第781話 努力家

 ☆麻美視点☆


 夏祭りや花火も終わって後はコテージ内でのんびり過ごすだけー、なんだけど、お風呂に入る前に一汗かこうと思い夜の砂浜に出てきているよー。


「んしょ! んしょ!」


 お昼に神崎先輩から聞いた「砂浜でのダッシュやジャンプの練習は効果的」という話。 たしかに砂浜で走ったり跳んだりするには足裏全体でしっかり地面を捉えて蹴る必要がある。 その感覚を身体で覚えていつでもどこでも出来るようにならないとー。


「んしょ!」

「やってんね、麻美」


 砂浜で飛び跳ねる練習をしていると、神崎先輩が出てきて話しかけてきた。


「あ、先輩ー」

「どよ? 重りとか筋トレの効果とか実感出来てる?」

「どうかなー? あ、でも重り着けてジャンプしても今までと同じくらいは跳べるようになったよー!」

「お、良いじゃん。 外したらきっともっと高く跳べようになってるわよん」

「大会ギリギリまではこれで生活するー」

「やる気ねー」


 そう言って裸足になった神崎先輩は、砂浜の上に立って力一杯跳んだ。


「うおー、凄いー!」

「まあねー!」


 神崎先輩はしっかり地面に力を伝えて、ジャンプに必要な筋肉なんかも全部使った綺麗なジャンプだった。 これが出来れば私は世界のトップレベルとだって戦える。 


「そういえば神崎先輩はどこの砂浜で練習したんですかー?」


 私達の街の近くには海なんか無いから、練習場所なんて無かったはずだけど。 それなのに神崎先輩は練習していたという。


「ほれ、市内に西條グループがやってる屋内プールがあるっしょ? あそこ、砂浜を再現したエリアがあってそこでやってたのよ」

「おー! そうかー! 盲点だったー!」


 屋内プールは思い付かなかったよー。 帰ったら早速行ってみよう。


「あそこトレーニングルームとかもあって便利よ。 夏季休講中に一緒に行きましょ」

「是非ー」


 神崎先輩は夏が終わったら京都へ行っちゃうからねー。 こうやって会って話が聞けるのは大型連休くらいだ。


「さ、そろそろお風呂の時間よん。 練習はこれぐらいにして戻りましょ」

「はいさー」


 どうやら練習を見に来たのとお風呂が沸いたという事を伝えに来たみたいだ。 練習を切り上げてコテージへ戻るのだったー。



 ◆◇◆◇◆◇



「いい湯だなーなははー♪」

「何かちょっと違わへんかそれ?」

「ほへー?」


 そうだったけー?


「で、あんさん風呂入る時も重りしとるんかいな」

「うむー。 防水性だぞー」

「さよか」


 今は渚と一緒にお風呂タイムー。 今回のお風呂は4人ぐらいは入れる広さだけど、部屋割りのメンバーで入浴することになったので渚と一緒になったよー。


「このあと勉強やで。 体力は残っとるんかいな?」

「ふぇー? 余裕だよー。 それに疲れたら勝手に寝るしー」

「そやなぁ。 あんさんは余裕やもんなぁ」

「うわっはっはっはー」

「何か腹立つなぁ」

「精進したまえよ渚君ー」

「はいはい」


 渚の成績は最近少しは上がってきている。 きっと今まで要領が悪かっただけで、勉強の仕方さえ改善すれば成績は上がる。 亜美姉のおかげで成績も上がっているので問題ないとは思う。


「で、どないやの特訓の方は?」

「順調順調ー」

「あんさんはホンマなんでもすぐできるようになるな。 器用なん羨ましいで」

「まあねー。 渚は不器用すぎるんだよー」

「へいへい」


 これは本人も自覚しているらしいので特に怒ったりしては来ない。 でもやる気は人一倍あるので色々コツを掴んでしまえば上達は早い。 本当に要領が悪いだけの子なんだよねー。


