第782話 海水浴最終日

 ☆紗希視点☆


 さてさて2日目よー。 今日も海で遊ぶわよー。

 夕方には帰るらしいから、それまで遊び倒すのよ。


「いっまいくーん!」

「ひぃっ?!」


 後ろから今井君に近付いて声をかけると、今井君は何故か怯えたような声を出して後退った。

 まるで化け物でも見たような反応しちゃって傷付くなぁ。


「あそこでボード貸し出ししてんだけどさ、サーフィンやらないー?」


 サーフィンは以前に今井君から教わった事があり、少しくらいなら波乗りも出来る。 まあ、今日は波も穏やかだからガチなサーファーなら乗らないだろうけど、私みたいなビギナーにはちょうど良い。


「サーフィンか。 まあいいけど」

「はぅ、私もやる」

「なはは、私も挑戦だー」

「私かて前教えてもろたしやってみるで」


 ありゃりゃ、一杯くっついてきちゃったわね。 まあ人はたくさんいた方が楽しいっしょ。

 というわけで私達は皆揃ってサーフボードを借りて人の少ないサーフィン専用エリアへと移動してきた。

 この辺りはサーフィン専用エリアというだけあって、波が高くなるように周りの地形が調整されている。

 他のサーファーはもっと良い場所を知っているのかこの辺りに姿はない。 私達初心者にはありがたいわ。


「よし、とりあえず皆覚えてるかどうか基礎チェックだ」

「りょ!」

「ぅん!」

「はい!」


 希望ちゃんと渚も以前私と一緒に今井君からサーフィンを教わっていたわね。 結構前だし基本を覚えているかの確認は大事よねー。

 というわけで陸で基本の動作を確認。

 私も希望ちゃんも問題無し。 渚はちょっと怪しい感じだったけど、やってるうちに思い出すでしょ。

 未知数なのは麻美よね。 まあこの子は何でも出来ちゃうプチ亜美ちゃんみたいな子だし……。



 ◆◇◆◇◆◇



「ぶくぶくぶくぶくー! ぷはーっ、乗れないぞー! なははー」


 麻美は全然サーフィンが出来ていなかった。 どうやらやったことは無いらしいから完全初心者だったみたいね。


「麻美、あんさんちょっと今井先輩に教えてもろた方がええで?」

「そぅだよぅ。 ケガしちゃうよ?」

「おー。 夕也兄ぃ教えてー」

「おう、じゃあ陸に上がってくれ」

「ほーい」


  と、麻美は今井君に教えてもらう為に陸に上がった。 にしても麻美は健康的な体してるわねぇ。 全体的にバランスが良いというかなんというか。

 さて、私達は各々自由に波に乗って遊んでみる。 結構ちゃんと乗れてるわよー。 渚も最初の内は落ちていたけど少し続けていると感覚を取り戻したのか普通に波乗りできるようになっていた。 希望ちゃんは鈍臭そうに見えてこれで運動神経抜群の子だから問題無さそうね。


「お、やってるねぇ」

「皆上手じゃない。 麻美はまだ基礎訓練中みたいだけど」

「あ、お姉ちゃんと亜美姉ー」

「おりょ」


 少しすると、亜美ちゃんと奈々美もボードを持ってやって来た。 亜美ちゃんは多分めちゃくちゃ上手いんだろうなぁと思うけど奈々美はどうなのかしら? やったことあんのかしらね?


「よぉし、波に乗るよぉ」


 亜美ちゃんがボードを持って海へ入って行きあっさりと波に乗っていた。 恐るべし亜美ちゃん。

 奈々美の方もそれなりに形になっていてかっこいいわね。


「亜美ちゃんも奈々美も凄いじゃんー」

「本当に上手だよぅ」

「まあね」

「私達は昔、奈々ちゃんの従兄のお兄さん教えてもらったことがあるからね」

「へぇ。 っていうかそんな人がいるなんて初耳よ?」

「別に教えなくてもいいでしょ……」

「まぁそうだけど」


 今井君もその人に教えてもらったのだとか。 なるほど、今井君にもちゃんと先生がいたのね。


 そうこうしているうちに麻美も基礎をマスターして波乗りを始める。

 さすがの運動神経を見せる麻美。  さっきまで全然乗れずに落ちていたくせに、今井君から基礎を学んだだけであっさりと波を乗りこなしているわ。 やっぱ天才なのよねーあの子も。


「なははー! 楽しいー!」

「おおー、上手上手ー」

「負けへんでぇー」


 渚も麻美に負けじと頑張ってるけど、既に麻美の方が上手いのよねー……。 生まれ持った才能の差ってやつか。 私の身近にもとんでもないのがいるから、その理不尽感はわかるわ。 奈々美も似たような感情はあるんでしょうけど。 そこは上手く折り合いつけて仲良くやってるわよ。 僻んでもしょうがないしね。


「にしても皆上手いねぇ。 びっくりだよ」

「いやいや、亜美姉達の方がびっくりー」

「そうよん。 本当になんでも出来ちゃうんだから」

「それほどでもあるわよ」


 謙遜するでもなく威張る奈々美の胸を後ろから揉みしだいてやる。 


「何すんのよこのスケベおやじ」

「失礼な! こんな美女相手にあろうことかスケベおやじなんて」

「似たようなもんでしょうが」


 別に同性の子の胸を揉むぐらい普通だと思うんだけど? 亜美ちゃん曰く、私は揉み方がいやらしいのだとか。 そうかしら? テクニシャンって事で良くないかしら?


「ちなみに今井君はどうなの? 私達の監視したり教えたりしててサーフィンやってるとこ見たことないんだけど?」

「そぅいえば」

「ほんまですやん」

「夕ちゃんもさすがに上手だよ。 このぐらいの波じゃ物足りないんじゃないかな?」

「無駄にハードル上げてくれるな」

「きゃはは! 見して見してー」

「しょうがないなぁ」


 そう言ってボードを亜美ちゃんから借りて海へと入って行った。 うーん、男前ー。

 波を待ってパドリングを始め、すっと立ち上がって波に乗って見せる。


「上手っ?!」

「おお、さすが夕也兄ぃ!」

「はぅ、かっこいい」

「先輩は何やっても絵になるなぁ」


 今井君がサーフィンするだけで皆惚れ直しちゃってるわよこれ。 


「やっぱり上手だねぇ」

「大したもんよねー実際」


 今井君がボードから降りてこっちへと戻ってくるのがまたかっこいい。 こりゃキュンッと来ちゃうわ。 また襲いたくなっちゃうじゃーん。


「何クネクネしてんのよ紗希……気持ち悪いわよあんた」

「あぁん」

「なんて声出してるのよ……」

「あ、あはは……」

「よぉーし、渚ー、もう1回イクゾー」

「お、おー」


 元気な麻美に引っ張られるように海へと入って行く渚。 私ももうちょっと乗ってこうかしらね。



 ◆◇◆◇◆◇



 サーフィンだけじゃなくビーチバレーや砂の城作りなんかも楽しんだ私達。 気付けば夕方になり海水浴旅行も終わりの時間がやって来た。


「楽しかったわねー」

「またいつでも来れますわよ。 何なら来年にでもね」

「そうだねぇ」


 コテージで帰り支度をしながら海を名残惜しむ。 そう、また来年だって来れるわよね。


「先輩達は9月にはいったら自主合宿始めるんだよねー?」

「えぇ、言っても近くにある西條グループの保有してる体育館をっ使うだけですわよ。 宿泊は『皆の家』が近いからそこで寝泊まりしますけど」

「おお、皆で生活だねぇ!」

「女子だけだけど」


 なるほど、あそこで皆で生活すんのね。 それはそれで楽しみだわ。 この夏季休暇、まだまだ楽しめそうねー。


「さて、それじゃあ帰りましょうか」

「おー」


 こうして、夏の海水浴旅行は幕を閉じたのであった。

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