第734話 相談くらいは
☆奈々美視点☆
今日は午前から講義に出ている。 夕也も一緒だ。
というか私が基本的に夕也に合わせてるだけだけど。
あれよ。 気を遣わなくて良い友人がいると楽だからよ。 学部は違うけど、昼とかは一緒にいる事が多いわ。 私はバレー部があるからバイト以外の日はそこでお別れだけどね。
今日も今日とて夕也と昼を一緒に過ごしているわよ。
「それにしても、もう私と夕也が一緒に行動してても誰も何と言わなくなったわよね」
「大体お前のせいだろ」
「ま、そうだけど」
入学当初、色々な誘いが面倒くさかった為、夕也を恋人だと偽り断り続けていた。 次第に大学内では私と夕也はデキてるというのが共通認識となっていき今に至るというわけだ。
「おかげで男から言い寄られる頻度も減ったし、合コンとか男漁りに誘われる事も無くなり助かってるわよ」
「さよか」
亜美お手製の弁当を頬張りながら返事をする夕也。
最近、夕也は何かに悩んでいるらしく、たまに「むう」とか「うーむ」とか言いながら首を傾げている事がある。
何かあるなら相談に乗るとは言ったのだけど、何でもないの一点張り。
希望からは「夕也くんが話したくないなら無理に聞き出さない方が良い」と釘を刺された為、聞き出そうにも聞き出し辛い。
亜美にも聞いてみたところ「私も何も聞いてない」との事。 仲の良い私達に話せない悩みって一体何なのかしら? 気になって夜も眠れないわ。 あ、夜寝れない日があるのはいつも通りだったわ。
「……」
「ん? どうした奈々美? 悩みか?」
と、悩みの種になっている張本人から聞かれてしまう。
「ま、そんなとこ」
「何だ? 悩みなら相談に乗るぞ?」
夕也は悪気が無いんだろうけど、それが何か余計に腹立たしいわね。 あんたの悩みが気になって悩んでるんだっての。
と、言ってやりたい衝動に駆られつつも抑え込み、口をつぐんだ。
「大丈夫よ。 ありがと」
「そうか。 ま、俺じゃ頼りにならんよな」
「ふふ、そんなことはないわよ。 いざって時には頼りにしてるわよ、あんたも宏太も」
「ふむ」
そこまで訊かれたんだから私もちょっとぐらいはいいわよね? そう思い同じ質問を夕也に投げかけてみる。
「私の事は頼りないかしらね?」
「ん? いやまさか。 お前は頼りになるぞ。 困った時はよく相談してるだろ?」
「あらそうなのね」
そう言えばそうな気もする。 それなら何で今回に限っては何も相談してくれないのかしら? もしかして私の手にも負えないような大きな悩みを? それでもいいから相談ぐらいはしてほしいわよね。
「何でそんなことを訊くんだよ?」
「あんたが先に訊いてきたんでしょうが」
「あ、そうか」
「はぁ……」
「何だ? 結構重い悩みなのか?」
夕也は私の顔を覗き込んでそう訊いてきた。 誰のせいよ誰の。 私は頭を抱えて首を振る。
「大丈夫よ」
「本当か? 相談ぐらいはしてくれよな」
ピキピキッ……
こいつは次から次へと私の言いたい事を……。 わざとなのかしら? 何かだんだんと腹立ってきたわ。 あれ? でもこれって私の悩みを夕也に話すことで夕也から悩みを聞き出すことが出来るのでは?
これは別に無理矢理聞き出そうとしてるわけじゃなくて、悩みを相談するだけだだし良いわよね? 私って天才じゃない?
