第758話 2つの橋

 ☆希望視点☆


 女子の皆で温泉に浸かり部屋に戻って来ると、テーブルの上には豪華な昼食が用意されていた。

 遥ちゃんは「早く食べようぜ」と皆を急かす。 よっぽどお腹が空いてるみたいだ。


「はいはい。 それではいただきましょうか」

「いただきます!」


 ということで、午後の観光前にお腹一杯食べるよぅ。

 って言っても、私は少食だからあまり入らないんだけど。


「うめー。 温泉玉子かー」

「遥は本当に静かに食べられないわねー」

「いつもの事ですわよ」

「でも本当に美味しいー。 この冷麦もー」


 どうして他の人が作った物って美味しく感じるんだろう? 少食な私でもどんどんいけちゃうよ。


「男子ももう食べてるかしら?」

「時間は同じにしてもらってるから多分」

「じゃあ今頃あっちでは宏ちゃんが『うめー!』って言いながら食べてるだろうね」


 亜美ちゃんが笑いながらそう言う。 その姿が簡単に想像出来ちゃうね。


「これを食べて少し休憩したら、また外へ繰り出しますわよー!」


 奈央ちゃんもまた普段とはテンションの高さが違うみたいだよぅ。 次は何か橋を見に行くって話だけど一体どんな橋なんだろう?


「はぅっ?!」

「どうした希望ちゃん?」


 橋といって思い浮かんでしまったのは吊り橋という、何でこの世に存在するのか甚だ疑問の残るあの怖い恐い橋であった。


「つ、つ、吊り橋じゃないよね?」

「うげっ?!」


 私がその名を口にした瞬間、同じように怖がりな女の子である渚ちゃんがそんな悲鳴に似た声を上げた。

 私と渚ちゃんに緊張が走る。 奈央ちゃんの顔を凝視してじっと返答を待っていると、奈央ちゃんはゆっくりと、そして不敵に笑った。


「はぅ……」


 ガクガクと震える私と渚ちゃん。 吊り橋はもうダメです。 あんな高いところにロープ数本で支えられているだけの橋なんか、頼りなさ過ぎて足を乗せることすら無理です。


「違うわよー」

「……違うの?」

「希望ちゃん。 見に行くのは普通の小さな橋だよ」


 ど、どうやら吊り橋ではないという事らしい。 良かった良かった。 でも、普通の小さな橋が観光スポットって一体何なんだろう?


「ほっ……良かった。 吊り橋やったら私は旅館で留守番してよか思いましたよ」

「そんな事しようとしても私が引っ張って連れてくから無駄だぞー! うわはは」

「希望ちゃん、そんなんで幼稚園の先生になれるのかい……?」


 と、遥ちゃんに将来を心配されてしまう。 よ、幼稚園の先生は別に怖がりでも問題は無いと思うんだけどなぁ。 幼稚園の先生って吊り橋とか渡らないよね?


「奈々ちゃん。 希望ちゃんのアガリ症克服の特訓の次は怖がり克服の特訓だね!」

「面白いわねそれ」

「……」


 こちらはこちらで何やら怪しい事を企んでいるみたいです。 アガリ症の克服の特訓もだけど、わたわたしている私を見て何処か楽しんでいる雰囲気があるんだよね。 人前でコスプレさせられたりと中々大変な目にも遭ったよ。 今度は何をさせられるやら。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 お昼ご飯を食べ終えた私達は、男子達と合流して再び有馬温泉周辺の観光へ出かけます。

 有馬温泉街の観光スポットはバスも出ていたりするみたいだけど、私達はゆっくりと歩いて散策する事になりました。 皆若いし健脚揃いだもんね。


「さて! ではいきましょうか。 まずはここから太閤橋を見ますわよ」

「おー」


 太閤橋という橋らしいよ。

 ここで亜美ちゃんの蘊蓄タイムだよぅ。


「有馬温泉は、かの豊臣秀吉が愛したとされる場所なんだよ。 そんな秀吉にちなんで名付けられたのが太閤橋なんだねぇ」

「豊臣秀吉……大学入試で出そうやな!」

「なはは。 また受験の話してるー」


 私も豊臣秀吉さんについて詳しくは知らないけどなぁ。 天下統一をした人ってぐらいだよぅ。


 少し歩いて行くと、それほど大きくは無いけどそれでも立派な橋が姿を現した。


「ここが太閤橋ね。 あっちには秀吉像があるみたい」

「おー! 私が秀吉だー!」


 何故か豊臣秀吉になりきる麻美ちゃん。 そもそも秀吉ってそんな快活な人だったのかな?


