第806話 渡仏
☆奈々美視点☆
東京へ来た日の夜。 ホテルのシャワーでは満足出来ない私達は、宮下さんと新田さんに案内してもらい、近くの銭湯へとやって来た。
しかし、最近どうも贅沢になってきたわね。 奈央のおかげで贅沢するようになった所為かしら?
「じーっ……」
湯船に浸かると、亜美が私に何が言いたそうな顔でこちらを見つめてきた。
「な、何?」
「いつものアレが出ないと思って」
「いつものアレ?」
「うん。 年寄り臭いセリフだよ」
「……そんな毎度言わないわよ」
「えーっ?!」
いや、そんな驚くことかしら?
「騒がしいですわよー。 一応他のお客さんもいるんだから」
「あぅ」
「バカねぇ……」
「せやせや、黙ってゆっくり浸かるんが銭湯の醍醐味やで」
「弥生ちゃん年寄り臭いよ」
「……」
亜美はどうしてもそれが言いたかったのか、ガッツポーズして「よしっ」とか言っていた。
汗も流してホテルへ戻って来た私達。 明日は早いという事で各自部屋に戻り休む事に。 明日はいよいよフランスね。
◆◇◆◇◆◇
翌日。 空港にやって来た私達をマスコミ達が出迎える。
何だかやりにくいわね。 ちなみに、応援団及び応援団長さんは既に昨日の飛行機でフランスへ向かったらしい。
「すんごいわね」
「そやな。 優勝もあるかもしれんって思われとるさかいな」
「きゃはは。 本当ハードル上げてくれるわねー」
負けて帰ってきたらどんな事言われるやら……。
飛行機に搭乗し、離陸の時を待つ。 希望と渚は相変わらずビクビクしているわ。
「はぅ……はぅ……」
「あかん……目が回る……」
「の、希望ちゃん……大丈夫だよ」
「渚、情けないやっちゃなぁ」
とまあ、お姉さん2人が上手くやってくれるでしょ。
ちなみに我が妹はというと……。
「わははは! ゆけーアサミンZスーパー号ー!」
飛行機に訳の分からない名前を付けて盛り上がっている。 何よそのアサミンなんちゃらって」
離陸時刻になり、いよいよ飛行機が動き出した。 希望、渚の震えと麻美のテンションは最高潮。
「希望ちゃん、もう少しで安定飛行に入るからね」
「はぅ」
「渚、ビビりすぎやよ」
「うぅ」
ダメだわこりゃ。 しかし、そんなビビり2人組も、安定するとケロッといつも通りに戻る。 わかりやすい子達ね本当。
「フランスまでどれくらいかかるのぅ?」
希望の質問に対して亜美が答える。
「12時間以上だよ」
「え、それマジ?」
「マジマジ。 着くのは12時間後だよ。 あ、でも時差が約8時間ぐらいあるから、向こう着いたらまだお昼だよ。 やったね!」
「いやいや……」
12時間はさすがに辛いわね。
「すー……すー……」
「12時間て聞いた途端に寝息立てよったで?!」
あー、希望のこの瞬間睡眠芸は慣れてないとびっくりするわよね。 弥生は「ほ、ほんまに寝とる……」と、驚愕していた。
「貴女達も寝た方が良いですわよ。 12時間もあるんだから。 向こうに着いたら真昼間だし寝られないですわよー」
奈央の言う通りかもしれないわね。 てか8時間の時差か。 時差ボケとかキツそうだわ。
「私は寝るよ。 おやすみだよー」
亜美も希望に倣って仮眠を摂るみたい。 とはいえ12時間は長いわね。 とにかく私も仮眠した方が良いか。
◆◇◆◇◆◇
途中目が覚めたりまた寝たりとしながら、12時間の空の旅もそろそろ終わりが近づいて来た。
いや、キツいわやっぱり。
「当機はこれより着陸準備に入ります」
「すー……ピクッ?! はぅ……着陸」
「だはははは! 雪村さんおもろいやっちゃな! 着陸に反応して起きた思うたらいきなり震え出してからに」
「だ、だってぇ」
「大丈夫だよ。 私がいるからねぇ」
「亜美ちゃんだけが頼りだよぅ」
何かもうこの世の終わりみたいな雰囲気出してるけど、飛行機が着陸するだけよ。
怯える希望と渚を宥めながら、飛行機はフランス、パリへと到着した。
「おー、ここがフランス!」
「なははは! ボンジュールー!」
麻美は何処に来ても変わらないわね。
「おーい、皆いるなー?」
小林監督が確認の為に立ち止まり、欠員が無いかをチェックする。 まあ、子供じゃないんだしそんなわけあるはずが……。
「宮下美智香がおらへんでー」
「何ーっ?!」
いたわ……。 宮下さんはやっぱり問題児ね。
結局はトイレに勝手に行って迷子になっていたわよ。
パリに着いた私達は、西條グループが運営しているバス会社のバスに乗り、西條グループが手掛けるホテルへと向かう。 まさかフランスにまで手が伸びているとは思わなかった。
「いやー、西條様様だなー」
「ほほほ、このぐらいは余裕ですわよ」
余裕と来たか。 もう奈央が宇宙ステーションを打ち上げてても驚かないわよ。
「これがパリの街並みかぁ。 欧州村で見たのとおんなじだねぇ」
「欧州村の再現度がやばすぎるのよ……」
パリの街並みをバスで走る事15分で、これまた立派なホテルに到着した。
「このホテルが、ワールドカップ中の我々の拠点だ」
「凄い……これ本当に西條さんの家が経営してるの?」
と、プロ選手で元オリンピック代表の田中さんが確認している。 奈央は「はい」とだけ答えると、先頭を切ってホテルに入っていき、フロントへと向かった。
どうやら何か話をしているみたい。 何やらカードみたいな物を見せてホテルの支配人っぽい人まで呼び出しちゃったわよ。 少しすると話が着いたらしく、こちらへ戻って来た。
「人数分のスイートを確保させました。 ただ3人部屋になりますが」
「えーっ?!」
またまたとんでもない事をしたもんね奈央の奴。 皆は口をあんぐり開けているわ。
とにかく部屋割りをサクッと決めて荷物を置かせてもらう。
私は安定の亜美、希望と同室よ。
「広い部屋だねぇ」
「西條グループの総資産って一体どうなってんのかしら?」
「計り知れないよぅ」
世界を裏から支配しててもおかしくないわねこりゃ。
「さて、朝一で飛行機に乗って12時間飛んだわけだけど、フランスはなんとまだお昼だよ」
「そうね……あれだけ寝たから眠くはないけど」
見知らぬ土地だしどっかに出掛けようという気も中々起きないわね。
「じゃあまずは周辺の開拓だよ!」
「あんたには関係なかったか……」
「ん?」
亜美は初めての土地に来たことで好奇心が勝っているようね。 まあ、この子と一緒なら大抵の事は何とかなるかしら? しょうがないわね。
「お供しますー」
「私もぅ」
というわけで、早速ホテル周辺の開拓に乗り出すのであった。
どうせならという事で皆を呼び出して集団で散策を開始。 土地勘なんて無いけど、亜美の脳内マッピング能力にかかればあっという間に周辺のマップが出来るわよ。
「はいノート」
「ありがと」
亜美にノートを手渡して早速開拓開始。 歩きながらノートにマッピングしていく亜美は、器用とかそういうのを超越しており、初めて見る人は目を丸くしてついてくるのだった。
亜美の人外っぷりは止まるところを知らないわね。
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