第786話 大学では

 ☆夕也視点☆


 今日は久々に希望とデートに出てきている。 最初に劇場版ボケねこを観せられて現在は映画館のフードコートで休憩中。 希望のボケねこ蘊蓄がさっきから止まらない。


「それでオコねこさんはんね、顔は常に怒ってるんだけど実はすごく優しくてね!」


 めっちゃ早口だ。 ボケねこが絡むと本当に人が変わるな。 大学でボケねこ好きな友人が出来たらしい。  

 人見知りする希望も好きなことを理由に友人が出来たというなら、ボケねこも捨てたもんじゃないな。

 そういえば希望は大学ではどんな感じなんだろうか? 詳しく聞いたことは無かったな。 見ている感じ上手くやれてはいるようだが。 何処の馬の骨とも知らない男に言い寄られたりしていないだろうか?

 ぬ、何か心配だぞ。


「ね、この後はボケねこショップ行って良いですか?! 良いですよ! ありがとう!」

「お、出た一人完結」


 しかしやっぱり次の行き先はそこになるのか。 まあ希望の行きたい場所について行ってやるか。


「なあ、大学でもボケねこ友達とはそんな感じなのか?」

「うん? ん-、ここまではテンション高くはないけど」

「ほう。 一緒にボケねこショップとか行かないのか?」

「今度紗希ちゃんも一緒に行く予定だよぅ!」


 あーそっか。 あの子もボケねこ好きだったな。 とにかく大学でも友人が出来て良かった。 結構気にはしてたんだがな。


「で、大学では男に言い寄られたりしてないか? 希望も高校ではモテてたからなぁ。 お兄ちゃんは心配で心配で」

「お、お兄ちゃんって……。 えーっと、うんと、言い寄られたりはしてるよぅ。 お茶とか映画とか誘われるけど、そのたびに逃げてるよぅ」

「むぅ、やはり! 何処の馬の骨ともわからん男に可愛い希望はやれん!」

「ど、どうしたの夕也くん?」

「おっと、つい」

「もぅ。 大体、私は夕也くんや宏太くん以外の男の子にはほいほいついて行ったりしないよぅ」

「うむ。 知らない男について行ったらダメだぞ!」

「まるで子供扱いだよぅ」


 まぁ、単純に心配しているのであるが。 悪い男に捕まったりしたら大変だからな。 もちろん、希望が選んだ男なら泣く泣く希望を託さんでもないが。 いや、やっぱりだめだな。


「そんなに心配なら夕也くんが貰ってくれればいいのに」

「ははは、たしかになぁ」


 それが出来ればどんなに楽か。 亜美がいる以上それは中々難しいのだ。 いや、亜美ならもしかしたら「2人とももらえばいいじゃない」とか言いかねないけどなぁ。


「夕也くんは大学ではどうなの?」

「あぁ、基本的には奈々美と一緒に行動してるな」

「講義の日とかバイトの日も合わせてるよね?」

「あれはあいつが勝手に俺に合わせてるだけだ」


 俺は別に別日でも良いんだが、俺という男を壁に使うことで鬱陶しい男からの誘いを避けているらしい。 なんだかんだ言ってあいつも俺がいないとダメらしいな。


「奈々美ちゃんは結構夕也くんにも気を許してるもんね」

「そこらの幼馴染より距離が近い気がするな」

「うんうん。 多分見る人が見たら恋人同士だよぅ」


 実は大学の奴らには俺と奈々美は付き合っているという事にしてある。 これも奈々美の頼みで、面倒な誘いを断る口実にしているのだ。 まあ今のとこ効果はあるようだが。


「大学行って皆バラバラになったから、それぞれが大学でどんな風過ごしてるのかわからなくなったね」

「そうだな。 あんまりそう言う話とかもしないしな」

「うんうん」


 皆、大学で学んでいる内容も全然違うしな。 希望は教育大学で幼稚園教諭を目指して勉強中。


「実地研修とかあるのか?」

「そのうちあるみたいだよぅ。 適当な幼稚園に振り分けられて1ヶ月研修だって」

「ほぉ。 大丈夫かぁ?」

「はぅ」


 まだまだ人見知りにアガリ症の気がある希望に実地研修は中々大変だろうが、将来幼稚園の先生になろうと思ったら乗り越えなければならない壁だ。 頑張ってほしいものである。


