第780話 手持ち花火

 ☆夕也視点☆


 海水浴旅行に来た俺達は海で楽しんでいた。

 途中、奈々美と紗希ちゃんにとんでもない目に合わされもしたが俺は元気です。


 時間もそろそろ17時になるという事で片付けてコテージへ戻ってきていた。


「ねね、奈央ちゃん」

「何ですの?」

「ワインセラーがあるって紗希ちゃんが言ってたんだけど何処かな?」

「ワインセラー? あるけどそんなこと聞いてどうしますの? ワインなんてまだ飲めないし」

「犯行防止の為だよ」

「意味わかりませんけど……」


 もう犯行は終わったんだよなぁ。 どうやら亜美は紗希ちゃんと奈々美がああいう事に及ぶ事を知っていたようだが、犯行時間までは把握していなかったらしい。

 紗希ちゃんと奈々美は素知らぬ顔でリビングで寛いでいた。

 何だかなぁ。


「ワインセラーはキッチンに地下への階段がありますわよ。 こっちー」


 亜美は奈央ちゃんに連れられてキッチンへと歩いて行った。

 それを見送った紗希ちゃんが一言。


「もう終わったんだけどねー」

「……」


 

 ◆◇◆◇◆◇



 さて、夕方には近くで夏祭りが始まるらしい。 色々な出店なんかもあるらしく楽しめそうだな。


「夕飯とかはお祭りの出店で済ませてね。 それで足りなかったら近くにコンビニがあるから各自で買って食べる事」

「珍しく今回は豪華ディナーは無しか」

「皆、海水浴と夏祭りの後じゃ疲れて夕飯作るどころじゃないでしょうし」


 と、奈央ちゃんが周りを見渡すと、いつも元気な面々が揃いも揃って少々ぐったり。 遊び疲れている様子だ。

 これで夏祭りとか大丈夫か?


「皆かなりはしゃいで遊んでだからな。 疲れるのも無理ねぇよ」

「それでお祭りは何時からなんです?」

「18時からですわよ」


 あと30分ぐらいか。 それまでに皆動けるぐらいには充電出来るだろうか?


「足が疲れたよー……」

「海で泳ぐ時ぐらい重り外したらええやないか……」


 麻美ちゃんは足に重りを着けて生活しているようだ。 ワールドカップバレーの為にレベルアップを図っているのだとか。 そりゃ足も疲れるだろう。


「あと20分程で出ますわよ? 疲れて動けないって人はお留守番してて良いけど……」

「行くよぅ」

「当たり前よね」

「だねぇ」


 どれだけ疲れていようが、留守番するぐらいなら這ってでも夏祭りへ行くという皆なのだった。


 時間になり、皆でコテージを出る。 夏祭りは少し歩いた先にある商店街でやっているらしい。

 先程まで疲れてだらけていた皆も、歩き始めると割と元気が良い。 わいわい話しながら歩いていく。


「夕ちゃん。 今夜は奈々ちゃんと紗希ちゃんには気を付けてね! 何か狙ってるみたいだから」

「お、おう」


 もう襲われた後だとは言えないなぁ。 亜美は「私も注意して見張るからね」と、もはや無駄な事を言っていた。


 夏祭りが行われている辺りまでやって来ると、賑やかな声が聞こえて来る。 地元の子供達だろうか?

 観光地ということもあり、観光客も多そうだ。 商店街と聞いていたが中々大規模な夏祭りのようだ。


「月ノ木の駅前のお祭りと変わらないぐらいの規模かしら?」

「そうねー。 中々楽しめそうだわね」

「渚ー、焼きそば買いにイクゾー」

「ちょいと待ちぃやー」


 麻美ちゃんは着くや否や焼きそば屋台を見つけて走って行く。 なんだ、麻美ちゃんは元気なんだな。

「亜美、私達も買いに行きましょ」

「うん」


 まずは腹ごしらえという事で、それぞれが好き好きに屋台へ散って、食べ物を買って来る。

 タコ焼きからお好み焼き。 焼き鳥なんてのも買って来ている人がいる。


「豪華な食事ってのも良いが、こういう雰囲気の中で食べる屋台食も良いもんだな!」

「うめー!」


 宏太と遥ちゃんに関しては何処で何を食べても同じだろうなぁ。 この2人は見る屋台見る屋台で足を止めては食べる物を買って食っている。


「2人は相変わらず凄い食欲だねぇ」

「もう見慣れた光景ですわね」


 さて、夏祭りの屋台は何も食べ物屋台ばかりでは無い。


「夕也兄ぃ! 輪投げやろー輪投げー」

「おっとっと」


 麻美ちゃんに手を引かれてやって来たのは輪投げ屋台。 よく見かけるやつだな。 ちなみに俺はあまり得意ではない。 これがバスケットボールなら余裕なんだがなぁ。

 麻美ちゃんに勝負を持ち掛けられるもあっさり敗北。

 奈々美や宏太にバカにされてしまうのだった。


「あら、千本引きがありますわよ」

「本当だねぇ。 皆で順番にやる?」


 千本引きは手前にある大量の紐を1本だけ選んで引っ張って、その先に付いている景品をもらうという、くじみたいゲームだ。 皆で順番に並び遊んでいく。 一番当たりっぽい物を引き当てたのは希望で、腕時計をもらっていた。 妙にくじ運の良い奴だな。

 他にも色々な屋台で遊んだり冷やかしたりしつつ、夏祭りを楽しむ。


「あ、ねぇ、花火売ってるよ!」

「本当だー! 買って皆でやろーよー!」

「良いですわね」


 屋台で売っていた手持ち花火を買って、後で皆で花火大会をしようという事になった。 手持ち花火なんて久しぶりにやる気がするな。

 夏祭りを19時半ごろまで見て回った俺達は、ゆっくりとコテージへと戻ってきた。

 

 花火をする準備をして浜辺へと出てきたところである。


「じゃあ始めますわよ。 花火のゴミは全部バケツに入れてね? ここは美化に力を入れている所だからゴミにはうるさいですわよー」

「はーい!」


 という事で、屋台で買ってきた花火を思い思いに楽しむ。

 こんなとこでも性格の差が出るようで、大人しい希望や亜美、渚ちゃんなんかは静かな花火でひっそり楽しんでいる。

 かと思えば、騒がしい麻美ちゃんや紗希ちゃんなんかは派手に火花が出る花火を持って遊んでいる。


「あんま振り回してると危ないわよ」

「大丈夫だよー! あははは!」

「まったく、小学生みたいにはしゃいじゃって……」


 そう言いながら線香花火を片手に持ち隣に腰を下ろしてきたのは奈々美であった。


「……さっきはごめんなさいね」


 小声で何故か謝ってくるが、謝られるような覚えが無い。

 何の事かを訊ねると、ワインセラーでの例のあれについて謝っているらしい。 まあ、持ち掛けたのは紗希ちゃんなんだろうが。


「私も懲りないわね。 以前あんな事があったのにまた浮気なんてさ」


 あんな事っていうのは妊娠疑惑騒動の事だろう。 たしかに一度あんな経験をしたらもっと慎重になっても良いはずだが。


「何でかしらね? あんたとは相性良いみたいよ」

「あのなぁ」

「ふふ。 まあ、やめなきゃいけないんだけどね」

「そうだぞ」


 そんな話を奈々美としていると、背後からぬぅっと姿を現す亜美。


「何の話ー? 今夜夕ちゃんを襲う話でもしてるのかな?」

「違うわよ。 それにその作戦はもうミッションコンプリートしてるし」

「えっ?! いつの間にっ?!」

「秘密ー」

「うぅーっ! 奈々ちゃんと紗希ちゃんめぇー」


 話を聞かされた亜美は、奈々美の背中をぽかぽかと叩きながら「許さないよぉ!」と、気の抜ける声で叫んでいる。

 本気では怒っていなさそうだな。


 11人でやるとあっという間に花火は無くなってしまった。

 最後にロケット花火を打ち上げ締める。


「さ、コテージに入りましょう」

「風呂だ風呂」


 後は疲れを癒して寝るだけだな。

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