第789話 磨く

 ☆奈々美視点☆


 初日の練習から「皆の家」に戻ってきた私達。 さすがにちょっと物足りないので私は「皆の家」に作られたているトレーニングルームで筋トレを始める。


「ふぅー……」

「お、珍しいな奈々美。 筋トレかい?」

「えぇ」


 このトレーニングルームの主とも言える遥がやって来た。 今日は筋トレ日らしい。


「ていうか、奈々美やっぱり凄い力だな。 そのダンベル楽々使えるとかやべーぞ」

「そうなの?」

「いやそれ7kgはあるぞ」

「ふぅん」


 私はそれを軽い感じで使って筋トレしている。 7kgねぇ。 この世のものは軽すぎるわ。


「スパイク強化したいんなら背筋腹筋の方が良いんじゃねぇか?」

「そうなの?」


 はっきり言ってそう言う知識はほとんど無いのよね。 今まで適当にやって来たから、スパイクに使う筋肉なんて考えて鍛えたことも無かったわ。


「広背筋や腹直筋、腹斜筋を鍛えると良いぜ」

「ふぅん。 どんなメニューが良いか教えてくれないかしら?」

「おう」


 というわけで遥に筋トレメニューを作ってもらう。 まあ1ヶ月足らずでどれぐらい効果がある物か知らないけど、やらないよりマシよね。


「よいしょ」

「にしても今まで適当にやって来てあれなのか? 天然のパワーだけで頂点に立ってるって人間じゃねぇな奈々美」

「うっさいわねー」


 ガコンガコン……


「そ、それも余裕で出来るのか……」


 遥は私が楽々と器具を動かしているのを見て顔を引きつらせていた。

 麻美があれだけ頑張ってるんだもの、私だって負けられないわよね。 何より日本のエースなわけだし期待は裏切れないわ。

 新必殺技とかはちょっと間に合わなさそうだし、今ある力に磨きをかける方向で行くわよ。


「無茶はするなよー?」

「わかってるわよ」


 ケガなんなしたらシャレになんないもの。 その辺はちゃんと弁えてるつもり。


「ふぅ」

「うわわ、奈々ちゃんいないと思ったらトレーニングしてる?!」

「お、もっと珍しいのが来た」

「亜美もトレーニング?」

「うん。 私もジャンプ力に磨きをかけようと」

「現段階で世界一高いくせにまだ跳びたいわけ?」

「そりゃそうだよ」


 今より跳ぶようになったらやばいんじゃないかしら? もう誰も亜美の記録を超える事は出来なくなりそうだわ。


「ジャンプ力ならハムストリングスや大腿筋だな! 麻美もやってるらしいよ」

「紗希に教えてもらったとか言って、家でもやってるわ」

「ふむふむ。 遥ちゃん、私に教えてくれる?」


 遥に連れられてマシンの前で説明を受ける亜美。 「よぉし」と気合いを入れて早速トレーニングを始めるも。


「んんーっ! んんーっ! はぁはぁ、疲れたよ」

「全然動いてなかったじゃない……」

「無理だよ! これは私には無理!」


 どうやら亜美の非力さは筋金入りのようね。 遥は軽々とトレーニングしているのに。


「よくそれであんなジャンプ力出したり、速く走れたりするね? 亜美ちゃんの体はどうなってんだい?」

「さ、さあ?」

「何か都合の良いように出来てるんでしょ」

「そうなのかなぁ?」

「亜美ちゃんにはマシントレーニングより自重トレーニングの方が合ってそうだ。 教えるよ」

「お願いします遥先生!」


 いつもと立場が逆転してるわね。 筋トレに関して言えば遥の方が先生になるわけか。


「ふぅ」

「奈々美は筋が良いな」

「普通でしょ」

「トレーニングが終わったら即プロテインだ! ささ」

「うぐっ?! ケホッケホッ! 凄いわねこれ……飲みにくい」


 何もマッチョになろうってんじゃないんだから、こんなもん飲まなくても良いでしょうに……。 


「筋トレで筋肉を痛めつけたら回復に必要なタンパク質を摂る! 大事なんだぜ!」


 と、決め顔決めポーズを見せる遥なのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



