち合わせているつもりだよ」

「レイク・ウォビゴン効果だな。世の中は自身の過大評価であふれ返っているが、自身の情報は根拠を確かめて把握していたほうがよいと思う。でなければ、現実に直面した際、大きな落胆をしかねない」

「気をつけるよ。ときに自信は過信に陥りやすく、慢心が傲慢を育て、驕りが油断を生むと言うからね。ところで、さっきのぼくの質問なんだけれど」


 彼女は困ったような表情で微笑んでいる。

 そんな顔をさせている原因を作ったのは蓮理自身だということはわかるのに、肝心の原因が彼には思い当たらなかった。


「まあよい。異世界転生の実在の根拠、だったな」


 彼女は再び話しはじめた。


「先程も話したとおり、意志である精神ブラフマンは、アートマンの衣を纏い、身体レプリアートマンに宿って外界の穢れを祓いに来ている。だが、外界に降りるだけで魂は穢れるため、魂の浄化をしなければ帰還できないのだ。そこで、身体の寿命が尽きるたびに新たな身体に宿り、魂の穢れ具合に適した世界へ転移し、世界と自身の魂の浄化を行っていく。これがいわゆる輪廻転生サンサーラであり、異世界転生なのだ」


 自信を持って言い切った彼女の言葉に、蓮理は自分の耳を疑った。聞き間違いでなければ、輪廻転生が異世界転生だと、確かにそう聞こえた。

 長々と彼女の空想話に付き合ってきて楽しかった。けど、いくらなんでも現実と妄想を一緒にするなんて常軌を逸している。小説を読んで憧れてはいたが、異世界転生はフィクションだと蓮理も理解していた。

 なのに彼女は輪廻転生が異世界転生だと言ったのだ。

 ……冗談、だよね?

 蓮理は黙って彼女を見つめた。

 

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