第733話 宏太の考え

 ☆夕也視点☆


 紗希ちゃん達に相談乗ってもらってから数日が過ぎたが、中々オリジナルデザインの案が浮かんでこない。

 やはり俺にはセンスが無いらしい。 デザイン案が出来なければ紗希ちゃんにデザインしてもらう事もできない。


「うーむ」


 パソコンの前で頭を抱えて悩みに悩むも、そんな事で浮かんでくるならこの数日ずっと悩んではいない。

 亜美に似合うデザインってどんなんだ? 亜美と言えばバレーボールだが、それを指輪に落とし込むとなると無理があるだろうし。


「あーダメだ! ちょっと考えるのをやめよう。 金が貯まるまでまだまだ時間もかかる。 長期計画なんだし一旦保留だ。 紗希ちゃんにも時間かかっていいと言われてるしな」


 少々煮詰まってきたし、考えるのは一旦休憩だ。


「しかし暇だな。 バイトまでまだ時間もあるし」


 亜美も希望も今日は講義に出ていていないし、遊び相手と言えばマロンぐらいか。


「そういや今日は宏太の奴休みだったな。 ふむ。 よし宏太のとこ行ってみるか」


 今日は仕事の休みだという宏太を出汁にして時間を潰すか。 それにあいつがプロポーズの事をどう考えているのか気になる。 そもそも考えてるんだろうか? 聞いてみてやろう。



 ◆◇◆◇◆◇



 というわけで宏太を呼び出し暇潰しがてら少し運動をする事に。 言ってもランニングだが。


「お前なぁ、暇なら1人で走れよなぁ。 俺はまだ取らなきゃいけない資格の勉強があんだよ」

「宏太のくせに勉強だと? 生意気な」

「ほっとけ。 仕事上あった方が良いんだよ」


 ペットシッターとして働き始めてもう3ヶ月程か。

 何だかんだ言いつつ頑張っているようだ。


「仕事はもう慣れたのかよ?」

「ん? ああ、何とかな。 同期は皆頑張ってら。 動物好きみたいだぜ。 ここだけの話、同期の子が可愛くてな! たまに昼飯とか一緒に食いに行くんだぜ」

「バレたら奈々美にぶん殴られるぞ」

「だからここだけの話だっつうの」


 まあ、こんな事言ってはいるが、こいつは公私の区別はしっかりとつける奴だから、仕事関係での付き合いってレベルだろう。 特に心配するような事は無い。

 むしろ宏太絡みで気になるのは、今テレビ等で大活躍中のトップアイドル、ゆりりんとの関係についてだ。 

 あれからどうなっているのだろうか?


「お前、ゆりりんとはどうなってんだ? まだ連絡のやりとりとかしてんのか?」

「ん? ああ、たまにな。 忙しい時はさすがに連絡は無いが。 こっちからはあんまり連絡しないな。 忙しい時だったら悪いし」

「そうか。 ゆりりんからあれからは特に何も?」

「ああ。 本当にあの子俺に惚れてんのか?」

「亜美と奈々美はそう言ってたが」


 以前その事でプチ騒動になったぐらいだし嘘ではないだろう。 やはりアイドルという立場上、スキャンダルや何やに敏感なんだろう。


「勿体無いよな。 奈々美さえいなけりゃ」

「奈々美にぶん殴られるぞ」

「聞かなかった事にしろ」


 聞いてしまったものは仕方がないよなぁ? まあ、チクるつもりもないが。 どうせ放っておいてもしょうもない事でぶん殴られるんだろうし。


「……なあ?」

「何だぁ?」

「宏太は奈々美へのプロポーズとか婚約指輪って考えてるのか?」

「ない」

「即答かよ」


 既に社会人として働いているし収入もあるが、まだまだ結婚する気はないらしい。


「大体、結婚するにしても奈々美の大学卒業を待たないとならんだろ。 まだ先だ。 それまで俺達の関係が続いているかどうかだってわからん」

「むう」


 宏太はまだまだ考えていないのか。 俺は気が早過ぎるんだろうか?


