第763話 夜の有馬
☆亜美視点☆
さて19時前となり、私達は夜の有馬散歩へと繰り出すことになったよ。 といっても夕飯が近いのでお昼に見に行った2つの橋や、蛍を見に行くぐらいの様だけど。
その後は夕食を食べて温泉に浸かって就寝。 1日目は終了である。
今日で温泉街の観光をほとんど終えちゃったような気がするけど明日はどうするんだろう?
「では行きましょうか」
「おー」
今日1日結構動き回っているにもかかわらず疲れを見せない皆。 さすがアスリートといった感じの体力である。
「では太閤橋からー」
というわけで、お昼と同じルートを回ることに。 旅館から2つの橋はそれ程遠くはないのであっという間に着くだろう。
「夜になると街の雰囲気も結構変わるのね。 所々ライトアップもされていて綺麗だわ」
「そうねぇー。 あ、橋も見えて来たわよ」
夜の温泉街の街並みを見ながら歩いていると、まずは太閤橋が見えてきた。
「おお、欄干にある灯りがほんのり灯って綺麗ね」
「遠くから見た方が綺麗かも?」
「じゃあねね橋から見ると良いのかもなぁ」
そうだった。 ねね橋からここが見えるんだったね。 一応太閤橋を渡ったり写真撮影行う。
他の観光客さんもいるので手早く済ませるよ。
「よし、次はねね橋だー!」
「ごーごー」
麻美ちゃんと紗希ちゃんは元気に手を上げながら歩いていく。 何故か反対方向に。
「そっち逆方向ですわよ?」
「なはは、ねね橋はどこだー!」
麻美ちゃんって実はちょっと方音痴なのかもしれないね。
方向転換して元気に歩き出す麻美ちゃんの後に続いて私達も歩き出す。
そして今度は、幻想的にライトアップされた赤い欄干のねね橋が見えてきた。
「うはぁ、綺麗だなー」
「だな。 昼とはまた別物に見えるぜ」
下からライトアップされた赤い橋と、緑に色づいた木の葉が、実に美しいコントラストを生み出している。 昼と夜で別の顔を持つ2つの橋。 1つで2度楽しめて2つで4度楽しめる橋である。
しっかりとねね橋の夜景を撮り満足した私達は、本日最後となるホタル観賞に向かう為に移動を開始した。
ねね橋から伸びる滝の道を上流に向かって歩いて行くらしい。
「ホタル見られるかな?」
と、私が気にしていると、宏ちゃんが「ふふん」と偉そうに説明を始める。 昆虫にも精通しているのである。
「日本で見られる主なホタルにはゲンジボタル、ヘイケボタルってのがいるんだが、ゲンジボタルの見頃は6月から7月頃。 残念ながら見頃はとっくに過ぎてしまっている」
「はぅ……ホタルさん見れないのぅ?」
「だが、ヘイケホタルは8月でもまだ見られるホタルなんだ。 この時期は少なくはなってるだろうけどまだ見られると思うぜ」
「さっすが佐々木君。 昆虫博士!」
「ふふん」
普段は皆から馬鹿にされている宏ちゃんも、生き物の事となればこの中の誰よりも詳しいのである。
ちなみに麻美ちゃんも無駄に詳しい。 特にクワガタムシかカブトムシについて何故か異様に詳しかったりする。 多分宏ちゃんから教えてもらったのだろう。
私はヒラタさんしか覚えてないよ。
歩いていくと横を流れている滝川と交差する形になり橋が架かってる。 それを渡ると、ます池と呼ばれる池が見えてきた。 さらに奥へと進んでいくと橋がまた架かっていた。
「あの辺から見えるはずよー」
「おー!」
そう聞いて、麻美ちゃんと紗希ちゃん、そして希望ちゃんも走り出す。 暗いから足元に気を付けないとこけるよ。
「元気やな……」
「だねぇ」
苦笑しながらゆっくりと歩いていき川の方に目を向けると。
「ほわぁ」
「いるいるー」
