第757話 滝を見に
☆奈々美視点☆
観光バスに乗り宿泊予定の旅館へと向かいながら、奈央から今回の旅行のスケジュールを説明してもらう。
まずは初日のスケジュール。 有馬温泉周辺の有名なスポット巡りという事みたい。 明日の予定はまた今夜にでもということらしい。 相変わらずもったいぶるわね。
「今日は夜にはホタルを見に行きますわよー。 見頃は過ぎているそうだけど、ヘイケボタルがまだ少しは見られるみたい」
「おお、ホタル!」
「へぇ、
ホタルって実際にはほとんど見たことないのよね。 水の綺麗な川とかそういう場所の近くで見られるって聞くけど。
「ね、宏ちゃんが解説したそうにこっちを見てるよ?」
「ほっときなさい」
「うおい! 生き物といえば俺だろ?!」
「別に聞かなくても生きていけるし」
「あ、あはは」
結局は心優しい希望が宏太にホタルの生態についての説明をお願いしたことで、宏太の欲求は満たされたんだけれど。
「さ、旅館に着きますわよー」
バスに乗ってまだ20分といったところだけど、どうやらもうすぐ旅館に着くみたいね。
◆◇◆◇◆◇
バスから降りると、そこにはこれまた立派な佇まいの和風旅館が目の前に現れた。
老舗……というわけではなさそうだけど。 奈央の話によると、古い和風旅館を改装した物だと言う。
あぁ、また西條グループの旅館なのね。 どんだけ手が伸びてるのかしら?
「さあ入った入った」
と、小さな体で私達を先導してあるく奈央。 大学生になってもちっこいわね。
奈央の話では、今回の部屋は男女に分けてあるらしい。 まあその方が良いわよね。
「荷物はもう届いてるみたいね。 こっちよ」
先に歩いて行く奈央の後について行くと、千葉でトラックに載せた荷物が既に置いてあった。
本当に空輸しちゃったのね。
「皆、自分の荷物はある?」
確認すると、間違いなく全員分の荷物がある。 また無かったら困るわよね。
荷物を手に持って、それぞれの部屋へ向かう事に。
男女の宿泊部屋は隣同士。 行き来するのは簡単そうね。
「ふう。 ではとりあえず10時前は旅館を出て観光に行きますから、それまでは部屋で寛いでてね」
奈央が男グループにそう伝えて一時解散。 時間は現在9時という事で少しゆっくり出来るわね。
「にしてもまた広い部屋ね」
「そりゃ女子は8人いますもの。 広い部屋を取るわよ?」
「4人ずつに分けるとか」
「皆いた方が賑やかでいいと思うよ」
「なはは、そうだー」
「まあ、そうね」
「麻美1人で3人分ぐらいは騒がしいやん……」
「たしかに」
「神崎先輩だってー!」
「私は精々2人分ぐらいよん」
まあ賑やかな事に越した事はないか。
希望と遥はまだ少し眠いみたいで横になって目を閉じている。 希望に関してはもう完全に寝息をたてているわ。
さて、部屋の方は布団8人分ぐらいは余裕で敷けそうな広い部屋に、これまた大型モニターのテレビやカラオケ装置、無駄に高そうなテーブルに、外の景色が見られる大きな窓。 窓の外には湯気が立ち登る風景が映し出されているわ。
「温泉、早く浸かりたいわね」
「奈々ちゃん、また年寄り臭いね」
「うっさい」
「温泉は後の楽しみよ? まずは観光よ観光」
「きゃはは。 まずは滝だっけ?」
「えぇ。 ここに来たら見ておかないと」
最初の観光スポットは滝という事よ。 滝って風情があって良いわよね。 夏場は滝の近くで涼を取るのも乙な物よ。
◆◇◆◇◆◇
10時前となり、男子グループを呼び出して旅館の外に集合。
ここから歩いて行くようよ。
「ここからロープウェイの有馬温泉駅へと向かいますわよ」
「はぅっ?! ロープウェイ……」
「た、高いとこはあかんのやぁ……」
希望と渚はまた怖がっているわね。 本当に怖がりなんだから。
「大丈夫だよロープウェイには乗らないから」
「良かったよぅ」
「可愛いなぁ希望は」
というわけで、旅館から歩き目的の有馬温泉駅へ到着。
「ここから歩いて更に10分ぐらいよ」
奈央が先導する中、景色を楽しみながら遊歩道をゆっくり歩き始める。
見たところ桜の木やカエデが見られることから、春や秋に来ると綺麗なんだろう。
夏のこの時期はどの木も青々と茂っているわ。
約10分程歩くと、目的地である滝が姿を現した。
それほど大きな滝ではないわね。
「鼓ヶ滝という滝よ」
「へぇ」
「アミペディア」
「むぅ……鼓ヶ滝は有馬6景にも数えられる高さ約8mの滝だよ。 昔は滝の落ちる音が鼓を叩いた時の音みたいだったからその名前が付けられたみたい。 今は改修されちゃって音は鳴らなくなっちゃったんだって」
「さっすが亜美ちゃん!」
本当に物知りね。
にしても夏だっていうのに中々涼しいわね。 しばらくここでゆっくりしたいわ。
「よーし、皆で滝をバックに写真撮るわよー!」
と、紗希がカメラを取り出して他の観光客を素早く捕まえる。 あまり手間を取らせないように、急いで並びポーズを取る。
「ありがとうございました!」
「有馬での記念すべき1枚目だねぇ」
「そうだな」
また私達の思い出の写真が1枚増えた。
皆と出会ってから、一体どれだけの写真が増えたのかしら?
滝をしばらく眺めてから、近くの茶屋で少しゆっくりとして公園を後にする。
◆◇◆◇◆◇
鼓ヶ滝を見終えた私達は、一度旅館へと戻って来たわ。 どうやらお昼は旅館でいただくらしい。
それまでは自由行動となった。
となれば!
「亜美。 温泉浸かりに行くけどどうする?」
「奈々ちゃんも好きだねぇ。 あ、もちろん私も行くよ」
「私もイクゾー」
「私もサッと汗流しちゃおっかな」
と、あれよあれよと言う間に皆が便乗。 結局は女子全員が温泉に浸かりに行く事となったなった。
何よ。 皆好きなんじゃないの。
着替えを持っていざ温泉へ。
──。
「はー……極楽極楽」
「うわわ、出たよ年寄り奈々ちゃん」
早速亜美にツッコミを入れられるも、反論する気すら起きないぐらいに気持ちいい。
「本当に最高ねー。 真昼間から温泉に浸かって贅沢贅沢」
紗希は紗希で頭の上にタオルを乗せて温泉を堪能しているらしい。
「西條先輩。 昼からは何処へ行くんです?」
「橋を見に行くわよ」
「は、橋? 有名な橋なんやろか?」
「渚はバカだなー」
「麻美かてっ……あかん、麻美は頭ええ方やった」
「ぬわっははは!」
賑やかな子達ねまったく。 温泉はこう静かにのんびりと浸かって楽しまなきゃ。
にしても橋って……。
「亜美ちゃん。 橋って?」
「んん? 行ってからのお楽しみだよ」
「えぇ……」
希望が亜美に聞いてみるも、亜美ももったいぶって教えてはくれないらしい。 そんなに凄い橋なのかしらね? じゃあ楽しみにしておきましょ。
「腹減ったー」
「はあ、遥は本当にしょうがないですわねー。 温泉から出たら部屋に準備されてるはずだからもう少し我慢なさい」
「早く上がろうぜ!」
と、温泉より食事の方を優先する遥なのだった。
もうちょっと温泉を楽しみなさいよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます