第764話 怖い事
☆亜美視点☆
さて今宵も後は寝るだけとなった有馬温泉での初日。 今回は男女別部屋に分かれての就寝となるので、紗希ちゃんや麻美ちゃんも変な行動を起こしたりはしないだろう。 その辺は安心である、
「渚ちゃん今から勉強?」
「あ、はい。 初日の観光は終わったんでここからは勉強時間にと思いまして」
まぁ、夕方には無理矢理連れ出しちゃったしねぇ。 家庭教師としてもあまりやるなとは言えないけど……。
「根は詰めすぎないようにね」
「はい」
「わからないとこは聞いてね。 まだ起きてるから」
「はい、助かります」
うんうん。 頑張ってるね。
「私もちょっとやるー」
と、意外にも麻美ちゃんも勉強道具を持ってきていたようで、渚ちゃんと一緒に部屋の隅の方にテーブルを置いて2人で仲良く勉強を始めた。
「ふわぁ……私はもぅ寝るよぅ……すー」
「あはは。 おやすみ希望ちゃん」
いつも早寝の希望ちゃんは、周りが明るかろうが騒がしかろうが、寝ると決めたら寝る。
ある意味特技の域に達している。
「電気は消してもろ手大丈夫ですよ。 スタンドあるんで何とかなります」
「何とかなるー」
「じゃあ適当に電気消すわよ」
「はい」
「あなた達も早く寝るんですのよー。 明日も観光があるんだから」
「はい、大丈夫です」
まあ麻美ちゃんもいるし大丈夫だろう。 私は布団に入ってウェブ小説を読み倒す事にする。 実は最近のマイブームなのである。 世に出ていない作品の中でも素晴らしい作品は多々ある。 そういうのを発掘するのもまた楽しみなのだ。
ずっと読んでいると眠気がやって来たのでそろそろ寝ようかな。 ちらっと部屋の隅を見ると、2人の後輩はまだ頑張って勉強を続けているようだ。
邪魔しないように心の中で「おやすみ」と告げて眠りについた。
◆◇◆◇◆◇
どれくらい眠っただろう。 深夜にふと目が覚めてしまった。
どうやら麻美ちゃんと渚ちゃんも眠ったらしい。
「ん……」
しかし、代わりに誰かのシルエットが月明かりに照らされるように映る。
「奈々ちゃん?」
「ん? あら、起きたの?」
「何か目が開いちゃった」
奈々ちゃんはたまに夜目が覚めてああやって起きる事があるらしい。
「ちょうど良いわ。 これから2人で深夜風呂行かない?」
「良いね。 賛成だよ」
温泉大好き奈々ちゃんに誘われて、深夜の有馬温泉を堪能する事にした私。
「他に誰か起きては……」
と、辺りを見回してみると……。
「起きてるよー……」
「私もです」
と、小さな声を上げる人物が2人。 受験勉強をしていた麻美ちゃんと渚ちゃんである。
どうやらちょっと前まで受験勉強に励んでいたらしい。
奈々ちゃんが起きるのも見ていたが、あえて声はかけなかったとの事。
「一緒に行く?」
と訊くと、2人はノータイムで頷くのだった。
皆好きなんだねぇ。
寝ている皆を起こさないように気を付けながら、そろりと部屋を出て浴場を目指す。
「この時間混浴もあるのよね? 夕也と宏太も起こしちゃう?」
「寝てるのに起こしてまで混浴しなくても良いんじゃないかな?」
「なはは」
「ですね」
というわけで、私達4人で女湯に浸かる事に決定した。
浴場へ来てみると、この時間でも私達以外に数人の人が温泉に浸かっていた。
私達と同じく、夏季休暇中の大学生だろうか? 数名のグループでのんびりと過ごしているね。
「はぁ……目が覚めるわー」
と、奈々ちゃんは大きく伸びをする。 これから寝なきゃいけないのに目が覚めちゃダメじゃん。
「お姉ちゃんさ、夜中に目が覚める割合ってどんくらいー?」
「んー? そうねぇ、10日に1から2回あるかどうかね」
