第756話 いざ有馬温泉へ
☆夕也視点☆
本日は8月18日。 皆で旅行へ出かける日だ。
今日から二泊三日での旅行。 行き先は兵庫県の有馬温泉という事だ。
その旅行から帰って来た3日後にも海水浴旅行が予定されているのだが、それはまた後の話だ。
「夕ちゃん夕ちゃん! 朝だよ! 起きてるー?」
「起きてるっての」
「朝ご飯出来てるから早く食べて奈央ちゃんの家に行くよ!」
「あいよ」
皆との旅行が楽しみ過ぎてテンションが上がっている亜美に急かされ、朝も早くから朝食だ。
まだ5時だぞ5時。
「亜美ちゃん……私まだ眠いよぅ」
「新幹線で寝れば大丈夫だよ! さあ、食べた食べた」
「んぐ……まだ胃が寝てるよぅ」
「食べれば起きるよ!」
と、俺や希望の意見は完全に無視である。
ちなみに集合は6時半だ。 慌てなくても余裕があるのだが、亜美は「早くしないと遅刻だよ!」と無駄に急いでいるのだった。
6時には荷物やペット達と共に一旦西條邸に集まる為に家を出発。
途中で宏太、奈々美、麻美ちゃんと合流するのはいつもの事だから割愛。
西條邸に着くと既に紗希ちゃん、遥ちゃん、渚ちゃんが待っており、11人全員が集合という事になる。
何だかんだ皆集合15分前には集まってしまった。
「おはようございます皆さん。 今日はこれから兵庫県は有馬温泉へと向かいます。 新幹線の旅になりますが荷物は必要な物だけ持って、着替え等の大きな荷物はこちらへ」
と、大きなトラックを指差してそう言う奈央ちゃん。
意味がわからず首を傾げていると、奈央ちゃんから説明が入った。
「大きな荷物を持っての移動は大変ですので、そういったものは空輸で今日宿泊予定の旅館に運ばせてもらいますわよー」
「何かすげー」
「さ、さすが西條先輩……荷物を空輸て……」
やる事はぶっ飛んではいるが、たしかに移動が楽にはなるのでありがたく利用させてもらう。
「マロンもお空から行く?」
「みゃう?!」
「冗談だよ」
どう考えても亜美の言葉を理解してるとしか思えない反応を見せる猫。 謎である。
幾分身軽になったところで、ぞろぞろと駅に向かい歩き出す集団。 朝も早くから賑やか且つ異様な光景である。
さて有馬温泉までの道のりだが、まずは東京駅まで出てそこから新幹線で約2時間かけて新神戸へ向かう。
そこからは例の如く、奈央ちゃんが用意した貸切観光バスにのり有馬温泉街へと移動する予定だ。
その後の予定は観光バス内で説明するとの事である。
駅に到着すると、通勤のサラリーマンが結構な数で電車の到着を待っていた。
盆連休明けでやる気が無さそうなのもちらほらと見受けられる。
「混雑しそうだなぁ」
「宏太はいつもこんなラッシュの中電車に乗って職場に行ってるの?」
「もうちょいマシだがな」
サラリーマンは大変だな。 いや、まあ俺も近い将来そうなるんだろうが。
ラッシュの人並みに混じり電車に乗り込む。 出来るだけ固まって行動したいところではあるが、ラッシュ時の人の壁というのは中々に堅固で、思うように身動きが取れない。 マロンは大丈夫だろうか? 本当に空輸の方が良かったんじゃないか?