「何だ? 夕也はもう考えてんのか?」

「あ、あぁ」

「へぇ」

「亜美には言うなよ?」

「わーってるって。 で、どうするつもりなんだ?」

「まあ、金を貯めて指輪用意してって……普通なやり方だが」

「良いんじゃねぇか? 今から準備進めるのは」

「そ、そうか? なら良いんだが。 お前の話を聞いて、もしかしたらまだ早いんじゃないかと」

「別にんなことはねぇだろ。 タイミングなんて人それぞれだろ」

「だ、だよな」

「おう。 頑張れや」

「おう」


 

 ◆◇◆◇◆◇



 宏太との暇潰しで時間も潰せた後は、バイトへと赴く。 奈々美と大学の講義を終えて帰って来ていた希望も来ている。


「あ、夕也くん。 どこ行ってたの?」

「宏太とちょっとなぁ」

「宏太と? よっぽど暇だったのねあんた」

「まあな」


 ということでフロアに出て仕事開始だ。 この時間だと大学帰りの客がそこそこやって来るので、少々忙しくなる。 大学帰りの学生客の中には当然のように亜美も含まれている。


「また来たのか」

「うん。 フルーツパフェ」

「私はアイスコーヒーでお願いしますわ」

「僕もそれで」

「かしこまりました」


 今日は余裕もあるのか、奈央ちゃんと春人も一緒なようだ。 3人とも注文してくる物はいつも同じだ。

 一応は客と店員なので、他のお客さんがいる時は私語はしないようにしている。 家に帰れば嫌ほど話が出来るしな。


「あの子もよくまあ飽きないわよね?」

「亜美にとっちゃ白米みたいな物なんじゃないか?」

「なるほど」


 亜美のパフェ好きは小さな子供の頃から続いており、もはや主食と言っても過言ではない。

 パフェか。 パフェも指輪のデザインに盛り込むのは無理があるな。


「うーむ」

「何が『うーむ』よ?」

「いや、何でもねぇ」


 と、奈々美にはまだはぐらかしておく。 こいつも頼めば黙っていてはくれるだろうが、亜美に最も近しい人間だからな。 何かの拍子にポロッとこぼさないとも限らん。


「あらそう? 何か悩んでんなら相談しなさいよね」

「サンキューな」

「夕也くん、お悩み?」

「いや、大丈夫だ」


 希望は天然だから危険だ。 話すわけにはいかない。

 間違いなく簡単にバラしてしまう。


「そう? 本当に何かあったら相談してね」

「お、おう」


 それに、希望に対して亜美への婚約指輪の相談をする程空気の読めない奴ではない。


 そうだ。 希望や麻美ちゃん、渚ちゃんのこともその内何とかしなければならない。

 涙を流されるかもしれないが、それも覚悟せねばなるまい。


「夕也くん?」

「何でもない。 さて、働くぜ」

「うん」


 俺はフロアに出て接客を始めるのだった。



 ☆奈々美視点☆



「あれは何かあるわね」

「だよね」


 はぐらかすようにフロアへ向かう夕也を見ながら、希望と小声でやりとりする。 私達にも相談出来ないような何かがあるって事かしら。

 頼りにされていないか、信用されていないか。

 どちらにせよちょっとショックではある。


「何か悩みかな?」

「さあ? 話してくれない以上は何もわからないし」

「そうだよね」


 こうなったら今度大学でとっ捕まえて意地でも……。


「奈々美ちゃん、今度意地でも聞き出しとやろうって思ってる?」


 と、私の内心を見透かしたように訊いてくる希望。

 さすがに付き合いの長い幼馴染。 私の事をよく理解しているわ。


「ダメだよぅ? 夕也くんが私達に話さないって事は、話したくない事なんだから。 夕也くんが自分から話してくるまでそっとしておくこと。 いい?」


 と、希望に言われてしまっては頷くしかないのだった。

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