「紗希ちゃんは大学で凄く頑張ってるみたいだね」

「それな。 指輪のデザインもすげぇ練ってくれたし、本格的にデザイナーの道目指してるって感じだよな」

「うん。 デザインに関しては妥協を許さないって感じだよね」

「将来大物になるかもしれんな」

「そぅだね」


 皆しっかり将来やりたい事への道を歩いてるなぁ。 まだ何をやりたいか決まってないのって俺ぐらいじゃないか? 奈々美もバレーボールのプロリーグ目指すって言ってたしな。


「さて、十分休憩も出来たしボケねこショップに行こぅ」

「おう、そうだな」


 休憩を終えた俺達は映画館を出てボケねこショップへと向かう。 その途中の事である。

 不意に俺は名前を呼ばれた。


「あれ、今井君じゃないですか?」

「ん?」

「はぅ?」


 大学で奈々美とたまに話している女性だな。 名前まではちょっと記憶にないのだが。

 問題はそこではなくて。


「お隣さんは?」

「えーとだな」


 面倒だぞ。 この人は俺と奈々美が付き合ってると思っている人だ。 つまりこの人には俺が他の女と浮気しているように見えているというわけだ。

 ここは希望には悪いが……。


「あぁ、こいつは妹でなぁ」

「……はぅ」

「ああ、妹さんかー。 浮気相手かと思った。 藍沢さんにチクるとこだったわ」

「は、ははは」


 なんとかその場は誤魔化すことに成功して難を逃れる。 バレたなんてことが奈々美に知れたら何されるやわからんからな。


「わ、悪かったな希望」

「ううん。 大学での事は奈々美ちゃんから聞いてるから大丈夫だよぅ」

「そ、そうか」

「さぁ行こぅ」

「おう」


 気を取り直してボケねこショップへと向かう。 希望の奴、妹扱いには怒ってないみたいだな。 優しい奴だ。


「今日は高いぬいぐるみ買ってもらおぅっと」

「へ?」

「可愛い妹にはそれぐらいしてくれるよね!」


 実は結構怒っているみたいだ。 ううむ。 やっぱりお姉さんの方が良かっただろうか?



 ◆◇◆◇◆◇



 ボケねこショップへとやって来た俺は、少し不機嫌な希望に有無を言わさずにぬいぐるみを買わされた。 ま、まあ怒らせたのは俺だから仕方ないよな。 今月は指輪貯金に回せる分が少なくなりそうだぜ。


「これも『皆の家』に飾ろぅ」

「お、おう」


 あっちの部屋もこれに埋め尽くされるのか。 まあ希望の部屋だから好きにすればいいと思うが。


「おおー、このマグカップも可愛い」

「うぐっ?!」


 まだ何か買うのか?! これ以上の出費は出来れば避けたいのだが。 希望はボケねこの絵が描かれたマグカップを見て目をキラキラと輝かせている。 これは欲しいと言い出すのも時間の問題だ。


「欲しい!」


 やっぱりな。 うげ、2900円もするのかよこのマグカップ。


「んん? どうしたの夕也くん?」

「いや何でもない。 会計行くか」

「はぅ? 夕也くんは外出て待ってて良いよぅ。 これは私のお金で買うから」

「え、そうなのか」

「ぅん。 夕也くんはこの6000円するぬいぐるみ買ってくれたもん」


 希望は「それ以上は使わせられない」と言ってくれた。 優しい奴だなぁ。 ちゃんと俺の懐事情も考えてくれるようだ。


「おう、じゃあ外で待ってるな」

「はーい」


 正直助かった。 これ以上貯金に回せるお金が減るのも困るからな。

 しかし、今日はこの後どこ行くんだろうか?

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