第792話 目指せ世界一のブロッカー

 ☆麻美視点☆


 今日は週末で学校は休みだ。 皆での合同練習は15時からなのでそれまでは時間がある。

 名のおで今日の予定はこうだー!


 午前中……受験勉強

 お昼から15時……市内にある室内プールにて砂浜トレーニング

 15時から……皆と練習


 という感じである。


 まずは朝食をかっ込んで受験勉強を開始ー。


「うおおおー」


 私はこれでも学年では常に5本指に入るレベルには優等生である。 七星大学過去問を開いてテキパキと解いていく。 といっても私レベルになればこれぐらいは余裕だ。

 でも余裕だからと言っても手抜きをする気も無いけどねー。  確実に受かーる。


「うおおおー」


 

 ◆◇◆◇◆◇



 受験勉強を早めに切り上げて、お昼ご飯を素早くかっ込んだ後は、すぐさま室内プールへ向かう。

 途中で渚と合流して、2人でトレーニングだ。


「プールってのは体を鍛えるにはええ場所なんやって蒼井先輩が言うたはったな」

「言ってたねー」


 水の抵抗のかかった状態でのトレーニングは普通にやるより遥かに負荷がかかるらしい。

 効果もアップというわけだ。 渚はそれが目的でついてくるみたい。


 プールへ到着した私達は早速別々に分かれてトレーニング開始ー。

 私は砂浜が再現された波の出るプールへ行き、砂浜でひたすらジャンプしたりするトレーニングだ。

 力の伝わりにくい柔らかい砂の上で、しっかり地面に力を伝えて跳ぶ練習だよー。


「んしょ!」

「ねーねー、あのお姉さん泳がないでずっと跳んでるー」

「こら……近付かないの」


 何か変な人扱いされてるー?! って、プールで泳がずにこんな事してればそれも仕方ないかー。 でもそんな事を気にしているわけにもいかない。 残された時間でどれぐらい高く跳べるようになれるか。


「んしょ!」


 にしても中々難しいものだ。 力を入れて跳ぶと、柔らかい砂浜の砂はその力を吸収してしまう。 力一杯蹴っているのにその感覚がまるで無い。 よくわからないので、インターネットを参考に、色々なジャンプのトレーニングを試してみる事に。


「色々あるなー」


 動画を参考にして早速やってみる。 まずはこの膝立ちの状態から素早く立ち上がってすぐにジャンプし、着地したらまたすぐに膝立ちに戻る、膝立ちジャンプトレーニング法をやってみよー。


「よいしょ……」

「ふぬー!」


 これを5回3セット繰り返す。 終わる頃にはふくらはぎの辺りが攣るような感覚に陥いる。


「こ、これは効いてるー」


 少しマッサージして休憩を挟み、他のトレーニング法も試す事にした。



 ◆◇◆◇◆◇



「あんさんアホか? やり過ぎや」

「ぬおー……」


 時間一杯、みっちりやり終わる頃には、歩くのも辛いぐらいに足がガクガクになっていた。 渚に肩を借りて何とか歩けるぐらいだ。 これは明日筋肉痛だー。


「頑張るんはええけど、自分の身体と相談してやりや? ケガしたら元も子もあらへんよ?」

「わかったー……」


 次は少しメニューを減らそー。


「で、今日は練習出るん?」

「一応出るよー」


 足はガクガクだけど、顔を出すだけでも出しておこうと思う。 見て勉強だって立派な練習だしねー。


「ほなこのまま『皆の家』に向かうで」

「おー」


 歩いている内に足の方は少しだけマシになってきた。 何とか自分で歩けるぐらいには回復したので、渚から離れて歩いている。


「そやけど、どんなトレーニングしたらそうなるんや」

「砂浜ジャンプトレーニング法をネットで調べて片っ端から試したらこーなったー」

「アホや」

「アホ言うーなー」


 渚の背中を叩いてやろうとしたら、渚は走って逃げてしまった。 この足では渚を追って走るのは無理なので断念。



 ◆◇◆◇◆◇



 14時半頃に「皆の家」に到着。 駅近だから助かるー。


「あら麻美。 足どうしたの?」

「なはは、頑張り過ぎて疲れちゃったー」

「きゃはは! 時間無いからって無茶なトレーニングしちゃダメよん? ほれ、そこにうつ伏せになって寝転がりなさい」


 何だかよくわからないけど、神崎先輩の言う通りにしてみる。 すると神崎先輩が私の横にやって来て腕まくりをした。


「紗希ちゃんがマッサージしたげよう。 ちょっとは楽になるわよ」


 そう言って、慣れた手つきでふくらはぎのマッサージを始めた。


「うおー、気持ちいいー」

「だしょー」

「紗希、人の身体に触るのだけは上手いものね」

「なるほどぅ」


 たしかにそれはある。 主に胸を触るのが。


「にしてもかなり張ってるわね。 無茶しすぎね」

「なはは……」

「あんさん、昨日の練習でウチと勝負した時でも十分にトレーニングの成果出とったやん? そんな無理せんでもええんちゃう?」

「まだまだですよー。 きっと世界には凄い選手がいるから、負けない為にやれることは全部やりたいんです」

「偉い! 偉いぞ麻美っち!」

「うわっはっはー! 私は偉いー!」

「調子に乗んないの」


 ちょっと調子に乗っただけでお姉ちゃんに怒られるのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 今日の練習は仕方ないので見学だー。 しかーし、ただ見てるだけではない。 亜美姉や神崎先輩のジャンプする姿を見て何か発見が無いか常に意識している。


「亜美姉はなんかよくわかんないー。 どしてあれであんなに跳べるんだろー?」


 たしかにフォームは凄く綺麗だけど、特別力を入れているようには見えない。


「麻美、何かわかるかー?」

「あ、蒼井先輩ー。 うーん、亜美姉はどうしてあんな跳べるのかなー? 謎ー」

「謎だなー。 でも、亜美ちゃんはあれで必要な筋肉を上手く使えてるからな。 無駄が全然無いから動きも綺麗に見える。 それに天性のバネも加わってあの高さが出るんだろうなー。 正に天に与えられた才能だよあれは」


 天才かー。 何から何までとんでもない人だよー。


「紗希の方はどうだ?」

「神崎先輩のは見ててわかりやすいー。 踏切りも力強くて、ジャンプする時の筋肉の収縮なんかで、どんな力の入れ方してるかとかわかるー」

「そこまでわかるか……あんたも大概だな」


 私が真似出来そうなのはやっぱり神崎先輩スタイルだ。 あれを目指して特訓あるのみー。


「亜美ちゃんのあれは誰にも真似出来ないさ。 だからこそ今世界の頂点にいるんだ」

「なるほどー。 やっぱり亜美姉は凄いー」

「だけどな麻美」

「ほへ?」

「麻美にも誰にも真似できない天性の才能があるんだ。 麻美のその野生の嗅覚は私や亜美ちゃんには無い麻美の才能さ」

「おおー?」


 野生の嗅覚。 蒼井先輩が私のプレーを始めてみた時もそんな事を言って「こいつは天性のMBミドルブロッカーだ!」とか言ってたっけ。


「だから麻美だってMBで世界の頂点を獲れる可能性があるんだぞ」

「私が世界の頂点……」

「おう! 見せてやろうぜ! 日本のMBの凄さを世界の奴らに!」

「おおー! うわっはっはっは! 私は世界一だー!」

「だから調子に乗るなって言ってんでしょうが……」


 ちょっと調子に乗っただけでお姉ちゃんに怒られてしまったー。


「でもま、あんたには皆が期待してんのも事実よ」

「お姉ちゃんも?」

「えぇ、もちろん」

「うわっはっはっはー! 皆、ネット際は私に任せろー! あはははー!」


 調子に乗るとまた怒られてしまうのであった。 

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