第720話 大好きだもの

 ☆夕也視点☆


 亜美達が大会を終えて帰ってきた。

 また賑やかな日々を過ごす事になりそうだ。

 というのも、あいつらの居ない間は静か過ぎて退屈だった。

 バイトがあったり麻美ちゃんと遊んだりはしたが、少し物足りないと感じていたところだ。


 そんな皆が帰って来た日曜日の夕方。

 いきなり奈央ちゃんに集合をかけられた俺達は、我が家の隣にある拠点、元清水宅に集まっている。



 ◆◇◆◇◆◇



「いらっしゃい皆」

「いらっしゃいじゃないわよ……東京から戻ってきてちょっと休もうと思ってたらいきなり集合って」

「そうだぜ……疲れてるのによー」

「ごめんなさいね。 別に来週でも良かったんだけど」


 バレーの大会から戻ってきた皆はさすがに疲れているみたいだな。

 亜美は苦笑いしながら話を聞いているし、希望にいたっては半分寝ている。


「私まで集合って一体どんな話よー?」


 奈央ちゃんの隣にはノートパソコンが置いてあり、その画面にはカメラ越しに紗希ちゃんが映っている。

 更には麻美ちゃんと渚ちゃんにまで声が掛かっていたらしく、全員がこの狭いリビングに集合している。


「さて、皆さん。 ここに集まって何か思う事は無いかしら?」

「別に何も?」

「強いて言えば狭いな」

「佐々木君! その通り!」


 ビシッと人差し指を宏太の方に向けてそう言う奈央ちゃん。

 人間が11人も集まりゃ大体の家はそうだろう。

 よく入ってるなぁといつも思う。


「何を今更……」

「あはは、それで? それがどうかしたの?」

「すぴー……」


 亜美がそう訊く傍で、希望は既に寝息をたてていた。

 もう話を聞く気力も残っていないらしい。

 さて、奈央ちゃんはというと、亜美に訊かれたことに対して応答を始める。


「実はね。 密かに土地を買って、私達の新しい拠点を建設していたんですが、先日それが完成したのよ」


 と、奈央ちゃんはとんでもない計画を口にする。

 俺達はしばらくの間、意味がわからずボケーッとしていたが……。


「えぇっ?!」

「はぅっ?! 何々?」


 皆して大声で驚き、ついでにその声に驚いた希望が目を覚ました。

 奈央ちゃんはパソコンを操作して何やら説明を始めた。

 プロジェクターとかまで持ち出してきて本格的だ。


「こほん。 では説明会を始めるわね」

「いきなりなんだね」


 話によると、かなり前から計画は水面下で進んでいたらしい。

 今回はそれが遂に完成したという事で説明会を開いたとの事。


「まずは場所ですが、駅の近くで工事中だった場所があるわよね」

「ありますね」


 駅前のマンスリーマンション在住の渚ちゃんが頷く。

 どうやらそこが新しい拠点となるらしい。 何か立派な建物が建設されていくなぁとは思っていたが、まさか自分達の拠点になるとは……。 立地も悪くないし良いのではなかろうか。


