第826話 世界ランク1位

 ☆亜美視点☆


 ブラジル戦から1日経った今日だけど、お昼には2回戦の他の試合を偵察に行く予定です。 勝った方が次の私達の対戦相手になるんだけど、キューバがまず勝ち上がって来るだろうと思われるよ。 なんだけど……。


「うぁぁぁ……」

「体が重い……」

「あかん、今日はどこも行く気せぇへん」

「紗希ーおんぶー」

「疲れてんのー……」

「はぅぅぅ」


 と、昨日のブラジル戦においてスタメンで活躍した皆はこの通り、もはやお昼ご飯を食べに出る事すら億劫になると言うほど疲れ果てている。 昨日1日では疲れをとることはできなかったらしいね。


「ふうむ」

「なははー、皆今日はホテルで休んだ方が良いかも?」

「そうね。 偵察は私達に任せておきなー」


 逆に昨日は活躍の機会のなかった私を含めた皆は元気である。 特に、麻美ちゃんと宮下さんは元気が有り余っているみたい。


「何言うてんのやぁ……ウチらは次の試合もスタメン候補なんやでぇ」

「そうよ……。 私達が偵察しなきゃ……」

「ていさつー」


 奈央ちゃんなんて朝からずっと子供モードだよ。 頭回ってないんだねぇ。

 にしても、この状態で外に出ても大丈夫なのかなぁ?



 ◆◇◆◇◆◇



 というわけで、疲れ果てている6名は無理矢理体を起こしてお昼ご飯を食べに出て来ている。 お昼ご飯はフランスに来てからずっとお世話になっているレストランで摂っています。 最近は私達の活躍を知っている店員さんもいるのか、サービスしてくれたりするようになっている。

 ただ地元フランスチーム贔屓なのは仕方のない事で、「対戦する事になればフランスチームは負けない」と、言われたりもする。 このお店のお客さんや店員さんは基本的には良い人達である。


「んぐんぐ……それで、お疲れの皆は本当に偵察について来るの?」

「当たり前やん」


 偵察するって言っても、まあ多分キューバが勝つんだけど。

 そのキューバの試合は予選の時に既に一度偵察しておりデータも取れている。 実際改めて偵察する程でもないと言えばないのだけど。


「なはは、皆何だかんだ元気なんだねー!」

「いやいや……本当怠いのよ」

「じゃあやっぱり無理しなくていいじゃん? 私達が動画も撮ってきたげるし、明日にでもゆっくり見れば良くない?」

「宮下さんにしちゃ中々ええ事言うやんか」


 黛のお姉さんからも散々な評価を受ける宮下さんであった。

 お昼を食べながら皆をなんとか説得して、今日はホテルでゆっくり疲れを癒してもらう事で話がついた。


「本当に皆頑固さんなんだから」

「頼むわよ偵察隊ー」

「ほなウチらは休むで……ふぁー」


 何だかんだ言ってやっぱり限界なようだ。 よくこれでついて来ると言ってたものである。


「じゃあ、行ってくるでお姉ちゃん」

「あいよ……」


 私達は昨日のスタメン組をホテルに残して、キューバの試合が行われる会場へと移動を開始した。


 バスに乗り込み移動中に、今日の対戦カードとチームデータのおさらい。


「キューバは言わずと知れた世界ランク1位。 優勝候補だねぇ。 昨日のブラジルみたいなパワー主体のチームだよ」

「やけど、パワーだけで世界一にはなれんやろ? やっぱり何か他にあるんちゃうか?」

「それはわかんないけど……」

「テクニックもそれなりにあると思って良いわよ」


 と、田中先輩が話に入ってきた。 私達が偵察した時はパワーでひたすら押してブラジルを下していたように見えたけど、小技なんかも混ぜてくるのだろうか?


「あと、単純に運動能力が高いかしらね。 やっぱり私達とはバネが違う感じ」


 先輩達はオリンピックでキューバと同じグループに入っていたらしく、対戦経験があるとのこと。 体格差や身体のバネかぁ。 


「でも、奈々ちゃん達はブラジルにストレート勝ちしたし、十分チャンスはあるよ」

「たしかにね。 この大会で日本の世界ランキングもかなり上がると思うし、案外世界ランキング1位も夢じゃないかも」

「なははは! 我最強!」


 最強なのは皆なんだけどねぇ。


「対戦相手のクロアチアは私達が予選で倒したとこよね?」

「ですね。 やから、クロアチアがキューバを倒して勝ち上がって来んのは無理やと思います」

「つか、よう2回戦まで上がって来よったな」

「ギリギリ勝ち上がったみたいだね」


 キューバとクロアチアの力の差は歴然だ。 果たしてどんな、試合展開になるだろうか?



 ◆◇◆◇◆◇



 とまあ、会場に着いて試合を観戦しているわけだけど……。


「一方的やないか」

「すんごいわねキューバ」


 第1セットが始まってほんの15分程で10ー2という状態である。

 クロアチアのエースモニカさんもキューバの高いブロックの前には沈黙。


「あの4番、ブラジル戦の時はおらんかったやんな?」

「うん。 ブラジル相手にエース温存で勝ったって事みたいだねぇ」


 いやいや恐れ入るよまったく。 だけど……。


「あのエースも他の選手も、やっぱり奈々ちゃんと比較するとちょっとだけ足りないかな?」

「そうねー。 あれなら藍沢さんの方がパワーあるわ。 テクニックだって兼ね備えてるしね」


 奈々ちゃんは今や、世界的に見ても指折りのプレーヤーだ。


「麻美、なんかキューバの癖とか弱点見つかったか?」


 渚ちゃんがそう問いかけると、麻美ちゃんは「ほへ?」と首を傾げる。 どうしたんだろう?


「パワー、スピード、高さ、どれを取ってもハイレベルだからねー」

「弱点無いってこと?」

「んやー? あるみたいだよー」

「あるんかいな?! なんやキューバの弱点?」

「ブロックー」


 と、麻美ちゃんは簡単にそう言った。 ブロックって言っても、ここまでモニカさんは再三止められている。

 とても弱点とは……。


「ブロックが下手っぴだよー」

「そう言うたかて、クロアチアはまだ2点しか取れてへんのやで? モニカもブロックに捕まっとるやんけ」

「クロアチアのエースは勘が鈍いよー。 取れた2点がどんな攻撃だったか考えれば簡単だよー」


 クロアチアが取った2点……たしかこれはどっちも一人時間差だったような。


「キューバのブロックは揺さぶりに弱いんだよー。 時間差やフェイント混ぜたら簡単に騙せるよー」

「そ、そうなの?」

「うむー。 パワーで押し込める相手には強いけど、そうじゃない相手には苦戦するのも弱点かなー?」


 麻美ちゃんから言わせればキューバは弱点だらけらしい。

 ただ、その弱点を補えるだけの身体能力の高さこそがキューバの強さだと付け加えた。


「勝てるかな?」

「ほへ?」


 と、また首を傾げる麻美ちゃん。 こんな事聞いても麻美ちゃんにだってわかるわけないよね。


「なはは。 ブラジルに勝てた皆なら勝てると思うよー! そこまで大差無いように見えるー」


 麻美ちゃんは簡単にそう言った。 ま、また大胆な発言だねぇ。


「はははは! 麻美っち言うねー!]

「それはそうだよー。 何て言っても世界一を目指してるんだよー? キューバでもどこにでも勝てなきゃー」


 麻美ちゃんの言う通りだ。 相手が世界ランク1位でもなんでも、私達が目指す世界一になるためには負けられない。 それにブラジルにだって勝てた皆だ。 キューバにだって勝てるって信じなきゃね。


「ううー、キューバ戦私も出たいなぁ」


 宮下さんは試合したくて疼いちゃってるよ。 でもそうだね。 私も試合出たいよぉ。

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