第818話 フランス観光withアメリカ

 ☆亜美視点☆


 私達は現在、バスに乗りコンコルド広場からルーヴル美術館へと向かっている。

 ルーヴル美術館の歴史は長く、私も全てを把握し切れているわけではない。

 たくさんの彫像や絵画が展示されている世界的美術館である。 一度は来てみたいと思ってたんだよね。 夢叶ったねぇ。



 ◆◇◆◇◆◇



 バスはルーヴル美術館前に到着。 順番にバスを降りる。


「おお、これがかの有名なルーヴル美術館!」

「我が西條グループの力を持ってしても再現不可能な規模と展示物の数々。 拝見させてもらいますわよ」


 と、私達がいざルーヴル美術館へ入館しようと歩き出した時、私達日本代表が乗ってきたバスの隣に駐車するバスがあった。


「あれ? 見覚えあるわねあのバス?」

「バスなんてどれも似たようなもんでしょ?」


 紗希ちゃんと同じく、私も見覚えのあるバスである。 ただ奈々ちゃんが言う通り、バスなんて同じ会社のバスならどれも同じようなデザインだし……。


「おー、あれはアメリカ代表じゃないかー?」


 と、そう言い出したのは小林監督であった。 もう一度バスの方を振り向いて見ると、バスからやけに長身の女性が沢山降りてきた。 中には見知った顔もあり……。


「キャミィやないのあれ。 ほんまにアメリカ代表さんや」

「なんや、アメリカ代表もここに観光に来たんかいな」


 弥生ちゃんから聞いた話では、アメリカ代表も今日は観光に出かけているという話だった。

 ここルーヴル美術館は、フランスでも有名な観光スポットであり、鉢合わせる可能性もゼロでは無い。 にしてもかなり低確率であり、これはかなりレアケースである。


「オー! ヤヨイ!」

「おー、キャミィ」


 手を振りながら元気にこちらへ駆けてくるキャミィさん。 近くで見るとやっぱり大きい。

 監督さんは監督さん同士で挨拶を交わしたりしているし、先輩達も知った顔がいるのか、数名のアメリカ代表選手とにこやかに談笑を始めた。

 あとで聞いた話によると、日本のプロチームでプレーしているアメリカ人選手らしい。 なるほどなるほど。

 ワールドカップでは優勝争いをしている真っ最中だというのに、お互いフレンドリーに接するという奇妙な光景。


「お前達ー。 このルーヴル美術館はアメリカさんと一緒に回る事になったぞー。 あちらさんからの提案だー」

「それはまた……」

「大所帯ですね」


 か、軽く50人以上にもなる団体ツアー客みたいになってしまったよ。 でも素敵な展開!


「コートに立ったら敵同士やけど、ここは観光地や。 仲良うしよや」

「ナカヨウナカヨウ!」


 キャミィさんやオリヴィアさんも私達ルーキー組の集団に合流して、いざいざルーヴル美術館へ。



 ◆◇◆◇◆◇



 館内には見た事も無いような彫像が多数展示されていて、私の知識欲をどんどん満たしていく。


「これとかも、有名な像なのかしらね?」

「多分ねぇ」

「はぅ、亜美ちゃんにもわからないものがあるなんて……」

「いやいや、この世界私の知らない事の方が圧倒的に多いよ……」


 皆は私を何だと思っているんだろうね? 全知全能じゃないんだから。


 アメリカ代表の皆さんもこういった展示物には興味があるのか、真剣な顔をして見学しているね。


「ヤヨイ、コレ、マナベキャプテンにソックリヤ!」

「ほんまやな! この眉間に皺寄せて目ぇ吊り上げとるとこなんか正にや!」

「弥生、キャミィ? 後でよう覚えときなはれや?」


 眉間に皺を寄せて目を吊り上げ、拳を握りしめてふるふると震える眞鍋先輩。 なるほど、たしかにソックリである。

 口に出したら私も何されるかわからないから心の中で納得しておくよ。


「キャミィも元気な子よねー」

「うちの麻美や宮下さんと良い勝負だわ」

「なははは! 美智香姉! これお姉ちゃんにソックリだー! なはは!」

「本当ね! この眉間に皺寄せて目を吊り上げてるところなんて正に!」


 その2人は、キャミィさんと弥生ちゃんがさっき見せたようなやり取りをこちらでもやっていた。

 案の定奈々ちゃんの怒りを買っていたよ。 あと、奈々ちゃんの目が吊り上がっているのは元からだよ。


「なはははは!」

「わはははは!」

「ハハハハハ!」


 ここに国境を越えた3人の賑やかトリオが爆誕したのであった。 隣では奈々ちゃん、新田さん、オリヴィアさんの3人が額に手を当てて溜息をついている。

 ここに国境を越えた3人の苦労人トリオが爆誕したのであっと。


「オリヴィアも苦労してるみたいね」

「バカな人の世話は疲れますよね」


 奈々ちゃんと新田さんの言葉を私が通訳して伝えると、オリヴィアさんは深く頷き「まったくその通りだ」と答えた。

 苦労人トリオには友情が芽生えたらしく、何故か固い握手を交わしていたよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 さて、ルーヴル美術館の観光はまだ続く。 ちらほらと見知った彫像や絵画も姿を現したよ。


「これは知ってるわね。 ミロのヴィーナスでしょ?」

「そだねぇ」

「これがミロのヴィーナスなのねー。 ふふん、私の方がグラマーね」

「紗希ちゃんに敵う人はそうそういないよぅ」

「大体彫像と張り合ってどうしますの?」

「きゃはは。 奈央を彫像にしたらスットンね。 まな板で作れば良いんじゃないかしら」

「ムキー! まな板よりはありますわよ! ほら!」


 胸を反らして反論する奈央ちゃん。 何だか虚しいよ奈央ちゃん。

 そんな2人を見ながらオリヴィアさんが話しかけてきた。

 日本のセッターは小学生なのかと。


「大学生ですわよっ」


 オリヴィアさんはジョークジョークと笑いながら謝っていた。 なるほど、オリヴィアさんもそういうジョークが言えるんだね。

 更にオリヴィアさんは「皆は仲が良いですね」と言う。


「そうだね。 私達は付き合い長いから」と、返しておく。


 オリヴィアさんは「なるほど」と小さく頷くのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 長い時間をかけてルーヴル美術館を見学してきた私達。 見学を終える頃には随分と時間が経っており、アメリカ代表ともかなり打ち解けていた。


「楽しかったね」

「そうね。 他国の人との交流も良いものだわ」

「そやろ? ウチはキャミィの教育係やったしようわかるわ」

「ウチ、ヤヨイがセンセーでヨカッタデ!」

「ウチは弥生に任せたんは失敗や思うてるわ……」


 と、今更ながらに後悔している眞鍋先輩であった。


 さて、アメリカ代表さんも私達日本代表も、この後はホテルに戻り試合に備える事となった。

 これで一旦お別れである。


「日本とアメリカが当たるには、お互い勝ち上がって決勝まで行かないとね」

「キャミィ、オリヴィア、負けんなや?」

「オー! ヤヨイタチもヤデ!」

「決勝で会いましょ」


 奈々ちゃんの言葉を通訳してオリヴィアさんに伝えると、オリヴィアさんはニコッと笑い「もちろん」と返事した。

 アメリカ代表ならきっと決勝まで上がってくるだろう。

 私達はこれから格上を相手に勝ち上がっていかなければいけない。 オリヴィアさんとの約束を守る為に、負けられないよ!


 最後にアメリカ代表の皆さんと集合写真を撮影し、笑顔で手を振りながら別れるであった。

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