「結構広い土地だよね?」

「元々は駅前の駐輪場だったからねぇ。 放置自転車が増えて閉鎖になったんだっけ?」

「なはは。 近くに有料駐輪場出来たしねー」


 俺もあそこに自転車放置したことがあるなんて言えねぇな。

 しかしあれだけ広いと逆に持て余しそうな気もするが。


「間取りもあるわよー」


 プロジェクターから映し出された映像に目を向ける。

 奈央ちゃんはレーザーポインタで指し示しながら、順番に説明していく。


「玄関はまあ良いですわね。 玄関から入ってすぐ、右手側はお手洗い、浴室となります。 それなりの広さを取ったのでのんびり入浴できるわよ」

「どうせ皆で入れるとか言うんでしょ?」

「残念だけど入れても6人ぐらいだわ」


 何が残念なのかわからないぐらいに十分だと思うのだが。 亜美も「それだけの広さなら十分だよ」と苦笑いする。


「次に、左側はダイニングキッチンね」

「ねぇ、ちょっと待って」


 と、話を遮るのは奈々美。 何か質問があるようで挙手している。


「拠点って言ったわよね?」

「えぇ」

「お風呂やダイニングキッチンって、まるで共同生活でもするみたいな設備だけど?」


 と、もっともな疑問だ。 たしかに、拠点というだけなら最低限の設備と、皆が集まっても狭くない部屋があればそれだけで構わないはずだ。


「そうね。 たまには皆集まって寝泊まりしたり出来たら良いと思ってね。 ほら、皆で受験前にした共同生活楽しかったじゃない? 短期間でもああいうのが出来れば良いと思わない?」

「おお、良いねぇ」


 奈央ちゃんは色々と考えて拠点作りをしたようだ。

 2階には俺達用にそれぞれ部屋まで用意してあった。

 

「きゃははは。 奈央ってば皆な事どんだけ好きなのよ」


 パソコンの中で紗希ちゃんが笑う。 たしかに、よっぽど仲間を好きじゃないとここまではやらないだろう。

 大事に思ってくれているのはありがたい事だ。


「良いじゃないの。 私は皆の事が本当に大好きなんだもの。 こんな私と一緒にいてくれる最高の仲間よ」


 奈央ちゃんは恥ずかしげもなく恥ずかしいセリフを宣う。

 それを聞いた俺達の方が照れる程だ。

 


 他にも共同生活出来る最低限の部屋や設備があるということだ。


「凄いよぅ」

「てかよ、何でわざわざ黙ってたんだよ?」

「そうだぞー」


 宏太と遥ちゃんにそう言われた奈央ちゃんは「サプライズよサプライズ」とそう言った。

 サプライズの規模がデカ過ぎなんだよなぁ。

 奈央ちゃんは小さな胸を目一杯反らして威張っている。


「でも、それじゃあこの家はどうするの?」

「こちらはこちらで、今までと変わらずよ? 皆が好きな時に好きに使ってくれて良いわ」

「おお……」

「渚ー! 受験勉強はここでやるぞー」

「はいはい。 わかったがな」


「じゃあ新拠点の方は来週末にでも皆で見に行きましょうか?」

「そうだね。 東京から帰ってきた私達はちょっと疲れてるし」

「平日は皆、何だかんだ忙しいものね」


 大学にアルバイトと、皆それぞれやるべき事がある。

 皆で集まるのは来週の日曜日という事になった。


「私カメラ越しなんだけど?!」


 約1名を除き。



 ◆◇◆◇◆◇



 自宅へ戻ってきた俺達は、リビングで新拠点についての話をしていた。


「にしても、駅前のあれがそうだったとはね」

「驚きだよぅ」

「奈央ちゃんも良く口を滑らせなかったよな」


 普通はすぐにでも話したくなるものだろう。

 

「みゃ」

「マロンやハムちゃんの事まで考えてくれていたねぇ」


 ペット用の部屋まで完備しているとは思わなかった。

 元々は奈央ちゃんが飼っているトラ用の部屋だったらしいが、マロンにも開放するとの事。

 そもそも計画したのは2年前ぐらいらしいので、マロンの存在は無かったからな。

 しかし2年前からとは……。


「奈央ちゃんがやる事には毎回驚くけど、今回のは今までで一番だね」

「だな……」

「言ってみたら家をプレゼントされたみたいなものだもんね」


 と、希望が言うがなるほどしっくりくる。

 俺達は奈央ちゃんから家をプレゼントされたようなものらしい。

 こりゃ一生奈央ちゃんには頭が上がらないだろうな。


「新拠点楽しみだねぇ。 早く来週にならないかなぁ?」


 亜美は今から楽しみで仕方ないといった様子だった。

 ま、かくいう俺もなんだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る