健康こそ最高の富。
車内はいつも以上に混雑していた。さらに奥に詰めてもらい、身を寄せ合って二人は乗車した。目の前で扉が閉まると、電車は静かに動き出す。
「頭でも痛いのか。痛み止めならあるぞ」
「ありがとう、気持ちだけで充分嬉しいよ。ほんとうに頭痛がするわけではないから」
蓮理は頭をかきながら、彼女にもわかりやすく笑みを浮かべてみせた。
「ちなみにさっきの話、ぼく以外に話したことはある?」
「いや、ない。蓮理が初めて」
「それを聞いて安心したよ。その話、誰にもしちゃいけないからね」
「何故?」
「変な目で見られるから」
「勝手に見せておけばよいではないか」
「ぼくが気にするんだってば」
周囲から彼女が奇異な目で見られないようにしなければいけない。でなければ、自分まで変な奴だと思われてしまう。周りから目立たず、ささやかな喜びとともに日常を過ごすのが彼の願いだからだ。
「周りは周り。わたしはわたし。蓮理は蓮理だ。気にしすぎるのも疲れるぞ」
「気にするのが性分なんでね。きみはもう少し気にしたほうがいいと思うよ」
「蓮理がそう言うなら善処する」
「そう願いたいね」
さて、どうしたものか。
蓮理は先程の彼女の言葉が気になっていた。もし電車に乗るときでなかったのなら、なにを馬鹿なことを言ってるんだと口走ったかもしれない。
簡単だがらといって悪口を言ってはいけない。
相手は馬鹿ではなく、自分と意見が違うだけなのだ。
育った環境や時代、ものの見方や考え方、見てきた風景や培ってきた経験などが違うのだ。仮に同じ人生経験を歩んできたのなら、自分と似通った考えになる可能性はあっただろう。
相手を罵倒すれば、会話は途絶え、修復は不可能となる。不快な気持ちを抱かせ、不幸の連鎖は留まることを知らない。
大事なのは彼女の気持ちに共感することだ。とにかく彼女の話を否定せずに受けいれて聞いてみよう、と蓮理は自分に言い聞かせた。
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