第819話 努力の成果

 ☆奈々美視点☆


 今日はブラジル戦前日。 夜にはミーティングで明日のスタメンが発表される。

 今は近くの空き体育館で調整中よ。


「藍沢さんほれ!」


 眞鍋先輩からのトスを受けてスパイク練習。 体も良く動くし威力も十分。 今日も絶好調ね。


「ええねぇ藍沢さん。 キレてはるなぁ」

「はい。 良い調子です」


 これなら明日スタメンでも大丈夫そうだわ。 監督がどう考えてるかは知らないけど。

 他のOHアウトサイドヒッター陣も調子は良さそう。 特に目立つのは亜美と黛姉。

 ただ黛姉を使うならここ一番での切り札かしらね? 私達にも見せていない新連携があるらしいし。 他には田中先輩も調子が良さそうだわ。

 逆にちょっと調子が悪そうなのは弥生と渚ね。 腕が振れていないわ。


「何か調子出えへんなぁ」

「私もや」


 まあ長い大会だし調子の波があるのは仕方が無いわよね。 私もそういう日はある。


「宮下さんほれ!」

「はいはいー!」


 パァンッ!


「宮下さんはいつも調子ええね?」

「ほへー? あんまり気にしたことないですよー?」


 ここに調子の波が無い人もいるみたいだけど。 さて、他のポジションの皆はどんな調子かしらね?

 まずはMBミドルブロッカー


「徳井先輩が調子良さそうだねぇ。 後は遥ちゃんも」

「そうね」


 麻美は今日はちょっと調子悪そうだわ。 どうかしたのかしら? そんな麻美に監督が近付いていき話しかけている。 調子が悪そうなのを見て気になったのかしら?

 何を話しているのかはわからないけど、麻美は首を横に振っている。


「どしたんだろうねぇ?」

「さぁ……」


 気になるしちょっと話聞きに行きましょうかね? 亜美も一緒について来て麻美と監督の元へ。


「どうかしたの麻美?」

「あ、お姉ちゃんー」

「おお、藍沢姉か。 いや、妹君の動きが重そうだったから体調でも悪いのか聞いていたんだがな」

「体調は良いよー。 なははー」

「ふーむ。 大丈夫ですよ。 麻美の顔見れば元気なのはわかります。 これでも姉なので」

「そうかー。 ならいいんだが」

「でも、たしかに調子悪そうに見えたわよ?」

「それは、重り重くしたからかなー?」

「な……こ、この期に及んでまだ重くしてるの?」

「うむー」

「きゃははー。 麻美、あんた1回重り外して跳んでみたらー?」


 後ろで話を聞いていた紗希も話に入ってきた。 それを聞いて、麻美は一度重りを外して跳んでみる事にしたらしい。 この特訓を始めてから、今初めて外したらしい。


「おおー! なんか軽いー!」

「そりゃそうだよ」

「きゃははは。 筋トレ効果と重り効果どれぐらい出てるかしらねー」

「おーい、誰かマグネシウム粉持ってきてくれー」


 ということで、急遽麻美の最高到達点を計測することになったわ。

 皆が注目する中、麻美は指先にマグネシウム粉を付けて軽くピョンピョンと跳ねて感覚を確認している。


「よーし。 いきまーす!」


 そう言うと大きく手を振って反動をつけ、垂直ジャンプを見せた。


「おお!?」


 麻美が付けたマグネシウム粉の跡は、たしかに今までと比べ物にならない高さに達していた。


「お、おい、誰か測定してくれぃ」

「は、はい」


 メジャーを持ってきて測定してみると……。


「さ、311cmです」

「おおおおー!」

「う、嘘でしょ?! あんた、特訓前は300も跳べなかったじゃないの?!」

「ぬわっはっはっはっはー!」


 こ、この子、この短期間でどんだけ高くなってんのよ? 私より10cm高いじゃないの。


「麻美あんたやっぱバケモンやな」

「なははー。 努力の成果出たー」

「いやいや、努力の成果出すぎやで……ほんま末恐ろしいやっちゃ」

「漫画の主人公じゃないんですのよ? ありえないですわよ……」

「そんなことないわよー? 何だかんだ人間、無駄な動きとかしてるもんよ?」


 と、紗希だけは麻美の急成長ぶりに驚いていないようね。 そういえばこの子も同じようなことして最高到達点伸ばしてたっけ。


「効率的な筋肉の強化。 地面に無駄なく力を伝える為の跳び方の特訓。 砂浜でのトレーニング。 一切妥協せずにやり抜いた結果よん。 他の皆だってこれぐらい伸ばせるポテンシャルはあると思うわ。 あ、亜美ちゃんは別ね」

「ええーっ?!」


 紗希曰く、麻美は元々無駄が多かったらしい。 まああんな意味の分からないブロックをするような子だし、ジャンプ動作に無駄があってもおかしくはないけど。

 普通にやれば300は軽く跳べるだけの能力があったと紗希は推察している。


「ふむ。311ーか。 蒼井はいくつだー?」

「319っすねー」

「ほう……世界と戦える高さが2人もいるのかー」

「347です」

「ん? あぁ、清水は規格外だ」


 何でわざわざ申告したのしかしらね? 亜美が世界一だってのは皆知ってるっての。


「ちなみに神崎はいくら出るんだ?」

「322です」

「化け物しかおらんのか月ノ木学園出身は」


 322って言えば、日本で亜美の次に高いって事になるわね。 その次に遥かしら? たしかに化け物じみたチームだわ。


「ますます世界が見えてきたな」 


 監督は実に満足そうに頷いていた。 一応麻美はまだ重りを着けておくらしい。 切り札は最後まで取っておくものだという事らしい。 黛姉妹といい隠すのが好きね。 って、私も世界選手権の時は私も捻りを加えたスパイク隠してたっけ?



 ◆◇◆◇◆◇



 夜。 夕食も食べ終えてミーティングの為に集まった私達。 明日の試合は世界3位のブラジルが相手となる。 今までのようにはいかない相手だわ。


「よーし、じゃあ始めるぞー。 ブラジルがどんなチームかは偵察や動画で把握できていると思う。 とにかく高さとパワーで押してくる力戦派のチームだ。 こちらも力に押し負けないメンバーで挑みたいと思う」


 スタメンが発表される。


「藍沢姉、神崎、月島姉、蒼井、西條、雪村の6名に交替要員で徳井」


 よし、スタメンね。 他の皆もブラジルのパワーに負けないようにパワーのあるメンバーが選出されている。 希望は私のスパイクにも食らいつけるし、ブラジルのパワーのあるスパイクでも拾ってくれるでしょう。


「他のメンバーも場合によっては出番があると思って構えておけー。 ここからは総力戦だ!」

「はい!」

「試合の組み立ては西條に任せる」

「わかりました」


 世界3位だろうが1位だろうがどんと来いってのよ。 私達が一番強いってとこ見せてやるわよ。



 ◆◇◆◇◆◇



「奈々ちゃんスタメン頑張ってねぇ」


 部屋に戻ってきた私達は、ソファーに座ってのんびりしている。 スタメンを外れた亜美はのほほんとしている。


「亜美はスタメン外れてよかったの?」

「まぁ監督の判断だからねぇ」

「亜美ちゃんは力ないもんね」

「そだねぇ。 ブラジルさんのスパイク受けたら腕もげちゃうかも」

「それはないでしょ……。 でも、あんたはこの先の試合で絶対出番あるわよ」

「うん。 その時の為に今は温存だよ」


 とにかく明日は私達が頑張りましょう。 この先の亜美の出番を無くさないためにもね。


 

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