第790話 弥生と美智香
☆弥生視点☆
9月に入って千葉のメンバーは自主合宿を開始したらしい。 ウチらプロはチームの練習に参加しとるんやけど、正直言うて千葉のメンバーと一緒に練習してコンビネーションプレーに磨きをかけたいとこやで。
「美智香、何とかせぇやー」
「私に言われても無理なものは無理よー」
まあせやろなぁ。 日本代表の正式な合宿やったら許可も下りるんやけど、亜美ちゃんらが勝手にやってる合宿やからなぁ。 さすがに許可も出ぇへんわ。
「まあ練習設備とか環境は良いんだし文句言わない」
「はぁせやなぁ」
美智香の言う通り、この東京クリムフェニックスの練習環境は悪ない。 設備は整ってるし、ええコーチかてついとるからな。
「それに10月からはシーズンも開幕するし、チームでの練習も重要っしょ」
「美智香のくせにまともなこと言いよってからに」
「人の事をバカにしてー」
実際、美智香は超が付くぐらいアホやからな。 新田千沙も言うとったけど、1人にしとくと何やらかすかわからんらしい。 ほんま大変やで。
◆◇◆◇◆◇
ちゅうわけで今日もチームの練習に参加……のはずやったんやけど。
「おー、月島に宮下。 今、小林日本代表監督から連絡があってな、今からワールドカップまでの間、千葉で練習させてやってくれと頼まれた」
「へっ?」
「今からですか?」
「うむ。 小林監督もどうやら今大会に賭けているらしい。 千葉では自主練習中のメンバーがいるんだろう? そこに合流してくれとのことだ」
「えと、ええでしょうか?」
「代表監督直々の指示だ、しかたあるまい。 そのかわり、必ず世界を獲って来い」
私は美智香と顔を見合わせる。
「はいっ!」
◆◇◆◇◆◇
ちゅうわけで思っても見んかった展開になったで。
「小林のおっさんも粋なことしてくれるやん」
「でもすんごいグッドタイミングよねー」
「せやなぁ」
とか話しながら駅を目指して歩いていると、不意にスマホが鳴り出しよった。 相手の名前を見ると清水亜美となっとる。
「亜美ちゃんか。 なんやろ?」
「ほへー」
とりあえず応答しよか。 これからそっちに行くこことも伝えなあかんシちょうどええわ。
「もしもし、弥生や」
「もしもーし。 小林監督から連絡あった?」
「何や知っとったんか」
話す手間が省けるっちゅうもんや。 にしても情報が早いな?
ちゅうことで話を聞いてみたらやな……。
「こっちから監督にお願いしたんだよ。 奈央ちゃんがやったんだけどね」
「そういう事かいな……そういうことはまずウチらに言うてくれんとびっくりするやん」
「あはは、ごめんごめん」
「で、もう出発してるの?」
「ああ、今東京駅に向かってるとこや」
「そかそか。 こっちに着いたら教えてね。 私達の新拠点『皆の家』に案内するよ」
「何やのそれ……まあ、了解や。 そっち着いたら連絡する」
通話を終えて内容を美智香にも伝える。
「通りでタイミングが良いと思った」
「せやな。 小林のおっさんがそんな粋なことするとは思えへんわな」
「弥生っちの小林監督への評価すんごい低いわね」
「そんな事はあらへんで。 ちょっと抜けとるなぁと思うてはいるけど、監督としては優秀やと思うで」
「あはは」
「にしても気になるのは新拠点っちゅうやつやな」
「元清水さんのお宅が拠点だったわよね? 『新』ってことは新しいのうぇお作ったって事? こりゃ十中八九西條さんの仕業ね」
「せやろなぁ……」
何しかあのちっこいのは見た目に似合わんぐらいめちゃくちゃな事しでかしよるみたいやからな。 新しい拠点の1つや2つ作ってもうてもおかしくあらへんやろう。
◆◇◆◇◆◇
東京から電車に乗り千葉を目指す。 美智香は彼ぴっぴとやらに連絡して千葉に行く事になったからデートしようなんてことを話しとる。
いやいや、代表の練習しに行くんとちゃうんかいな。
「にしても彼氏やったか? 仲ええやん」
「うん。 月ノ木祭で仲良くなってそのまま付き合うことにねー。 運命だわ」
「そんなホイホイ運命の相手に会えたら苦労あらへんわ」
「あー、弥生っちひどいー。 私と大君は運命の2人なのよ」
「へいへい」
この話始めると惚気聞かされるんやった。 さっさと話題変えな面倒臭いわ。
「ワールドカップまでの間は千葉のその新拠点とやらにお世話になるの?」
「まあ出発のちょっと前ぐらいには東京戻って準備せなあかんな」
「海外だもんね。 そりゃそうか」
今回のワールドカップはフランスで行われる。 海外渡航っちゅうわけや。
ちなみにフランス語なんてちんぷんかんぷんや。 その辺は全部亜美ちゃんゆあ西條さんにお任せやで。
千葉に着いて更に電車で亜美ちゃん達の住む街へとやって来た。 こっちにもちょくちょく来るようになったな。
「とりあえず亜美ちゃんに連絡やな」
「渚っちには会いに行かないの?」
「あー、多分今学校やろ。 部屋行ってもおらんで」
「あーそっか、高校生だもんね」
まあ、夕方にでも顔出せばええやろ。
「あーもしもしウチや。 今着いたでぇ」
「おー、早いねぇ! 今迎えに行くよ」
「あいよー」
「てややー」
変な掛け声と共に通話を切る亜美ちゃん。 さて、来るまでの間ちょっとゆっくりとさせてもらおか……。
「てやややー」
「って、早っ?!」
「まだ10秒ぐらいしか経ってないよ?!」
「ふふふ、そろそろかと思って既に出てきていたんだよ」
「さ、さよか」
相変わらずようわからん子やなぁ。
「案内するよ。 すぐそこだよ」
「新拠点やったっけ?」
「うん。 奈央ちゃんが秘密裏に建設してたんだよ。 私達にも隠してたんだよ」
「やっぱり西條さんなのね」
それ以外ありえへんからなぁ。 これはまたとんでもない屋敷が建っとるに違いないで。
「元々駅前にあった無料駐輪場が使われなくなったからその土地を買い取って作ったんだって」
「やることがいちいちとんでもないな、あのちびっ子お嬢様」
「あはは、もう慣れてきたよ」
どうやら亜美ちゃん含めて西條さんの近くにおるメンバーは慣れてしもうたらしい。
駅から歩く事数分。 そこには周りの建物に似つかわしくない、巨大な屋敷が建っていた。 い、一目瞭然や。
「はぁー……こりゃすんごいわ」
「拠点っちゅうか、もう普通に住めるやん」
「実際中は皆で共同生活出来るように作られてるよ。 どうぞどうぞ」
亜美ちゃんの後に続いて門をくぐり、ゆっくりと建物の中へ。 内部は亜美ちゃんが言うように、皆で住めるような間取りになっていた。 キッチンに浴場、広々としたリビングに各人の個室まで。 ここまでやるか?
「皆は?」
「体育館かな? 14時から練習だから先に行ってるよ」
「さよか。 ほな行こうや」
「疲れてない?」
「ウチはそんな柔やないで? 美智香もいけるやろ?」
「もち!」
「そかそか、じゃあ着替えだけ持って行こう」
っちゅうわけで、しばらくの間ウチと美智香はここで世話になる事になったわけや。
お世話になるからには色々と家事やらも手伝うでぇ。
その前に練習やな、
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