「じゃあ聞いてもらおうかしらねぇ? 私の悩み」
「な、何でちょっと怒り気味なんだよお前は?」
「うっさいわねぇ。 良いから聞きなさい」
「お、おう」
「実はさ、最近私の知り合いが何かに悩んでるらしくてね。 でもその人が私にその悩みを相談してくれなくて何かちょっとショックって言うかなんて言うか」
ここは敢えて夕也だという事は伏せる。
夕也は私の悩みを聞いて首を傾げた。
「悩み相談をされないのが悩み? 何か悩みと悩みが被って大変なことになってないか?」
「そうね」
「でもよ、悩んでるのがわかってるなら、お前から聞いてやれば良いじゃねぇか」
「でも、相手から相談してこないってことは、私には相談しにくい事なんじゃないかなって思わない?」
「まぁたしかに」
ここまで言ってもまだ自分の事だとは気付かないのねこいつ。 どうしたものかしら……この際夕也の事だって言っちゃう?
「俺も似たような悩み抱えてっからなぁ」
と、そう口にまで出す夕也。 やっぱ悩んでんじゃないのこいつ。
「そいつの気持ちもわからんでもないな、うむ」
いや、だからあんたのことだっつってんのよぉ!
「でも、同じような立場だからわかる。 たしかに今のタイミングでは相談しづらいかもしれねぇけど、時が来たらちゃんと話してくると思うぞ。 俺もそのつもりだしな」
「え? じゃあいつかは私や希望にも話してくれるつもりなわけ?」
「ん? 何の話だ? お前の知り合いの話じゃないのか?」
「あ……」
ついつい前のめりになってしまったわ。 夕也は首を傾げた後手をポンッと叩いて納得したような顔を見せる。
「その知り合いってもしかして俺か?」
「……そうよ」
私は顔を背けて頷く。
「そうか。 奈々美は俺のせいで悩んでたのか。 何かすまん。 わかった、お前には話しておくか」
「良いの?」
「ああ。 奈々美には話せないってわけじゃないからな。 ただちょっと心配事があっただけだ」
「心配事?」
「まあ、それは後で話すさ。 本題だがな、俺が悩んでるのは亜美に渡す指輪についての事なんだ」
と、夕也は自分の悩みを話し始めてくれた。 って……。
「ゆ、指輪?! それってもしかして?」
「まあ、その……プロポーズに使う婚約指輪的な」
と、頬を人差し指で搔きながらそう答えた夕也。 あ、亜美への婚約指輪で悩んでたのね。 いや、そりゃ悩むでしょうけど。
「私に話せなかった理由は、私から亜美に伝わるかもしれないって思ったのね?」
「まあ、信用してないわけじゃないんだが、何があるかわからないと思ってな」
「はあ、ま、しょうがないか」
バレちゃったら大変だものね。 亜美には秘密にしなきゃいけないって事か。 気を付けなきゃね。
そしてこれは希望や麻美、渚にもバレない方が良いって事よねきっと。
「で、何が悩みなの?」
「指輪をオリジナルデザインにして、奈央ちゃんに頼んで作ってもらえるってとこまでは決まってるんだが、中々デザイン案が浮かばなくてな。 紗希ちゃんも待たせてるんだが」
「私より先にその2人に相談したのね。 何か傷つくわね」
「悪かったって。 ただ、こういうことは紗希ちゃんが強いだろうと思ったんだよ」
「はいはい、そうですね」
それにしてもオリジナルデザインの指輪か。 まあ多分紗希の知恵でしょうけど。
「よし、それじゃあデザインの案出すの私も協力するわよ。 1人より2人ってね」
「頼む。 どうも俺1人だと限界があるみたいだ」
「あんたそういうセンスは無いものね。 私なら亜美の好みもある程度わかってるし、力になれると思うわよ」
「助かる」
「じゃあ、今度新拠点で色々と意見出し合いましょ」
「おう、頼りにしてるぜ奈々美」
「任せなさい」
なんとか夕也の悩みを聞けて私の悩みも解決。 これからは夕也に協力していくことになるわね。
あと問題なのは希望達の件か……夕也も覚悟決めたのかしら?
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