「意外と普通に寝れる日が多いんだねぇ」
「そうね。 大体、亜美だって今日は目が覚めたじゃない」
「まあね。 でも私は普段全然無いよ?」
「私もだー」
「私も寝たら基本は朝までぐっすりや……」
「ふぅん。 私なんか変なのかしら?」
と、首を傾げる奈々ちゃん。
「健康に支障が無いなら大丈夫だと思うけどねぇ。 頻繁に寝れなくなるなら病院行った方が良いけど」
「別に平気だしいっか」
特に悩んでるというわけでもないという話は以前にも聞いた事がある。 奈々ちゃんが平気なら私からは何も言う事はない。
「渚、ロープウェイ楽しみねー?」
「うっ……」
奈々ちゃんが意地の悪い顔をしながら渚ちゃんをイジリ始めた。 意地悪スイッチ入っちゃったみたいである。
「何か話によると、側面が大きなガラス張りになってて下とかがよく見えるみたいよ」
「ひぃっ?!」
渚ちゃんは温かいお湯に浸かっているのに、まるで水風呂にでも浸かっているかのようにブルブルと震え出した。 きっと想像しちゃったんだろうね。 奈々ちゃんと麻美ちゃんは、そんな渚ちゃんを見てニヤニヤと楽しそうである。
明日はきっと希望ちゃんも同じような目に遭うのだろう。
「うう……あ、麻美や先輩達は何か怖い事とか物ってあらへんのですか?」
半べそをかきながらも何とか反撃に転じようと試みる渚ちゃん。
怖い事、物か。
「私はねぇ、皆と一緒にいられなくなる事が一番怖いかなぁ」
これは本当の事だ。 いつまでも皆仲良く一緒っていうのはきっと凄く難しい事だとわかってはいる。
いずれは皆、想い想いの仕事に就き、結婚なんかもして離れ離れになっていくものだ。
わかってはいても、やっぱりそう考えるのは怖いと思う自分がいる。 それだけ皆が大好きだからだ。
出来る事ならお爺ちゃん、お婆ちゃんになっても皆で集まって笑い合いたいと思う。
「そうね。 私はそれも怖いけど、亜美に縁を切られるとか考えたら怖いわね」
「私が奈々ちゃんと絶交するって事? 有り得ないよ!」
「なははー。 想像出来ないー」
「やっぱりずっと仲良えんですか?」
「喧嘩ぐらいはするけど、すぐに仲直りするよ」
「そうね」
私が奈々ちゃんと絶交するなんて事は絶対に無いと言い切れるよ。 奈々ちゃんの方からも絶対に無いよ。
奈々ちゃんとだけはお互いお婆ちゃんになっても仲良く笑い合ってるよ。
「ええですねぇ」
「私と渚もそうじゃんー!」
「は? 何言うてんの。 私とあんたはこの2人に比べたらまだまだやん」
「この2人と比べちゃダメだよー」
「あはは。 2人は2人で結構仲良しだよね? 喧嘩とかするの?」
「まあ小競り合いはしょっちゅうやってますよ」
「なはは」
多ああ、よく見かけるね。 あれぐらいは仲良くじゃれ合ってるってレベルだし喧嘩にもなってないねぇ。 でも本当の親友っていうのは喧嘩する時は真剣にケンカしないとダメだって思うんだよね。 私も奈々ちゃんも喧嘩する時は本気だしね。 もちろんとっ組合いとかにはならないようにしてるよ。 手を出すのは良くないし。私が奈々ちゃんに勝てるわけないしね。
「まあ仲良くしようじゃないかー。 なはははー」
麻美ちゃんは深夜だというのに元気笑いながらそう言うのだった。
◆◇◆◇◆◇
温泉から出て部屋に戻ってきても皆寝息をすやすやと立てていた。 奈々ちゃんも温まったし寝られそうという事で布団に入って寝るようだ。
「おやすみー」
「えぇ」
朝になったらまた観光だ。 楽しみだよ。
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