第779話 悪巧み

 ☆奈々美視点☆


 ビーチフラッグ大会も終わりまたもや自由行動となった私達。 私はというと紗希と2人で飲み物を買いに近くの海の家へとやって来ているわけだけど。


「奈々美。 ちょっと相談あるんだけど」

「相談? 珍しいわね、あんたが私にだなんて」


 紗希が私に何事か相談に来る事はほとんど無かった。 大体夕也とか奈央に相談している事が多い印象ね。


「相談ってのはさ、今夜さ、今井君を人気の無い場所に連れ出して……」

「却下」

「まだ最後まで聞いてないじゃーん」

「聞かなくてもわかるわよ……どうせ夕也を襲いたいから協力しろってんでしょ?」

「ご名答!」

「はぁ……とにかく却下」


 この紗希という子は自分のお気に入りの男なら割と誰でも良いらしい。 もちろん彼氏の事は特別大事に思っているんだけど夕也の事も相当お気に入りらしく、体だけの関係でも構わないと思っているみたい。 えち友ってやつかしら?

 まあ、私も夕也とならそういう関係もアリかなと思わないでもないけど。 私の場合は夕也の事も割と恋愛対象に入るから本気にならないかっていう問題があるのよね。


「大体なんでそんなことを私に相談するわけ?」

「そりゃあんた、私の同志な気がしたからじゃん? あんただってたまには佐々木君じゃなくて今井君とムフフしたいとか内心思ってんでしょ? ん? 正直に言ってみ?」


 と、ジト目でこちらを見ながら「ほらほら」と急かしてくる。 この子、私の内心を見透かすように。


「そりゃまあ、夕也とならとは考えなくはないわよ? 実際2回はそういう事しちゃってるし……」

「だしょー? ほれほれ、2回も3回も一緒一緒」

「……」

「どうせ大学の帰りとかにホテルとか行って襲いたいとかたまに考えてるくせに」

「っ?!」

「ありゃ、図星だった?」


 な、何でそういう所にいちいち鋭いのかしら。 侮りがたし神崎紗希。


「……2人で襲うわけ?」

「奈々美も参加したいならね」

「むぅ」


 亜美や宏太にバレたら面倒そうだしやめた方が良いとは思っているんだけど、いやーでもちょっとぐらいは良いかなぁとか思う私がいるのもまた事実。


「わかった、乗るわ」

「よし、チーム結成」


 私って悪い女ね。


「で、いつ決行するわけ? 人気のない場所とか目処は立ってるわけ?」

「時間は深夜。 今井君には相談があるとか言って上手く呼び出すわ。 場所なんだけど、実はあのコテージ昔1回連れてきてもらったことがあってね。 地下にワインセラーがあるのを知ってるのよ」

「思ったより本気で襲う気なのね……」

「まぁね」


 協力するって言ったしもう後には退けないわね。 こうなったら覚悟して臨むしかないわ。


「じゃ、今夜はよろしく!」

「はいはい」

「じーっ……何がよろしくなのかな?」

「って、亜美?!」

「ひぇっ?!」


 何故か物陰からこちらをジトッとした目で見つめる亜美がいた。 ヤバくない?


「全部聞いてたよぉ? 紗希ちゃんはまだしも奈々ちゃんまでそれに乗るなんて」

「あ、いや、その」

「きゃはは……」

「まったく、ダメだからね?」


 亜美はそう言い残して何処かへ去って行った。


「亜美にバレたけどどうすんのよ? 監視きつくなるわよ? 諦める?」

「え? 諦めないわよん? さっきの予定はブラフよブラフ」

「ブラフ?」

「うむ。 本当の決行予定時間は今からよ!」

「はぁ?」

「実は亜美ちゃんの気配を察知して嘘の作戦をあんたに話したのよん。 既に今井君は呼び出し済み。 コテージで待ってれば向こうから勝手に来るわよ」


 この子、そういう悪知恵を働かせたら右に出るもの無しね。 亜美を出し抜くなんてやるじゃないの。

 紗希はパーカーを上から羽織り「さあ行くわよ!」と元気良くコテージへ戻るのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 紗希と2人でコテージへと戻ってきた私は、入り口の前で夕也を待つ。 イケナイ事をしようとするとドキドキするわね。

 しかも真昼間から。

 夕也とそういう事をしたのは、高2の夏だっけ? 台風で帰れなくなった日に学校でって……今考えるとぶっ飛んでるわね。


「あ、来た来た」

「……」

「あれ、奈々美は何でいるんだ?」

「紗希に手伝えって言われたのよ」


 何をとは言わないけど。 一応嘘はついてないし。


「そうか。 で、何するんだ?」

「まあ、ちょっと来てちょ」


 紗希は怪しまれないようにしながら夕也をコテージへ誘導。 更には地下のワインセラーへと進んで行った。

 夕也、無警戒過ぎない? 紗希と私のコンビなんて警戒度マックスでしょ。


「へぇ、こんな部屋があったなんて紗希ちゃんよく知ってたな? ワインセラーか?」

「そうよん。 昔ここには奈央に連れて来てもらった事があるの。 大人になったらここのワイン2人で開けようって約束してるのよ」


 と、昔話を聞かせてくれる紗希。 良いわね、そういう約束。


「で? この部屋で俺は何すれば良いんだ?」

「むふふ。 今井君はー、私達に大人しく襲われてくれれば良いのよん!」


 紗希が私に合図を送る。 それを受けて2人同時に夕也を拘束して無理矢理押し倒す。



「ぐおっ?! な、何をするー?!」

「何をってナニに決まってるじゃんー。 奈々美、しっかり押さえておくのよ」

「ごめん夕也。 許してくれとは言わないわ」

「は、離せ奈々美ー!」


 ワインセラーに夕也の悲痛な叫びがこだまするのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 途中までは紗希や私にされるがままだった夕也だけど、理性がぶっ飛んだのか急に私達2人に逆襲してきたりして中々大変だったわけだけどとりあえずは一段落。


「……はあ、やっちまった」

「……はあ、やっちゃった」


 私と夕也は頭を抱えて自己嫌悪に陥いる。 紗希だけは何か満足そうに「良かったわよ」とか言って笑っていた。


 その後、私は夕也に平謝りして何とか許してもらえたわけだけど、本当こういうのは控えた方が良いわね。 後から凄い罪悪感に駆られるわ。


 3人で別々にビーチへ戻り、それとなく自由行動に移る。 おそらくは亜美や他の皆にはバレてないと思うけど。


「なはは、お姉ちゃん発見! あるぇ? ジュースは?」

「え? あー」


 そういえば麻美にも飲み物を頼まれてたんだったわ。 すっかり忘れてた。


「ごめんなさい。 忘れてたわ」

「ぶー! 待ってたのにー!」

「ごめんてば。 今から一緒に買いに行きましょ」

「イクゾー!」


 はあ……。


 2人で海の家にやって来てジュースを選んでいると、麻美が話しかけてきた。


「ねーねーお姉ちゃん。 実は相談があるんだけどー」

「え? 相談? 何よ急に」


 あれ? 何かデジャブを感じるやりとりなんだけど?


「実はさ、今夜夕也兄ぃを襲う計画を立ててるんだけど、お姉ちゃんに……」

「却下ーっ!」

「のわっ?!」


 どうして私の周りの子は揃いも揃ってこうなのよ?! まったくもう、やるなら1人でやりなさいっての。

 案の定「ぶー!」と文句を言う麻美だけど、さっきあんな事したばかりで今夜もやれとか無理に決まってるっての。

 何とか麻美を説得して諦めさせるのに苦労する私なのだった。

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