「おお」
「私、野生のホタルって初めてや……」
「私もだよ」
川の方には時々黄色く点滅するように光る点がいくつも漂っている。 とても幻想的な光景である。
「動画撮ろ」
紗希ちゃんがスマホを取り出して動画を撮り始める。
「ホタルは寿命が短いんだ。 この夏の間に子孫を残すために、必死に光ってるんだぜ」
「なんかセミみたいですね」
「昆虫ってのはほとんどがそういうもんだよ。 越冬して翌年もってのは比較的少ない」
「なるほどねぇ」
宏ちゃんの昆虫蘊蓄を聞きながら、しばらくの間ホタル観賞に浸るのでした。
◆◇◆◇◆◇
夜の散策を終えた私達は、男女部屋に分かれて夕食を頂く。
「今日はお疲れ様でした。 明日は明日でまだ見る所はあるから安心してね」
「見るとこっていっても、この辺一帯は今日でだいぶ見て回ったでしょ?」
「温泉テーマパークには明日行くって聞いたけど他には?」
「今日、滝へ行く途中に見たロープウェイの駅があったでしょ? 明日はあれにぃー」
と、もったいぶるような態度を見せながら希望ちゃんと渚ちゃんの方を向いて意地悪そうな顔を見せる奈央ちゃん。 あ、察し。
「乗ります!」
「はぅーっ!?」
「ぎゃああ!」
ロープウェイに乗ると聞いた途端に悲鳴を上げる2人。 どうやら相当怖がっているようだ。
希望ちゃん、高い所は大丈夫だったと思うんだけど、訊いてみると高い所は大丈夫だけど、あんな頼りない電線にぶら下がっているだけの乗り物、いつ落ちるかわからないと思うと怖いという。 それには渚ちゃんも頷いた。 なるほどねぇ。
「大丈夫だろ。 そんな落ちてたら今頃そこら中でニュースやってるさ」
遥ちゃんがそうやって笑いながら茶化すと、希望ちゃんが「もしかしたら明日落ちるかもだよぅ!」と必死になってロープウェイの危険性を力説していた。 大丈夫だと思うけどねぇ。
「希望と渚の怖がりはもう重症ね」
「生まれつきです」
「はぅはぅ」
怖いなら明日は留守番でもしているかと訊くと、それはそれで嫌だと答える2人。 我慢してロープウェイに乗る覚悟のようである。
◆◇◆◇◆◇
本日2度目の入浴。
「はぁ、生き返るわねぇ」
「奈々美は相変わらずねー」
「いいでしょう、生き返るんだから」
「別に死んでたわけじゃないでしょ?」
面白いねぇ。
「これが銀泉ってやつなんだよな?」
「そうだよ」
「明日は金泉にも浸かるんだよねー?」
「えぇ。 金泉銀泉、サウナに岩盤浴など色々とあるのよー」
「有馬温泉を隅々まで堪能してやるぜー」
「おおー」
「ロープウェイだけは堪能でけへんでぇ……」
渚ちゃんと希望ちゃん、まだどんなこと言ってるんだねぇ。
そういえば男子グループにはまだ明日の予定聞かせてなかったね。 まあ明日で良いのかもしれないけど。
「明日はロープウェイでどこへ行くのか聞いてなかったけど、ロープウェイって事は山よね?」
紗希ちゃんの質問に奈央ちゃんが頷いて答える。
「六甲山よ。 聞いたことぐらいはあるんじゃない?」
「名前ぐらいは」
「私は知らん」
「関東の人やと案外知らんかもしれへんですね」
私は六甲山の事もそれなりに調べて知っている。 そっか、明日は六甲山を観光するんだね。
「明日は夕食も六甲山のレストランで食べますわよ。 夜景がとても綺麗だと聞いてますわ」
「おお、それは楽しみね」
「つーか腹減ったー。 飯まだかー」
「温泉に浸かってる時ぐらいは忘れられないの?」
明日は六甲山を観光。 楽しみである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます