第791話 奈央の行動力

 ☆亜美視点☆


 今日からは弥生ちゃんと宮下さんが自主合宿に合流する事になりました。

 奈央ちゃんが代表監督にわざわざ連絡して呼び寄せたのだ。

 本当に突拍子もない事をするね。


 私は2人を連れて、練習に使っている体育館へとやってきた。 皆は既に練習を始めているみたいだよ。


「お、やっとるなぁ!」

「やってるね!」

「お、来たわね東京組」

「来たで。 ほんま急に言われてびっくらこいたで」

「ごめんなさいね。 先に連絡すべきでしたわね。 何か唐突に思いついちゃってついつい」

「あははは。 気にしない気にしない。 やっぱ代表同士で練習した方がチームワーク良くなるしさ」


 そうそう。 狙いはそれである。


「新田さんはやっぱり来れないのぅ?」

「まだ高校生だかんね。 さすがに無理」


 そればかりは仕方ない。 麻美ちゃんや渚ちゃんは家から近いから、夕方練習の時は一緒に出来るけどね。

 今日は学校が終わったら合流するって言ってたよ。


「よっしゃ。 ほなちょっとアップするわ」

「アップアップ!」


 2人は早速やる気になっているみたいだ。 来てすぐに準備体操を始めたよ。

 私もアップして練習に参加だよ。



 ◆◇◆◇◆◇



 少し時間が経つと今度は麻美ちゃんと渚ちゃんが体育館へやって来た。 また賑やかになるよ。


「おおー? おおー! 美智香姉!」

「おー! 麻美っち!」


 ほらね。 この2人は特に賑やかだ。 何故か気の合う麻美ちゃんと宮下さん。 この2人が揃うとまぁ凄く賑やかになる。


「どうしてー? どうしているのー?」

「ふふふ! なんと! 今日からワールドカップ本番までここで一緒に練習することになったのだ!」

「なんとー!?」


 どんどん大袈裟なやり取りになっていく。 何やってるんだろうか? 弥生ちゃんと渚ちゃんも何やら話し込んでいる。 しばらく一緒だし渚ちゃんも嬉しそうです。


「渚。 ウチがビシバシ鍛えたるさかい覚悟しぃや」

「頼むわ」


 弥生ちゃんは渚ちゃんに色々と叩き込むつもりの様だね。 プレースタイルも似てるしいいかもしれない。 私は私で今日はスパイクの練習に回る。 


「よっしゃ。 ウチもバンバン打つで。 藍沢妹ー、その重り付けてどれくらいやれるようになっとるか見たるわ」

「お願いします!」


 お、弥生ちゃん対麻美ちゃんだよ。 麻美ちゃんのブロックセンスは独特で、弥生ちゃんも苦手としているようだ。


「ほないくでぇ! 西條さんトス頼む!」

「はいはい。 いきますわよ!」

 

 奈央ちゃんが弥生ちゃんに向けてトスを上げると、弥生ちゃんは勢いよく助走をつけて跳ぶ。

 それを見た麻美ちゃんもいつもの奇声を上げてブロックに跳ぶ。

 今この瞬間にも、2人の間では色んな駆け引きが行われているに違いない。


「おらぁ!」

「ちょいさー!」


 パァンッ!


 弥生ちゃんの放ったスパイクは麻美ちゃんにワンタッチを取られる。 やっぱり読みが凄いねぇ。

 1枚ブロックでもワンタッチ取っちゃうんだもんね。 今は後ろにフォローがいないからコート内に落ちたけど、他の選手がいれば拾えていたであろう。 この勝負は麻美ちゃんの勝ちである。


「この短期間で重り込みでそんだけ跳べるようになったんか。 やるやんあんさん」

「ありがとうございます!」


 いやいや、一球勝負でも見ごたえのある対決だったよ。 弥生ちゃんも麻美ちゃんの実力を認めているみたいだし、本番が楽しみだ。


「藍沢さんの妹、あれもとんでもないバケモンやで」

「そう? 凄いとは思うけど」


 こっちへ戻ってくると、弥生ちゃんは麻美ちゃんの事をそう評した。 あの弥生ちゃんにそこまで言わせるなんて凄いねぇ。


「なんちゅうか、嗅覚と駆け引きの上手さが尋常やない。 ウチが視線でフェイント入れてもその裏まで読んで来よる」


 さっきは空中でそう言う駆け引きがされていたらしい。 ハイレベルだねぇやっぱり。


「なはは」

「麻美ー、指高測ってみなさいよ」

「おおー」


 紗希ちゃんがメジャーとマグネシウムを持ってきて壁際に置く。 麻美ちゃんもとてとてとそちらへ向かう。


「ちょっと興味あるねぇ。 私も見に行こ」

「せやな」


 というわけで皆で麻美ちゃんの垂直飛びを観察することに。

 麻美ちゃんは相変わらず足に重りを巻いている状態だけど、最近はそれでも以前と同レベルぐらいの高さまで飛んでいるように見える。


「ふぅ……。 ちょいさー!!」


 気の抜けるような掛け声とともに膝を曲げて、足裏全体で地面を蹴り綺麗な姿勢で跳び上がる。

 力強い跳躍だ。 海の砂浜で特訓していた成果なのか、踏切がとても上手くなっている。

 最高点で壁に指をタッチさせてマグネシウム粉を壁に付着させて降りてくる。


「おお。 結構いいんちゃう?」

「へぇ」

「測るわよーん」


 メジャーを伸ばしてその高さを測定する紗希ちゃん。 その高さは……。


「299cm」

「おおー」

「やったー! 重り無しの時より高くなってるー!」


 と、麻美ちゃんは嬉しそうに飛び跳ねる。 ということは、重りを外せば300オーバーは確実だね。

 まだ約1ヶ月あるしまだまだ伸びる可能性があるよ。


「麻美、さすがやな。 私も負けてられへん。 お姉ちゃん、鍛えてや」

「お、任しとき」


 うんうん。 麻美ちゃんの成長を見て渚ちゃんもやる気になったみたいだよ。 良い起爆剤になったようだ。 そしてそれは渚ちゃんだけでなく、私達の起爆剤ともなる。


「よし、負けてられないよ!」


 今日は時間一杯までスパイクの練習だよ。 全力ジャンプも混ぜて持久力のアップも図っていく。

 皆が皆、自分の長所を伸ばすように練習を続けている。 奈々ちゃんと弥生ちゃんはパワーに磨きをかけていくようだ。 宮下さんはコースの打ち分けを、紗希ちゃんは必殺技のキレを磨く。


 この日は18時半まで休むことなく練習を続けるのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 今日の練習を終えた私達は「皆の家」へと帰ってきている。 さすがに休憩なしぶっ通しはお疲れだよー。

 弥生ちゃんと宮下さんは、こちらに滞在中は客室に寝泊まりしてもらう事になった。 ちょっと悪いかなぁとは思ったけど、社宅の部屋より上等という事でむしろ満足していた。


「にしてもこの拠点、とんでもあらへんなぁ」

「よねー。 こんなの建てちゃうなんて、西條グループ恐るべしね」

「おーほほほほ」


 弥生ちゃん、宮下さんの言葉を聞いて慣れない高笑いを見せる奈央ちゃん。 実際に凄いんだよねぇ。


「ここで集団生活できてまうんやもんな。 駅前で立地も良し」

「思いつきで建てたの?」



 宮下さんの質問である。 結構以前から建設していたこの拠点。


「ん-。 そうですわねぇ。 仲間内で集まれる拠点を作ろうって思いついてすぐに計画しましたわよー」

「思いついてすぐに動ける行動力はさすがやな……」


 そうなんだよね。 奈央ちゃんの行動力にはいつも驚かされるばかりである。 何でも「やる」と決めたらすぐにやっちゃうんだもんね。 今回の弥生ちゃん、宮下さんの招集もまさにそれである。


「迷う前にやるのが一番だもの。 決めたらとりあえずすぐに行動。 それが私のモットーよ」


 今まできっとそうやって生きてきたんだろうね。 自分が後悔しない生き方を。

 そしてそれはこれから先も変わらないんだろう。

 もし秘書になったら、私はついていけるかな?

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