「はぁー生き返るわねー」

「出た、年寄り臭い奈々ちゃんだよ」


 夜になり、夕食を終えた私達は入浴タイムを楽しんでいる。

 亜美、希望、紗希が同時に入浴中よ。

 奈央は色々やる事があるから後で入るらしいわ。 遥は入る前にランニングで一汗かいてくるとかなんとか。


「でもやっぱり気持ち良いわねー。 この匂いも有馬温泉思い出すわ」


 そう、今浴槽には奈央が大量に仕入れた有馬温泉の入浴剤が入っている。 他にも登別やら草津やら色々な温泉の入浴剤を大量に仕入れてくれているおかげで、色々なお湯を楽しむ事が出来るわ。


「奈央ちゃんに感謝だね」

「まったくね」

「明日は練習15時からだっけ?」

「うん。 15時から19時だよぅ」

「麻美と渚も学校終わったら合流するって連絡あったわよ」


 今日の夕方に私にそういう連絡を麻美がしてきたのだ。 時間がある時は出来るだけ一瞬に練習するのだそうよ。


「受験生なのに大丈夫なのかしらん?」

「まあ、なんとかなるんじゃないの? 渚は不安そうだけども」

「大丈夫だよ。 私がビシバシ教えるからね! ビシバシだよ!」

「頼むわよ? 七星バレー部の戦力アップがかかってるんだから」

「あ、そっか……ライバル強くなるのはやだねぇ」

「あ、亜美ちゃん、そこは考えないようにしてあげよぅよ」

「そだねぇ」


 渚もそんな事が理由で見放されちゃ可哀想過ぎるわね。


「そうだ。 奈々美、必殺技出来た?」


 何を言い出すかと思えばまたそれか。 紗希はやけに必殺技にこだわるわね。


「出来てないわよ。 てか必殺技はもう増やさないから」

「おりょ? そなの? 分身魔球とか消えるスパイクとかは?」

「マンガやアニメじゃあるまいし……」


 そんな事が出来たらもうそれこそ人間じゃないわ。


「とりあえずは筋トレして体幹とかを鍛えて、今のスパイクに磨きをかける方向にしたわ。 多分それがベストだと私は思う」

「私もそうだね。 ジャンプ力に磨きをかけつつ、全力ジャンプを続けられる持久力をつけるよ」

「きゃはは、化け物が更に化け物になりそう」

「人間だよ!」

「いや、あんたもう人外に片足突っ込んでるわよ」

「ひどっ?! 奈々ちゃんだってゴリラのくせにー!」


 ぽかぽか……


 亜美が怒りながら背中を叩いてくるも、全く痛くも痒くもない。 非力ねぇ。


「でも皆レベルアップしてるし、本番が楽しみね!」

「そだね。 私達がどこまでやれるか」

「目指すは優勝でしょ」

「はぅ、強気な目標……」


 希望は自信無さ気にしてるけど、目標を掲げるからにはやっぱり一番高い所を目指さないとね。


「弥生ちゃん達も練習頑張ってるかなぁ?」

「あれは言われなくてもやってんでしょ」

「きゃはは、後で電話してやろうよ」

「いいねぇ!」


 中々面白そうね。



 ◆◇◆◇◆◇



 てなわけでリビングに集まりビデオ通話を始めた私達。

 弥生と宮下さんもお風呂上がりらしく、肌は少し赤く上気している。


「何やの急に」

「ちーっす! 皆元気ー?」


 宮下さんは相変わらず元気ね。 風邪とか引いたこと無さそう。 バカは風邪引かないって言うし。


「いやいや、ワールドカップに向けての調整とかどんな感じかと思ってさー」

「あー、順調やよ。 そっちはどないなん?」

「こっちは今日から自主合宿だよ」

「何かそんな事するって言ってたわねー。 あー、私もそっちに参加したいー」


 宮下さんは足をパタパタさせて弥生に「じっとでけんのか?」と呆れられていた。

 弥生と宮下さんはチームでの練習がある為、こっちには来れないらしいわ。

 まあ仕方ないわね。


 その後は結局ただの雑談になり、最近の出来事なんかを笑いながら話して過ごした。

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