「よし、橋の上で写真撮ろうぜ!」


 今回は珍しく宏太くんが写真撮影を提案。 当然誰も反対する人はいないのだけど、アングルに拘る人はいるみたいだよ。


「写真撮影ならアングルはこっちね」

「お、おう?」

「あっちにも赤い橋が見えるでしょ? 後からあの橋にも行くんだけど、この太閤橋とあっちの橋はちょっとした関係があるのよ」


 たしかに視線の先には赤い欄干の橋が見えている。 景観も綺麗だし背景には良いね。

 私達はその赤い橋をバックに写真撮影。

 

「あの橋とこの橋の関係って?」


 と、紗希ちゃんが奈央に解説を求める。

 たしかにどういう関係なんだろう?


「あっちの橋の名前は、ねね橋って言うのよ」

「ねね橋? 女性の名前の橋か?」


 夕也くんが首を傾げると、麻美ちゃんが笑いながら言う。


「秀吉の正室……奥さんの名前だねー」

「ほう、なるほどな。 こっちが秀吉にちなんだ橋で、あっちが秀吉の奥さんにちなんだ橋ってわけか」

「そういう事ですわよー。 あちらにはねねの像もあります」

「じゃあ、向こうからはこっちの橋が映るように写真撮ろうぜー」

「ええですね! 夫婦の橋やなんてロマンチックやな」

「だねぇ」

「じゃあ行きましょう」


 ということで奈央ちゃんに続いて、次なる目的地ねね橋へと向かう。 まあ見えてるんだけど。

 見えている橋まで歩いて行くよぅ。


「夕也兄ぃ! 私が夕也兄ぃの正室になってあげるぞー! なーはははー!」

「麻美ちゃん何を言ってるんだよ……」

「麻美ちゃんっ!」

「亜美姉には負けないぞー!」


 私と渚ちゃんを差し置き、亜美ちゃんと麻美ちゃんが争う。 私だって負けないんだから。 ただ、最近は夕也くんとも距離があるような気がするし、もうちょっと積極的にいかないとね。


「着きましたわよ。 こちらがねね橋。 あっちに見えるのがさっきまでいた太閤橋。 あそこに見えるのがねね像ね」

「赤い欄干が綺麗だわねー」

「桜の木もあるし、春にはもっと綺麗になりますわよ」

「春に来たかったよぅ」

「まあ、春は忙しかったし仕方ないわよ」

「写真ターイム!」


 麻美ちゃんの言葉に皆頷き、今度は太閤橋をバックに写真撮影を行う。 更にはねねさんの像の前にも並び写真撮影。


「太閤橋とねね橋はこんな物かしらね。 夜にもう一度見に来ますわよ。 ライトアップされていてまた違った雰囲気が楽しめるみたい」

「それは良いですね。 僕は幻想的な風景の方が好きですよ」


「北上君は何かそういったミステリアスな雰囲気がめっちゃ似合うわよねー」


 紗希ちゃんの言うように、何故かそういうのがよく似合う男の子だ。 見た目も何処となくミステリアスな感じだからかな?


「で、橋を見終わったわけだけどこの後は?」

「金の湯経由で念仏寺を見に行きますわよー」

「ね、念仏……」

「それほど遠くないから歩くわよー」


 と、元気よく歩き出す奈央ちゃんの後ろをゾロゾロとついていく。

 有馬温泉街はまだまだ見所一杯のよぅです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る