「さて上がって早速勉強やー」

「波の音を聞きながら勉強だー」

「おー」



 ◆◇◆◇◆◇



 部屋に戻ってきた私達は早速受験勉強開始ー。 私達はこの旅行が終わったらもうすぐ学校が再開です。 就職組はそろそろ就職試験なんかが近付いてきているみたいだー。

 亜美姉が少しだけ見てくれるという事なので、渚に付いてもらっているよー。


「ビシバシだよ」

「は、はい」

「なはは、亜美姉は形から入るのが好きだからねー」

「なりきることは大事だよ。 うんうん、大事なんだよ」


 ちょっと自分に言い聞かせてるようにも聞こえる。


「にしても、渚は努力家だよねー」

「人一倍要領悪いからやなぁ。 人一倍努力せな人並みにもなれへんのや」

「努力出来るっていうのは偉いんだよ。 世の中には努力しないで日々をだらだら過ごしちゃう人だっているんだから」

「耳が痛いー」


 私は日々をだらだら過ごしている自覚ありだよー。 

 しかしそんな私を見て、亜美姉も渚も目を丸くして首を傾げ「どうして?」と聞いてきた。


「あんさんかて努力家やないの? さっきかて砂浜で練習しとったし」

「うんうん。 料理だって努力して上達したし、小説だって頑張ってるから皆に認められてるじゃない? 麻美ちゃんは努力家だよ」

「ひぇーあまり褒められると恥ずかしいー……」


 私の場合、それらは努力してるとかっていう自覚は無くて、ただ好きだからやってるだけなんだよねー。


「それに、私や奈々ちゃんみたいになりたいって、昔から努力してきたじゃない?」

「それは確かに……」


 私の目標である亜美姉やお姉ちゃんは凄い人達だ。 生半可な努力じゃ追いつけないような、高嶺の存在。 だから私は昔から色々努力してきた。 亜美姉みたいに賢くなりたいから勉強だって頑張ったし、お姉ちゃんみたいに誰からも頼られる強い人になりたいから、困っている人の相談に乗ったり色々やってきた。 あれは確かに努力と呼べるものだ。


「あんさんが努力家やから私も中々追いつけへんのやよ? あんさんが怠け者やったらどんだけ楽か」

「うぅー、やっぱり恥ずかしいからこの話終わりー」

「あはは。 じゃあ勉強に集中しようね」

「今度清水先輩から麻美の昔話を根掘り葉掘り聞いたるさかいな」

「やめてー」


 私はめちゃくちゃに褒められるのが大の苦手なのであったー。



 ◆◇◆◇◆◇



 適度な所で勉強を切り上げて、私と渚は寝る準備に入る。

 

「夏休みももう終わりやなぁ」

「うむー。 旅行とかも出来て楽しかったよー。 夏休み終わったら受験勉強にワールドカップもあって大忙しだー」

「そやね。 ワールドカップか、なんやドキドキしてきたで」

「だよねー。 日本の代表だもんねー」


 亜美姉やお姉ちゃんを追いかけてたら、そんなとこまで来ちゃってたんだねー。 やっぱり凄いや、あの2人は。

 私をどんどん知らない場所に連れて行ってくれる。 でもそろそろ追いつきたいなー。


「渚はさー、やっぱりお姉さんに憧れてるー?」

「なんや藪から棒に……そやけどまあ、憧れてはいるで。 やっぱり凄いって思うし、あんな風になりたいと思うわ」


 やっぱり渚もそうなんだねー。 皆が皆そうではないんだろうけど、やっぱりお姉さんに憧れや尊敬の念を抱いて、そんな風になりたいって思う人もいるみたいだ。


「よーし頑張ってお姉ちゃんや亜美姉みたいになるぞー」

「そら大変な目標やなぁ……まあ、努力家のあんさんやから、頑張ったら届くんやないか?」

「うおーやるぞー」


 私の目標とする背中はまだまだ遠い。

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