「大丈夫だよマロン。 静かにねぇ」
と、手に持ったマロン入りのキャリーバッグに話しかける亜美。 それを聞いてかどうかは知らないが、バッグの中では鳴き声一つ上げずに大人しくしているマロンであった。
大きな駅を過ぎたところでようやく人が疎らになり、仲間達で一箇所に固まる事が出来た。
紗希ちゃんは、胸がおっさんの肘に当たって嫌だったなど文句をを言っていた。 まああんだけでかいとなぁ。 おっさんも今日は仕事が捗るだろうよ。
「電車での移動は失敗だったかしらねー? 飛行機でも良かったんだけど」
「はぅっ」
「うぐっ」
飛行機と聞いて固まる希望と渚ちゃん。 2人とも飛行機が苦手なのである。 2人は電車で良かったと小声で呟くのだった。
「マロン、良い子だったねぇ」
「みゃ」
「本当にな。 すげーなお前」
「みゃう」
常々思っていたんだが、こいつとんでもない天才猫なのでは無かろうか?
「バニラ達はちょっと怖がってたよぅ」
「ハムスターには辛い環境だったわね」
皆が連れて来ているハムスター達は、さすがにラッシュには耐えられなかったらしい。
にしても……。
「ハムスターいつの間にか増えてねぇか?」
以前にうちで産まれたハムスターを、それぞれが1匹ずつ持って帰ったはずなんだが、皆が連れて来たハムスターは2匹から3匹ずつに増えていた。
「繁殖させたのだー!」
「です」
なるほど納得。 バニラとパフェの血は脈々と受け継がれているようだ。
バニラとパフェはもう年だなぁ。 希望もいつ別れが来ても大丈夫なように覚悟は出来ているとの事。 チョコとクッキーがいてくれるから大丈夫だろう。
東京駅に到着し、ここからは新幹線での移動となる。
約2時間の旅路だ。
「はぅ……すー……すー」
早起きして眠いと言っていた希望は、新幹線に乗り座席に座るや眠りに入ってしまった。
相変わらず凄い奴だ。
「なははー。 マロン元気かー?」
「みゃーう」
亜美の膝の上のキャリーバッグの中から返事をする猫。 飼い主同様、旅行でテンションが上がっているらしい。 いつものお出かけとは何か違うという事は察しているのだろう。
麻美ちゃんの隣に座る渚ちゃんは、新幹線に乗るや受験勉強を始めている。 受験生である渚ちゃんはあまり成績がよろしくないと聞いている。
たまに亜美が家庭教師をしているみたいだが、その後どうなのだろうか?
「渚ー。 旅行中ぐらい勉強の事は忘れなよー」
「アホ! 私はあんたと違って余裕あらへんのや。 1秒も無駄に出来へん」
「渚ちゃん。 受験勉強は大事だけど、休む時はしっかり休まなきゃダメだよ。 家庭教師の私から見るに、この夏は少し力を抜いても七星大学なら何とかなるレベルではあるよ。 するなとは言わないけど、旅行中は程々で良いと思うよ」
「む、むう……清水先輩が言うなら」
「亜美先生に任せておけば間違い無いぞ月島」
「そうだぜー」
亜美先生の元生徒である宏太と遥ちゃんの言葉もあり、旅行中の受験勉強は程々に抑えることにしたらしい。 やはり旅行は楽しまないとな。
◆◇◆◇◆◇
新幹線に揺られる事約2時間。 俺達は新神戸へとやって来た。
「兵庫県だー」
「さて、ここからはバスで移動ですわよ」
「また豪華な観光バスなんでしょ?」
「普通よ普通」
紗希ちゃんの問いかけに普通だと答えた奈央ちゃんであったが、駅前に止まっていたバスはやはり普通ではない豪華な観光バスであった。
奈央ちゃんの中ではこれぐらいは普通に分類されるらしい。
「さあ、旅館まではあと少しよー。 バスに乗ってね」
お嬢様モードから素顔モードになりバスへ乗り込む奈央ちゃん。 最近はお嬢様モード持続時間も長くなってきたな。
俺達は順番に観光バスに乗り込み、適当に席に着く。
隣の席には当たり前のように亜美が座る。 今回も俺の隣の席争いは激化するのだろうか?
バスは旅館へ向けて走り出すのだった。
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